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騙されない投資家4~外貨を持つことの意義

2022/02/21 08:27

Bloombergによれば、主要通貨(トルコリラは含みません)のなかで昨年1年間のパフォーマンスは「円が最弱」でした。そのため、円で外貨に投資して利益を出した投資家が多かったのではないでしょうか。一方で、急激なリスクオフが起こった20年春のコロナ・ショック時、例えば2月20日から3月9日には急激な円高が起こり、多くの投資家が「ヤラレタ」はずです。

以下では、中長期の資産運用としての外貨投資を考察しています。オリジナルは18年8月のマイナビニュースへの投稿です。

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騙されない投資家になるために・・・。投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。

1月25日付け「安全な投資はない」
2月8日付け「リスクとリターンの関係」
2月9日付け「リスクオンとリスクオフ」

外貨を持つことの意義

 米ドル円の相場は10年後にいくらになっていると思いますか。1ドル50円かもしれないし、1ドル200円かもしれない。あるいは現在とほとんど変わらず1ドル115円かもしれません。私にも分かりません。

 はっきりしているのは、10年後に1ドルが50円となるようなドル安円高が今後に起こる可能性は「ゼロ」ではないということです。同様に、1ドルが200円となるようなドル高円安になる可能性も完全には否定できません。

結局のところ、1985年5月に1ドルが250円だった時に、その10年後の95年4月に1ドルが80円になると予想できた人はまずいなかったはずです。さらに、それからわずか3年後の98年8月に1ドルが147円をつけると予想できた人もほとんどいなかったでしょう。

「円安」になる未来
では、10年後に1ドルが200円になるとすれば、皆さんはどうしますか。

円で給料をもらい、円で生活しているので、海外旅行や海外の通販を利用する場合を除いて為替相場は特に気にならないかもしれません。しかし、そうであったとしても皆さんが為替相場の影響を受けないわけではありません。

日本のエネルギー自給率は10%未満、食料自給率(カロリーベース)は4割未満です。言い換えれば、エネルギーの9割以上、食料の6割以上を輸入に依存しています。したがって、大幅な円安になれば、エネルギー価格や食料価格が高騰して、たちまちにして皆さんの生活が打撃を受けることになりかねません。

また、円安で輸入品の価格が上昇し、その影響で国内の物価も上昇すれば、預貯金なども実質目減りすることになりかねません。「国内物価の上昇」=「円の購買力の低下」だからです。

そうした場合、ドルなどの外貨を持っていれば、生活費の上昇や預貯金の目減りをある程度吸収することができるはずです。つまり、生活防衛や資産防衛の観点から、外貨を持つことに意味があるのです。
 
 1970年代に始まった変動相場制の歴史は、基本的に対ドルを中心とした円高の歴史でもありました。多くの方が外貨に対してアレルギーがあるのも理解できます。しかし、今後も基本的なトレンドが「円高」となる保証はありません。少子高齢化によって、経済力の低下、財政危機、経常収支の赤字化などがもたらされる可能性を考えると、円高になるより円安になる未来の方が現実味があるように私には思えます。

「円高」になる未来
もちろん、わが国が移民政策の大転換などによって少子高齢化を克服し、財政危機も回避。経済のスーパーパワーとしての輝きを取り戻せば、円高になるという未来もありえます。全く別のシナリオでは、2000年代のようなデフレの時代に逆戻りして、円高になるかもしれません(デフレはインフレと逆に購買力平価の観点から円高要因です)。

円高になれば、保有外貨に損失が発生します。したがって、「円安になる」と決め打ちして可能な限りの外貨を持つというもまた危険です。生活の基盤が円であることを考えれば、資産の2割ないし3割程度を外貨にすればよいのかもしれません。10年後、あるいはもっと先に保有外貨が「虎の子」の資産になっているかもしれません。

外貨保有は一種の分散投資
要するに、将来がどうなるか分からないから、円高になっても、円安になっても困らないように資産を複数通貨に分けるということです。これもある意味で「分散投資」なのです。

言い換えれば、外貨を持たないということは、資産の100%を円に投資することです。資産を円という一つの「カゴ」に入れているので、円安になると「卵」が全部割れるのです。

「外貨投資」と言えば、高いリターンを求めて為替リスクを積極的に取るというイメージがあるかもしれません。しかし、中長期の資産運用という観点からは、円しか持たないリスクを分散する「守り」の投資という面があります。

なお、FX(外国為替証拠金取引)などでは、外貨売り円買いのポジションを持つことも可能です。外貨安円高を予想するのであれば、そうした投資も「アリ」でしょう。ただし、上述した中長期の資産運用の観点からは「ナシ」です。なぜなら、外貨売り円買いのポジションを持つことは、保有する資産以上の円のリスクを抱えるということであり、「リスク分散」とは真逆の「リスク集中」を行っているからです。

執筆者プロフィール
西田 明弘(にしだ あきひろ)
チーフエコノミスト
日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガンスタンレー証券などを経て、2012年マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。
米国を中心とした各国のマクロ経済・金融政策・政治動向の分析に携わる。
「アナリスト、ストラテジスト、エコノミスト、研究員と呼び名は変われども、30年以上一貫してリサーチ業務を行ってきました。長い経験を通じて学んだことは、金融市場では何が起きても不思議ではないということ。その経験を少しでも皆さんと共有したいと思います。

西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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