騙されない投資家3~リスクオンとリスクオフ
2022/02/09 07:57
ウクライナ情勢、台湾海峡問題、北朝鮮のミサイル発射、イランの核開発・・・いわゆる地政学リスクは枚挙に暇がありません。また、高インフレそのものが経済にとってのリスクだし、主要中央銀行が強力な金融緩和を巻き戻しつつあるなか、高値圏で推移する株価は大幅に下落するリスクを抱えていると言えるかもしれません。今回はリスクオンとリクスオフについて解説します。
1月25日付け「安全な投資はない!」
2月8日付け「リスクとリターンの関係」
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騙されない投資家になるために・・・。投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。
リスクオンとリスクオフ
前回「リスクとリターンの関係」を説明しました。高いリスク(将来の価格変動)を許容するならば、相応に高いリターン(収益)を期待することができ、逆にリスクを嫌うならば、低いリターンで我慢しなければならないということでした。どの程度のリスクを取って、どの程度のリターンを目指すかは投資家それぞれで異なります。
ただし、金融市場全体のムードがハイリスク・ハイリターンに傾く時と、逆にローリスク・ローリターンに傾く時があります。前者は「リスクオン」、言い換えれば「リスク選好」であり、後者は「リスクオフ」、「リスク回避」のことです。
リスクオンの投資行動
リスクオンでは、「おカネを何に投資すれば儲かるか」が金融市場のメインテーマです。大雑把に言うと、大きく損をする可能性はあるが、大きく儲かる可能性もあるならば、その投資は実行されます。具体的には、株、原油や銅などの国際商品が買われます。また、債券は全般に敬遠されがちですが、その中では格付けの低いものが買われます。通貨で言えば、南アフリカランドなどの新興国通貨や豪ドル、NZドルなどの資源国通貨が買われます。
リスクオフの投資行動
逆に、リスクオフでは、「おカネをどこに置けば安全か」がメインテーマです。上述のリスクの大きい投資は見送られ、大きく儲かる可能性は低いが、大きく損をする可能性も低い投資が実行されます。具体的には、安全性が高いとされる主要国の国債や、流動性の高い(取引量が多く、すぐに換金できる)短期金融商品などが買われます。通貨で言えば、主要国通貨、とりわけ米ドルが買われ、強いリスクオフでは米ドル以上に円が買われます。
金融市場の常態はリスクオン
リスクオフには、もう一つの特徴があります。それは、リスクオンの局面で実行された投資が巻き戻される、いわゆるポジションが手仕舞われるという点です。この点を敢えて指摘するのは、程度の差はあるものの金融市場のノーマルな状態はリスクオンだからです。投資家がリターンを求めてリスクを取ってきたからこそ、金融市場は発展してきたのです。
リスクオフはノーマルでない状態です。投資家が想定していない、予期していないイベントが発生するから、驚いた投資家は安全とみなせる資産へと資金を移します(「質への逃避」と呼びます)。そうしたイベントの典型的なものが「〇〇ショック」と呼ばれるものです。
リスクオフは突然に、リスクオンはゆっくりと
投資家が虚を突かれるので、リスクオフは突然にやってきます。2016年の英国の国民投票(EU離脱決定)や米国の大統領選挙(トランプ候補の勝利)のように、イベントの期日が決まっており、それに向けて投資家の不安感がジリジリと高まるというケースもありますが、それらはむしろ例外と言えるでしょう。
そして、傷が癒えるのと同じように、リスクオンに戻るには時間がかかります。ただし、いずれはリスクオンに戻ると考えるべきです。リスクオフから徐々にリスクオンに戻りつつあることを確認してから、投資を実行しても遅くはないかもしれません。
強いリスクオフで「値ごろ感」は危険
強いリスクオフでは流動性の低い(取引量の少ない)資産にはなかなか買い手が現れません。買い手不在の中で相場が際限なく下がるケースも珍しくありません。したがって、「もうこれだけ下がったから」あるいは「最近の安値を下回ってきたから」といった値ごろ感で投資を行うべきではないでしょう。
VIX指数とは
市場のリスクオンやリスクオフを判断するものとしてVIX指数があります。「恐怖指数」とも呼ばれるVIX指数は、米国の主要株価指数であるS&P500のオプションを基に算出される予想変動率のことです。先行きの変動が大きいと予想する時ほど投資家は不安になります。したがって、VIX指数は、低いほどリスクオンが強く、高いほどリスクオフが強いことを示します。
VIX指数は、米国の、それも株価の指標ですが、世界中の投資家が注目していることから金融市場全体における投資家心理の目安となります。
1月25日付け「安全な投資はない!」
2月8日付け「リスクとリターンの関係」
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騙されない投資家になるために・・・。投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。
リスクオンとリスクオフ
前回「リスクとリターンの関係」を説明しました。高いリスク(将来の価格変動)を許容するならば、相応に高いリターン(収益)を期待することができ、逆にリスクを嫌うならば、低いリターンで我慢しなければならないということでした。どの程度のリスクを取って、どの程度のリターンを目指すかは投資家それぞれで異なります。
ただし、金融市場全体のムードがハイリスク・ハイリターンに傾く時と、逆にローリスク・ローリターンに傾く時があります。前者は「リスクオン」、言い換えれば「リスク選好」であり、後者は「リスクオフ」、「リスク回避」のことです。
リスクオンの投資行動
リスクオンでは、「おカネを何に投資すれば儲かるか」が金融市場のメインテーマです。大雑把に言うと、大きく損をする可能性はあるが、大きく儲かる可能性もあるならば、その投資は実行されます。具体的には、株、原油や銅などの国際商品が買われます。また、債券は全般に敬遠されがちですが、その中では格付けの低いものが買われます。通貨で言えば、南アフリカランドなどの新興国通貨や豪ドル、NZドルなどの資源国通貨が買われます。
リスクオフの投資行動
逆に、リスクオフでは、「おカネをどこに置けば安全か」がメインテーマです。上述のリスクの大きい投資は見送られ、大きく儲かる可能性は低いが、大きく損をする可能性も低い投資が実行されます。具体的には、安全性が高いとされる主要国の国債や、流動性の高い(取引量が多く、すぐに換金できる)短期金融商品などが買われます。通貨で言えば、主要国通貨、とりわけ米ドルが買われ、強いリスクオフでは米ドル以上に円が買われます。
金融市場の常態はリスクオン
リスクオフには、もう一つの特徴があります。それは、リスクオンの局面で実行された投資が巻き戻される、いわゆるポジションが手仕舞われるという点です。この点を敢えて指摘するのは、程度の差はあるものの金融市場のノーマルな状態はリスクオンだからです。投資家がリターンを求めてリスクを取ってきたからこそ、金融市場は発展してきたのです。
リスクオフはノーマルでない状態です。投資家が想定していない、予期していないイベントが発生するから、驚いた投資家は安全とみなせる資産へと資金を移します(「質への逃避」と呼びます)。そうしたイベントの典型的なものが「〇〇ショック」と呼ばれるものです。
リスクオフは突然に、リスクオンはゆっくりと
投資家が虚を突かれるので、リスクオフは突然にやってきます。2016年の英国の国民投票(EU離脱決定)や米国の大統領選挙(トランプ候補の勝利)のように、イベントの期日が決まっており、それに向けて投資家の不安感がジリジリと高まるというケースもありますが、それらはむしろ例外と言えるでしょう。
そして、傷が癒えるのと同じように、リスクオンに戻るには時間がかかります。ただし、いずれはリスクオンに戻ると考えるべきです。リスクオフから徐々にリスクオンに戻りつつあることを確認してから、投資を実行しても遅くはないかもしれません。
強いリスクオフで「値ごろ感」は危険
強いリスクオフでは流動性の低い(取引量の少ない)資産にはなかなか買い手が現れません。買い手不在の中で相場が際限なく下がるケースも珍しくありません。したがって、「もうこれだけ下がったから」あるいは「最近の安値を下回ってきたから」といった値ごろ感で投資を行うべきではないでしょう。
VIX指数とは
市場のリスクオンやリスクオフを判断するものとしてVIX指数があります。「恐怖指数」とも呼ばれるVIX指数は、米国の主要株価指数であるS&P500のオプションを基に算出される予想変動率のことです。先行きの変動が大きいと予想する時ほど投資家は不安になります。したがって、VIX指数は、低いほどリスクオンが強く、高いほどリスクオフが強いことを示します。
VIX指数は、米国の、それも株価の指標ですが、世界中の投資家が注目していることから金融市場全体における投資家心理の目安となります。
執筆者プロフィール
西田 明弘(にしだ あきひろ)
チーフエコノミスト
日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガンスタンレー証券などを経て、2012年マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。
米国を中心とした各国のマクロ経済・金融政策・政治動向の分析に携わる。
「アナリスト、ストラテジスト、エコノミスト、研究員と呼び名は変われども、30年以上一貫してリサーチ業務を行ってきました。長い経験を通じて学んだことは、金融市場では何が起きても不思議ではないということ。その経験を少しでも皆さんと共有したいと思います。
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