騙されない投資家2~リスクとリターンの関係
2022/02/08 07:47
2018年7月から19年11月まで55回にわたって、マイナビニュースに「騙されない投資家になるために」というコラムを連載いたしました(アーカイブは現在でも閲覧可能です)。その中から厳選したものを、データをアップデートするなど加筆・修正して、不定期でお届けします。
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投資の初心者の方で、十分に説明を聞いて投資をしたのに、思わぬ損失が出て「騙された!」と感じたことはありませんか。でも、金融商品の正しい知識を持っていれば、そうした事態は避けられたかもしれません。そこで、投資の初心者が知っておくべきこと、誤解しやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。
1月25日付け「安全な投資はない!」もご覧ください。
リスクとリターンの関係
前回の「安全な投資はない!」で、「安全性の差は、それぞれの金融商品に期待される『将来得られるであろう収益』の差にかなり反映されていると考えるべき」というお話しをしました。この「安全性」は金融市場ではリスクという言葉で置き換えることができます。ただし、リスクを「危険」と訳すと誤解を生むかもしれません。
リスクとは、第1回で言及した「将来得られるであろう収益」のブレの大きさを指します。簡単に言えば、大きく儲かる可能性があり、大きく損をする可能性もある金融商品に対する投資は「リスクが大きい」と言います。逆に、儲かるとしても小さく、損をするとしても小さい金融商品への投資は、「リスクが小さい」です。
そして、リスクの大きい金融商品に期待できるリターン(=収益)の平均値は、リスクの小さい商品のそれを上回ります。前者がハイリスク・ハイリターン、後者がローリスク・ローリターンです。リスクとリターンはトレードオフの関係にあるので(※1)、ローリスク・ハイリターン、あるいはハイリスク・ローリターンの金融商品は「理論上」存在しません(※2)。
(※1)トレードオフの関係になるように、市場で価格形成が行われると言った方が適切かもしれません。
(※2)後述する宝くじや競馬の馬券はハイリスク・ローリターンですが、金融商品ではありません。
したがって、安全性を謳いつつ高いリターンを期待させる金融商品の広告があるとすれば、どこかに「ウソ」が潜んでいると警戒すべきです。他方、仮にハイリスク・ローリターンの金融商品があったとしても、投資家は見向きもしないでしょう。
リスクとリターンを説明するために、ごく単純化した例をみてみましょう。
金融商品(A)に100万円を投資すると、1年後に50%の確率で115万円に、50%の確率で95万円になるとします。1年後の期待値は105万円で、期待リターンは5%です。
金融商品(B)に100万円を投資すると、1年後に50%の確率で150万円に、50%の確率で60万円になるとします。1年後の期待値は105万円で、期待リターンは5%です。
この時、合理的な投資家は(A)を選択します。期待リターンが同じであれば、リスク(=リターンのブレ)の小さい方を選ぶからです。
なお、1年後に借金150万円の期限が到来する等の理由で、なんとしてでも150万円を作らないといけない人は、(B)を選択するかもしれません。仮に、150万円になる確率が50%を大きく下回っていても、他に方法がなければ、「イチかバチか」で(B)を選択するかもしれません。そうした行動は合理的な投資ではなく、ギャンブルです。
さて、先ほどの話の続きです。
金融商品(C)に100万円を投資すると、1年後に50%の確率で150万円に、50%の確率で66万円になるとします。1年後の期待値は108万円で、期待リターンは8%です。
(A)と(C)を比較して、合理的な投資家はどちらを選択するでしょうか。その答えは「どっちもあり」です。
資金に余裕があって、大きく損をしても「仕方がない」と諦められる投資家は(C)を選択するかもしれません。その投資家は3%の超過リターン(8%-5%)を得るために、大きく損をする可能性を受け入れるので、リスク許容度の高い投資家と呼びます。リスク許容度が低い投資家は、3%の超過リターンを諦めて(A)を選択するでしょう。
もっとも、現実は上の例ほど単純ではありません。さまざまなリターンの可能性があり、それらが起こる確率は分かりません。全ての投資家が同じように予想するわけでもないでしょう。何らかの根拠があって、投資家がある金融商品は市場の予想に比べてリターンが大きい、あるいはリスクが小さいと信じるかもしれません。
ただし、金融商品の価格には、その時点での市場の平均的な予想が織り込まれていると考えるべきです。投資家が、市場を出し抜く「何らかの根拠」を持っていると考えるのは単なる思い上がりかもしれません。
宝くじファンドと競馬ファンド
合理的な投資家は、基本的に期待リターンがマイナス(=損)の金融商品には投資しません。宝くじの還元率(総売り上げのうち、賞金として分配されるおカネの比率)は50%未満です。競馬でも75%程度に過ぎません。つまり、宝くじの期待リターンはマイナス50%超、競馬は同じくマイナス25%です。ちなみに、ラスベガスのスロットマシーンには還元率が90%台半ばのものもあるそうですが、それでも期待リターンはマイナスです。
したがって、当たりくじや当たり馬券が含まれそうな巨大な宝くじファンドや競馬ファンド(※)があったとしても、合理的な投資の対象にはなり得ません。
(※)獲得賞金に期待して競走馬に投資する競走馬ファンドは、実際に存在するようです。
それでも人々が宝くじを買うのは、当たるかもしれないというドキドキ感や夢を買っているからであり、(宝くじの売り上げの一部が)社会に貢献しているという満足感も影響しているかもしれません。また、馬券を買うのはドキドキ感に加えて、他人よりも自身の分析力が優れているという(誤った?)自負を持っているからでしょう。
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投資の初心者の方で、十分に説明を聞いて投資をしたのに、思わぬ損失が出て「騙された!」と感じたことはありませんか。でも、金融商品の正しい知識を持っていれば、そうした事態は避けられたかもしれません。そこで、投資の初心者が知っておくべきこと、誤解しやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。
1月25日付け「安全な投資はない!」もご覧ください。
リスクとリターンの関係
前回の「安全な投資はない!」で、「安全性の差は、それぞれの金融商品に期待される『将来得られるであろう収益』の差にかなり反映されていると考えるべき」というお話しをしました。この「安全性」は金融市場ではリスクという言葉で置き換えることができます。ただし、リスクを「危険」と訳すと誤解を生むかもしれません。
リスクとは、第1回で言及した「将来得られるであろう収益」のブレの大きさを指します。簡単に言えば、大きく儲かる可能性があり、大きく損をする可能性もある金融商品に対する投資は「リスクが大きい」と言います。逆に、儲かるとしても小さく、損をするとしても小さい金融商品への投資は、「リスクが小さい」です。
そして、リスクの大きい金融商品に期待できるリターン(=収益)の平均値は、リスクの小さい商品のそれを上回ります。前者がハイリスク・ハイリターン、後者がローリスク・ローリターンです。リスクとリターンはトレードオフの関係にあるので(※1)、ローリスク・ハイリターン、あるいはハイリスク・ローリターンの金融商品は「理論上」存在しません(※2)。
(※1)トレードオフの関係になるように、市場で価格形成が行われると言った方が適切かもしれません。
(※2)後述する宝くじや競馬の馬券はハイリスク・ローリターンですが、金融商品ではありません。
したがって、安全性を謳いつつ高いリターンを期待させる金融商品の広告があるとすれば、どこかに「ウソ」が潜んでいると警戒すべきです。他方、仮にハイリスク・ローリターンの金融商品があったとしても、投資家は見向きもしないでしょう。
リスクとリターンを説明するために、ごく単純化した例をみてみましょう。
金融商品(A)に100万円を投資すると、1年後に50%の確率で115万円に、50%の確率で95万円になるとします。1年後の期待値は105万円で、期待リターンは5%です。
金融商品(B)に100万円を投資すると、1年後に50%の確率で150万円に、50%の確率で60万円になるとします。1年後の期待値は105万円で、期待リターンは5%です。
この時、合理的な投資家は(A)を選択します。期待リターンが同じであれば、リスク(=リターンのブレ)の小さい方を選ぶからです。
なお、1年後に借金150万円の期限が到来する等の理由で、なんとしてでも150万円を作らないといけない人は、(B)を選択するかもしれません。仮に、150万円になる確率が50%を大きく下回っていても、他に方法がなければ、「イチかバチか」で(B)を選択するかもしれません。そうした行動は合理的な投資ではなく、ギャンブルです。
さて、先ほどの話の続きです。
金融商品(C)に100万円を投資すると、1年後に50%の確率で150万円に、50%の確率で66万円になるとします。1年後の期待値は108万円で、期待リターンは8%です。
(A)と(C)を比較して、合理的な投資家はどちらを選択するでしょうか。その答えは「どっちもあり」です。
資金に余裕があって、大きく損をしても「仕方がない」と諦められる投資家は(C)を選択するかもしれません。その投資家は3%の超過リターン(8%-5%)を得るために、大きく損をする可能性を受け入れるので、リスク許容度の高い投資家と呼びます。リスク許容度が低い投資家は、3%の超過リターンを諦めて(A)を選択するでしょう。
もっとも、現実は上の例ほど単純ではありません。さまざまなリターンの可能性があり、それらが起こる確率は分かりません。全ての投資家が同じように予想するわけでもないでしょう。何らかの根拠があって、投資家がある金融商品は市場の予想に比べてリターンが大きい、あるいはリスクが小さいと信じるかもしれません。
ただし、金融商品の価格には、その時点での市場の平均的な予想が織り込まれていると考えるべきです。投資家が、市場を出し抜く「何らかの根拠」を持っていると考えるのは単なる思い上がりかもしれません。
宝くじファンドと競馬ファンド
合理的な投資家は、基本的に期待リターンがマイナス(=損)の金融商品には投資しません。宝くじの還元率(総売り上げのうち、賞金として分配されるおカネの比率)は50%未満です。競馬でも75%程度に過ぎません。つまり、宝くじの期待リターンはマイナス50%超、競馬は同じくマイナス25%です。ちなみに、ラスベガスのスロットマシーンには還元率が90%台半ばのものもあるそうですが、それでも期待リターンはマイナスです。
したがって、当たりくじや当たり馬券が含まれそうな巨大な宝くじファンドや競馬ファンド(※)があったとしても、合理的な投資の対象にはなり得ません。
(※)獲得賞金に期待して競走馬に投資する競走馬ファンドは、実際に存在するようです。
それでも人々が宝くじを買うのは、当たるかもしれないというドキドキ感や夢を買っているからであり、(宝くじの売り上げの一部が)社会に貢献しているという満足感も影響しているかもしれません。また、馬券を買うのはドキドキ感に加えて、他人よりも自身の分析力が優れているという(誤った?)自負を持っているからでしょう。
執筆者プロフィール
西田 明弘(にしだ あきひろ)
チーフエコノミスト
日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガンスタンレー証券などを経て、2012年マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。
米国を中心とした各国のマクロ経済・金融政策・政治動向の分析に携わる。
「アナリスト、ストラテジスト、エコノミスト、研究員と呼び名は変われども、30年以上一貫してリサーチ業務を行ってきました。長い経験を通じて学んだことは、金融市場では何が起きても不思議ではないということ。その経験を少しでも皆さんと共有したいと思います。
- 当レポートは、情報提供を目的としたものであり、特定の商品の推奨あるいは特定の取引の勧誘を目的としたものではありません。
- 当レポートに記載する相場見通しや売買戦略は、ファンダメンタルズ分析やテクニカル分析などを用いた執筆者個人の判断に基づくものであり、予告なく変更になる場合があります。また、相場の行方を保証するものではありません。お取引はご自身で判断いただきますようお願いいたします。
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