騙されない投資家6~良い金利上昇と悪い金利上昇
2023/02/10 07:49
2018年7月から19年11月まで55回にわたって、マイナビニュースに「騙されない投資家になるために」というコラムを連載いたしました。その中から厳選したものを、データをアップデートするなど加筆・修正して、不定期でお届けします。
※22年1‐2月に本欄に5回掲載して、その後ストップしていましたが、再開いたします。
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騙されない投資家になるために・・・。投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。今回は、金利の上昇についてです。
さて、質問です。
「ある国の金利が上昇していますが、その国の通貨はどうなっているでしょうか」
※ここで「上昇」とは他の国に比べて上昇しているという意味で使っています。
答えは・・・
「上昇している場合もあるが、下落している場合もある」
当たり前すぎる回答ですね。昨年の3月から10月までは米国の金利が上昇を続け、米ドルは堅調でした。しかし、英国では9月下旬に金利が急騰するとともに英ポンドが大きく下落しました。前者は「良い金利上昇」、後者は「悪い金利上昇」と判断できます。もう少し詳しく説明しましょう。
金利上昇とは
まず、ここでいう「金利」とは市場金利であり、国債利回りのことです。主に、長期金利=10年物国債利回りを指します。市場で売買される際に国債の利回り(金利)と価格は正反対の関係にあります。金利が上がれば価格は下がり、金利が下がれば価格は上がります。
良い金利上昇
さて、「良い金利上昇」は、景気が良好で企業や個人が借り入れを積極的に行う場合に起こります。金利はおカネを借りる際の料金とも言えるからです。
こうした状況下では中央銀行も利上げを行うので、政策金利(短期金利)も上昇しています。そして、景気が良好で高金利なので、外国から投資資金が流入し、自国通貨は上昇します。
金利上昇は株価にとって、バリュエーション(評価)の面からはマイナスです。金利上昇により国債が割安になり、株式から国債に資金が流れやすくなるからです。借り入れによって株式投資を行うハードルが高くなるとも言えます。
ただし、「良い金利上昇」のケースでは景気が良好で企業収益に対する期待が高まるので、株価はさほど下落圧力を受けないかもしれません。
悪い金利上昇
一方、「悪い金利上昇」は、景気は低迷していても、インフレが高まって国債の魅力が低下する、あるいは財政赤字が拡大して国債発行額が増えるなどの場合に起こります。
国債に対する需要が低下する一方で、供給が増大するから、国債の価格は下落します。こうした状況下では、外国からの投資資金はあまり積極的に流入しないか、あるいは逃げ出すので、自国通貨は下落します。
また、企業収益に対する期待が高まらないなかで、金利が上昇するため、株価には下落圧力が加わります。
上述の昨年9月の英国のケースでは、就任したばかりのトラス首相が大幅な減税を提案する一方で、その財源を明確に示すことができませんでした。市場は、財政赤字の拡大を強く懸念し、株安・債券安(金利高)・英ポンド安のトリプル安が起こったのでした。その結果、トラス首相が辞任を余儀なくされ、スナク元財務大臣が新しく首相に就任したことで、トリプル安は収まりました。
日本の金利上昇は?
ところで、日本では、日銀が国債の大量購入を続けており、長期金利をゼロ%近辺に誘導しています。そのため、長期金利はほとんど動かなかったのですが、昨年12月に日銀が長期金利の許容変動レンジを拡大し、長期金利はその上限である0.50%近辺に張り付いています。
今後、日銀は大規模な金融緩和を修正するとともに、長期金利の許容変動レンジを再拡大する、あるいは誘導目標(ゼロ%)そのものを引き上げたり、撤廃したりする可能性が高そうです。その場合、長期金利は上昇するでしょうが、その時に円はどうなるでしょうか。
現在、市場では「長期金利上昇⇒円高」との観測が主流のようです。初期反応はその通りかもしれません。しかし、日本の巨額の財政赤字・政府債務を考えれば、長期金利が上昇を続けても、円高が続くと限らないでしょう。
22年1月25日付け「安全な投資はない」
22年2月8日付け「リスクとリターンの関係」
22年2月9日付け「リスクオンとリスクオフ」
22年2月21日付け「外貨を持つことの意義」
22年2月22日付け「外貨投資は資産運用に不向きか」
※22年1‐2月に本欄に5回掲載して、その後ストップしていましたが、再開いたします。
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騙されない投資家になるために・・・。投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。今回は、金利の上昇についてです。
さて、質問です。
「ある国の金利が上昇していますが、その国の通貨はどうなっているでしょうか」
※ここで「上昇」とは他の国に比べて上昇しているという意味で使っています。
答えは・・・
「上昇している場合もあるが、下落している場合もある」
当たり前すぎる回答ですね。昨年の3月から10月までは米国の金利が上昇を続け、米ドルは堅調でした。しかし、英国では9月下旬に金利が急騰するとともに英ポンドが大きく下落しました。前者は「良い金利上昇」、後者は「悪い金利上昇」と判断できます。もう少し詳しく説明しましょう。
金利上昇とは
まず、ここでいう「金利」とは市場金利であり、国債利回りのことです。主に、長期金利=10年物国債利回りを指します。市場で売買される際に国債の利回り(金利)と価格は正反対の関係にあります。金利が上がれば価格は下がり、金利が下がれば価格は上がります。
良い金利上昇
さて、「良い金利上昇」は、景気が良好で企業や個人が借り入れを積極的に行う場合に起こります。金利はおカネを借りる際の料金とも言えるからです。
こうした状況下では中央銀行も利上げを行うので、政策金利(短期金利)も上昇しています。そして、景気が良好で高金利なので、外国から投資資金が流入し、自国通貨は上昇します。
金利上昇は株価にとって、バリュエーション(評価)の面からはマイナスです。金利上昇により国債が割安になり、株式から国債に資金が流れやすくなるからです。借り入れによって株式投資を行うハードルが高くなるとも言えます。
ただし、「良い金利上昇」のケースでは景気が良好で企業収益に対する期待が高まるので、株価はさほど下落圧力を受けないかもしれません。
悪い金利上昇
一方、「悪い金利上昇」は、景気は低迷していても、インフレが高まって国債の魅力が低下する、あるいは財政赤字が拡大して国債発行額が増えるなどの場合に起こります。
国債に対する需要が低下する一方で、供給が増大するから、国債の価格は下落します。こうした状況下では、外国からの投資資金はあまり積極的に流入しないか、あるいは逃げ出すので、自国通貨は下落します。
また、企業収益に対する期待が高まらないなかで、金利が上昇するため、株価には下落圧力が加わります。
上述の昨年9月の英国のケースでは、就任したばかりのトラス首相が大幅な減税を提案する一方で、その財源を明確に示すことができませんでした。市場は、財政赤字の拡大を強く懸念し、株安・債券安(金利高)・英ポンド安のトリプル安が起こったのでした。その結果、トラス首相が辞任を余儀なくされ、スナク元財務大臣が新しく首相に就任したことで、トリプル安は収まりました。
日本の金利上昇は?
ところで、日本では、日銀が国債の大量購入を続けており、長期金利をゼロ%近辺に誘導しています。そのため、長期金利はほとんど動かなかったのですが、昨年12月に日銀が長期金利の許容変動レンジを拡大し、長期金利はその上限である0.50%近辺に張り付いています。
今後、日銀は大規模な金融緩和を修正するとともに、長期金利の許容変動レンジを再拡大する、あるいは誘導目標(ゼロ%)そのものを引き上げたり、撤廃したりする可能性が高そうです。その場合、長期金利は上昇するでしょうが、その時に円はどうなるでしょうか。
現在、市場では「長期金利上昇⇒円高」との観測が主流のようです。初期反応はその通りかもしれません。しかし、日本の巨額の財政赤字・政府債務を考えれば、長期金利が上昇を続けても、円高が続くと限らないでしょう。
22年1月25日付け「安全な投資はない」
22年2月8日付け「リスクとリターンの関係」
22年2月9日付け「リスクオンとリスクオフ」
22年2月21日付け「外貨を持つことの意義」
22年2月22日付け「外貨投資は資産運用に不向きか」
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