マネースクエア マーケット情報

為替介入と米長期金利の力学+M2TVご質問への回答

2023/10/04 07:44

【ポイント】
・米ドル/円は150円突破後に急落。その後は反発
・本邦当局の為替介入の有無は不明
・M2TVへのご質問「米FRBは長期金利を下げられるか」

米ドル/円は3日のNY市場で昨年10月21日以来となる150円台をつけた直後に急落。一時147円台半ばまで下落しましたが、すぐに149円近辺まで戻しました(日本時間4日午前7時50分現在)。

米ドル/円が150円台をつけた直接のキッカケは、米国の8月JOLTS(労働動態調査)で求人件数が市場予想を上回って増加したこと、そして米長期金利(10年物国債利回り)が上昇したことです。

米ドル/円の急落には本邦当局の円買い介入の観測もありますが、報道によると財務省幹部は「ノーコメント」とのこと。直前で足踏みをしていた150円を超えたことで、目先達成感や利食いが出た、(介入の準備とされる)レートチェックがあった、あるいはオプション絡みで偏り過ぎたポジションが急に調整された、などの理由も考えられます。
※本日午前8時ごろ、神田財務官は「介入の有無はコメントを控える」と述べました。

昨年10月21日(金)の深夜に政府・日銀は5.6兆円の円買い介入を実施しました。翌22日に神田財務官は介入について質問されて「コメントしない」と回答。政府・日銀は週明け24日の午前8時30分過ぎにも少額の円買い介入を実施しました。

■6月30日付け「為替介入実施のタイミングは?」をご覧ください。

もっとも、米長期金利が上昇ピッチを速めているなかで、米ドル/円を押し下げるためにはよほどの規模の円買い介入が必要でしょう。また、米長期金利のピークアウトや日本の長期金利の顕著な上昇、そしてそれらをもたらす日米金融政策の転換(観測)などがなければ、米ドル/円の方向転換は難しそうです。

*******
M2TV質問への回答
以上に関連して、9月27日のテクニカル・フォーカス(YouTube)に以下のご質問をいただきました(勝手ながら文言は変更させていただきました。ご容赦ください。オリジナルのご質問はYouTubeのコメント欄でご確認いただけます)。9月29日のグローバルViewでも簡単にご説明しましたが、考えを述べておきます。

米国はQTを進めつつも、利下げにより市場金利(国債利回り)を下げることはできますか?

前提として・・・
米国政府はシャットダウンを避けるためにまた上限枠を引き上げて借金を増やそうとしています。負債を積み重ねて行くと、(米国は国債を外国人に買ってもらっているために)金利がどんどん上がり、日米金利差が開いてドル高円安になると思います。

長期金利の操作は困難
市場金利、とりわけ長期金利をコントロールすることは非常に難しいです。日銀だけがYCC(イールドカーブ・コントロール=長短金利操作)として長期金利をターゲットにしていますが、他の中央銀行は基本的にやっていません。

仮に、景気が強い、あるいはインフレ圧力が高い状況で長期金利引き下げを狙って利下げをすれば、むしろインフレ懸念が強まって(中央銀行が信用を失って)長期金利は上昇するかもしれません。逆に、景気が鈍化する、あるいはインフレ圧力が低下する場面では利下げがなくても(利下げに先行する形で)長期金利は低下するでしょう。

QTはあくまで国債供給サイドの一要因
FRBがQT(量的引き締め)を進めつつも利下げをすることはあり得ます。QTはFRBが保有する国債を市場に放出することなので、長期金利の上昇要因(国債価格の下落要因)です。ただし、国債の需要と供給における供給サイドだけの話です。QTで供給が増えても、それ以上に需要が増えれば長期金利は低下するでしょう。投資家が安全性を選好して国債を買う、国債価格が上昇する(金利が低下する)と予想して国債を買うなどのケースです。

シャットダウンとデットシーリング
なお、上記の「前提」に関して、少し誤解があるように思います。シャットダウン(政府機能の一部停止)とデットシーリング(債務上限)はいずれも財政政策に関連していますが、全くの別物です。シャットダウンは新年度に入っても予算が成立していない場合に発生します。一方で、デットシーリングは財政政策の結果として生じる財政赤字が積み重なった政府債務残高に上限を設定するものです。政府はデットシーリングを超えて負債を積み上げることができないので、新たに発生する利子(=政府の負債)を支払うことができなくなり、デフォルト(債務不履行)に至ります。

デットシーリングには直接的に財政赤字を削減する機能はありません。実際、米政府は財政赤字を出し続けており、政府債務残高は増え続けています。その間に何度もデットシーリングは引き上げられてきました。しかし、だからといって、米国の長期金利が上昇を続けてきたわけではありません。

財政赤字拡大で通貨安も
なお、政府が野放図に財政赤字を拡大させた場合、市場金利、とりわけ長期金利は上昇するでしょう。これは「悪い金利の上昇」です。その場合、為替相場が上昇するとは限りません。旧聞ですが、85年9月のプラザ合意以降に米ドル安が止まらなくなったのは、レーガン政権の「双子の赤字」が背景でした。最近では英国の例が挙げられます。22年9月に就任したトラス首相は就任直後に財源の明確でない大型減税を打ち出しました。英国の長期金利は急騰、株価は下落し、英ポンドは対米ドルで急落しました。いわゆるトリプル安でした。

【追記】
24年度が始まる10月1日のシャットダウンは回避されました。超党派で継続予算が成立したためです。民主党との交渉に尽力した共和党のマッカーシー下院議長は党内の保守強硬派によって3日に解任されました。このため、24年度の予算交渉がどう進展するのか、11月17日に継続予算が失効した後をどうするのか、など不透明感が強まっています。そうした議会や財政の混乱も米長期金利が上昇している背景の1つかもしれません。
西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

  • 当レポートは、情報提供を目的としたものであり、特定の商品の推奨あるいは特定の取引の勧誘を目的としたものではありません。
  • 当レポートに記載する相場見通しや売買戦略は、ファンダメンタルズ分析やテクニカル分析などを用いた執筆者個人の判断に基づくものであり、予告なく変更になる場合があります。また、相場の行方を保証するものではありません。お取引はご自身で判断いただきますようお願いいたします。
  • 当レポートのデータ情報等は信頼できると思われる各種情報源から入手したものですが、当社はその正確性・安全性等を保証するものではありません。
  • 相場の状況により、当社のレートとレポート内のレートが異なる場合があります。
topへ