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米景気に関税の影響は!?

2025/05/12 13:45

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【今週のポイント】
・米経済指標にトランプ関税の影響がみられるか
・NOK/SEKは両国の金融政策と原油価格が材料に⁉
・RBA(豪中銀)の追加利下げ観測が一段と後退するか

トランプ大統領は8日、英国との貿易協議で合意に達したと発表しました。週末に行われた米中貿易協議でも「前進した」(ベッセント財務長官)とされました。4月5日に米国の相互関税(一律10%)が発動されましたが、発動が90日間延期された上乗せ関税(日本は14%)が発動しない、あるいは軽減されるとの期待が市場のリスクオン(リスク選好)をもたらしました。

もっとも、2月4日に発動された対中国関税、3月4日の対カナダ・メキシコ関税、12日の鉄鋼・アルミ関税や4月2日の自動車関税、5日に発動された相互関税の影響は今後の米経済指標から垣間見えそうです。

今週は米国の経済指標が多く発表されます。4月のCPI(消費者物価指数)、小売売上高、5月の消費者信頼感指数などです。相互関税(一律10%)の影響が経済データから垣間見えるかもしれません。

今週の主要経済指標・イベント

主要中銀の政策会合が終わり、中銀関係者の発言機会が多くあります。13日ベイリーBOE(英中銀)総裁、15日パウエルFRB議長など。また、日銀の金融政策決定会合(4/30-5/1)の「主な意見」が13日に公表されます。トランプ関税は、米国にとってはスタグフレーション的(景気下押し、物価押し上げ)、米国以外の国にとってはデフレ的(景気・物価ともに下押し)とみられているようです。中銀関係者がどういった発言をするのか興味深いところでしょう。<西田>

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米中貿易協議やトランプ関税についての報道に引き続き注目です。米中貿易摩擦が緩和するとの期待が一段と高まるなどしてリスクオン(リスク選好)が強まる場合、円が全般的に軟調に推移して、豪ドル/円やNZドル/円などのクロス円は上値を試す展開になる可能性があります。

米国の経済指標の結果を受け、市場のFRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策見通しがどのように変化するかにも注目です。FRBの追加利下げ観測が後退する場合、米ドル/カナダドルを下支えし、一方で豪ドル/米ドルやNZドル/米ドルの上値を抑える要因になりそうです。
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15日にBOM(メキシコ中銀)の政策会合が開かれます。BOMは24年3月以降7回(合計2.25%)の利下げを実施。利下げ幅は最初の5回が0.25%、直近2回(25年2月と3月)は0.50%でした。

BOMは今回も0.50%利下げする可能性が高そうです。メキシコの4月CPI(消費者物価指数)は、総合とコアのいずれも前年比3.93%でした。総合は前月の3.80%、コアは同じく3.64%から上昇率が高まったものの、BOMのインフレ目標(3%)の許容レンジ(2~4%)に引き続き収まりました。また、トランプ関税によってメキシコ景気の下振れリスクが高まっているからです。

注目点は、BOMの声明でメキシコの景気やインフレ、先行きの金融政策の先行きについてどのような認識が示されるのか。前回3月会合の声明では、「今後も金融政策スタンスの調整を継続し、同程度の規模での調整を検討する可能性がある」とされ、追加利下げが示唆されました。仮に今回の会合で0.50%の利下げが実施されたとしても、声明で今後の会合での利下げ幅縮小もあり得ることが示されれば、メキシコペソにとってそれほどマイナス材料にならないかもしれません。<八代>

今週の注目通貨ペア①:<米ドル/円 予想レンジ:142.000円~148.000円>
7日の米FOMCでは全会一致で政策金利の据え置きが決定されました。トランプ政権からは米中貿易交渉の進展などマーケット・フレンドリーなニュースが聞かれ、今週も米ドル/円にとってプラスの材料となりそうです。

もっとも今週は米経済の3-4月の経済指標が多く発表されます。4月のCPI(消費者物価指数)やPPI(生産者物価指数)、小売売上高、5月のミシガン大学消費者信頼感指数(インフレ期待含む)、小売売上高、5月のNY連銀やフィラ連銀の製造業景況指数などです。トランプ関税の景気マイナス効果は既に、消費者や企業のセンチメントから散見されたものの、より明確な影響が今週のハードデータに現れるかもしれません。経済指標が景気堅調を示唆して市場で再びリスクオフのセンチメントが強まれば、米ドル/円にとってプラスになりそうです。

デットシーリング(債務上限)の問題も徐々に市場で意識されているようです。ベッセント財務長官は6日、財務省の奥の手が尽きる「Xデー」が近づいており、警戒ゾーンに入っていると警鐘を鳴らしました。Xデーは7-8月に到来すると見られており、議会での予算に関連する審議が長期金利(10年物国債利回り)にどう影響するか、注意が必要かもしれません。<西田>

今週の注目通貨ペア②:<ノルウェークローネ/スウェーデンクローナ 予想レンジ:0.93000Sクローナ~0.98000Sクローナ>
ノルウェークローネ/スウェーデンクローナ(以下、NOK/SEK)は今年4月上旬に20年3月の「コロナ・ショック」以来の安値をつけて反発しています。NOK/SEKの軟調は、4月のトランプ関税が市場全般のリスクオフを促したことが主因だと思われます。

8日のリクスバンク(スウェーデン中銀)の政策会合では政策金利の据え置きが決定されました。声明では「先行きにわずかな利下げを示唆しているかもしれない」と、追加利下げが示唆されました。一方、ノルゲバンク(ノルウェー中銀)もリクスバンクの直後に据え置きを決定、ただ、「25年中に利下げが行われる可能性が最も高い」として23年末から維持している政策金利を引き下げる意向を示しました。

リクスバンクとノルゲバンクの政策金利差(リクス<ノルゲ)は、いずれノルゲバンクが利下げに転ずれば縮小に転じる可能性が高く、そうした見通しを市場が織り込めばNOK/SEKにとってマイナスの材料になりそうです。OPECが原油増産を決めて原油価格が軟調に推移していることも、産油国ノルウェーの通貨にとってマイナスとなりそうです。<西田>

今週の注目通貨ペア③:<豪ドル/NZドル 予想レンジ:1.07000NZドル~1.10000NZドル>
豪ドル/NZドルは4月22日に一時1.06516NZドルへと下落し、24年3月以来1年1カ月ぶりの安値を記録。その後反発しました。

豪ドル/NZドルの反発の主な要因として、RBA(豪中銀)の追加利下げ観測が後退したことが挙げられます。市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によると、4月21日時点で市場ではRBAは12月末までに合計1.25%の利下げを行うとの見方が優勢でした。それが本稿執筆時点では合計1.00%利下げするとの見方が優勢になっています。

RBAの追加利下げ観測が後退したのは、米中の貿易摩擦が緩和するとの期待が市場で高まったためと考えられます。豪州は中国を最大の輸出先とするため、豪経済は中国の景気動向に影響を受けやすいと市場でみられています。

米中貿易摩擦緩和への期待が市場で今後一段と高まれば、RBAの追加利下げ観測がさらに後退するとともに、豪ドル/NZドルは引き続き堅調に推移しそうです。<八代>

今週の注目通貨ペア④:<米ドル/カナダドル 予想レンジ:1.37500カナダドル~1.40500カナダドル>
BOC(カナダ中銀)は24年6月から前々回25年3月の政策会合まで7回連続で利下げ(合計2.25%)を実施。前回4月16日の会合では政策金利を2.75%に据え置くことを決定。その理由として、「米国の通商政策は依然として極めて予測困難であり、貿易摩擦がカナダ経済に及ぼす影響についてもかなりの不確実性がある」、「米国の関税の道筋とその影響についてより多くの情報を得るため」と説明しました。

5月9日に発表されたカナダの4月雇用統計では、失業率が6.9%と市場予想(6.8%)以上に前月の6.7%から悪化。これを受けてBOCは次回6月4日の会合で追加利下げを行うとの観測が高まりました。OIS(翌日物金利スワップ)によると、市場が織り込む次回会合における利下げ確率は、雇用統計発表前の5割弱から約65%へと上昇しました(政策金利の据え置き確率は5割強から約35%へと低下)。BOCの追加利下げ観測が高まることは、カナダドルのマイナス材料になると考えられます。

今週は、4月小売売上高など米国の経済指標が多く発表されます。米経済指標の結果によってFRBの追加利下げ観測が後退する場合、金融政策面から米ドル/カナダドルは下支えされそうです。

米中貿易協議やトランプ関税についてのニュースにも注目です。最近の外為市場では、米中貿易摩擦の緩和やトランプ関税軽減への期待が市場で高まる場合には、米ドルが強含む傾向があるようです。<八代>

西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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