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米ドル/円のトレンドは変わったか、米PCEは加速

2022/07/30 08:30

【ポイント】
・その可能性はあるが、現時点での判断は時期尚早
・今後の経済情勢、とりわけ労働市場の動向に要注意
・今後、数カ月で米ドル/円のトレンドが転換したと判断する可能性あり

昨日29日に配信したM2TVグローバルView「ドル円は下げに転じたか」は既にたいへん多くの方にご視聴いただいています。以下では、米ドル/円の基調は上昇から下落へと変化したのかを改めて考えてみたいと思います。

米ドル/円は、今年3月以降の上昇トレンドを28日に下へブレイクした格好になっており、29日には一時132.452円をつけました。米ドル/円の先安観をもたらす格好ですが、結論から言えば、米ドル/円の基調が変化した可能性はあるが、現時点でそう判断する(それに沿ったポジションを持つ)のは時期尚早ではないかということです。

米ドル円

Gloomy(陰うつ)なIMF世界経済見通し
26日に公表されたIMF世界経済見通し(WEO)が指摘するまでもなく、世界経済は強い向かい風に晒されています。米国も例外ではなく、4-6月期GDPが2四半期連続でマイナスになったことはその証左でしょう。

IMF世界経済見通し

また、米2年物国債利回りと10年物国債利回りでみた長短金利が逆転し(2年>10年)、その差が0.246%と2000年9月以来の大きさになっていることも大いに気になるところです(半年後の2001年3月に米経済はリセッション入りしました)。

パウエル議長の発言
ただし、米国の景気実態はGDPが示すほど悪くないでしょう。27日のFOMC後の記者会見で、パウエル議長はリセッション(景気後退)入りを否定し、その根拠として労働市場が非常に強いことを挙げています。

パウエル議長はまた、6月のドット・プロットが現時点でも最良の予想だとの見解を示しました。6月のドット・プロット(中央値)は、22年末の政策金利を3.375%、23年末の政策金利を3.750%としており、23年に入っても利上げが続く予想となっています。

6月ドット・プロット

足もとの市場は22年中の利上げ打ち止め、23年半ば以降の利下げを織り込んでいます。パウエル議長はそうした市場の見方に抗議したかったのかもしれません。

非常に強い労働市場に変化は?
もちろん、市場の先走った(?)見方が現実のものとなる可能性はあります。その意味で、今後数カ月の雇用関連を中心とした経済指標は大いに注目されるでしょう。そして、9月21日に公表される次のドット・プロットがどんな政策金利の軌道を描くかも重要なポイントでしょう。

短・中・長期の見通し
7月15日に配信した「円安か円高か、短/中/長期の視点」では、以下の見通しを提示しました。

 短期(数週間~数カ月):日米金利差による米ドル高円安
 中期(数カ月~18カ月):金融政策の方向が変わり米ドル安円高
 長期(数年~10年単位):経済構造・成長力の差を映した円安

22年末までは短期の視点であり、そうであれば米ドル/円の140円は現時点でも十分にありえる水準だと思います。ただし、市場が織り込む米金融政策の転換が一段と現実味を帯びるのであれば、中期の視点に移行し、米ドル/円も下落に転じるでしょう。今は考えにくい日銀の金融政策の修正が視野に入るなら、22年初めごろの110円~115円まで下落する可能性も否定できません。

もっとも、長期の視点を変える必要はないと思いますので、長く保有するつもりであれば、米ドル/円の下落は買う機会を与えてくれるでしょう。

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6月PCE(個人消費支出)デフレーターは前年比6.8%と5月(6.3%)から加速。食料とエネルギーを除くPCEコアデフレーターは同4.8%と5月(4.7%)から加速しました。PCEデフレーターは今年春にピークアウトしたようにみえましたが、鈍化傾向が定着したわけではなかったようです。

米PCEデフレーター

ハト派の代表格のカシュカリ・ミネアポリス連銀総裁は、29日のメディアインタビューで、FOMC後の市場の反応(株高、金利低下、米ドル安)に「驚いた」と述べました。そして、「FOMCはインフレ率を2%に引き下げるとの決意で一致している。そこ(≒利上げ打ち止め)に至るまでは「長い道のりがある」とも語っています。

また、タカ派のボスティック・アトランタ連銀総裁は、米経済はリセッションには「ほど遠い」と述べ、インフレ抑制のための利上げはまだ続くとの見方を示しました。
西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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