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米雇用統計、堅調にみえる陰で労働市場軟化を示す兆候も

2025/06/07 07:02

【ポイント】
・NFPは前月比13.9万人増、失業率は4.2%で横ばい
・長期金利・株価ともに上昇、米ドル/円も上昇
・ただし、雇用統計には労働市場の軟化を示す兆候も
・労働市場の軟調が目立ってくればFRBは難しい判断を迫られそう

米国の5月雇用統計ではNFP(非農業部門雇用者数)が市場予想を上回る伸びをみせ、労働市場が引き続き堅調であることを示唆しました。2日前に発表されたADP民間雇用が弱かったために弱気の見方が増えていたからか、雇用統計を受けて長期金利は大きく上昇、NYダウは400ドル超上昇し、米ドル/円は雇用統計発表前の144.30円近辺から一時145円台を示現しました。

もっとも、5月雇用統計には後述するように弱い面も散見されます。労働市場の軟化が目立ってくれば、トランプ大統領の利下げ要求は一段と強まると予想され、FRBは難しい判断を迫られるでしょう。引き続き米景気、とりわけ労働市場の状況には要注意でしょう。

6日付けのOIS(翌日物金利スワップ)に基づけば、市場が織り込む0.25%利下げの確率は次回18日のFOMCでほぼゼロ、7月までで2割弱、9月で7割となっており、追加利下げが完全に織り込まれる(10割超)のは10月以降です。

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5月雇用統計では、事業所調査のNFP(非農業部門雇用者数)は前月比13.9万人増と、市場予想(12.6万人増)を上回りました。3カ月移動平均は13.5万人増と、昨年1年間の平均(14.3万人増)とさほど変わらないペース。ただし、3-4月が計9.5万人下方修正されました。したがって、5月のNFPは改定前の4月の水準を4.4万人上回ったに過ぎません。そうであれば仮定の話ながら、弱かった5月ADP民間雇用(前月比3.7万人増)と整合的と言えなくもありません。なお、連邦政府部門では4カ月連続で雇用が減少しており、その間の減少幅は計5.9万人。DOGE(政府効率化省)による連邦職員削減の影響でしょう。

雇用統計 NFP

時間当たり賃金は前年比3.9%増と、25年に入っても4%近い伸びが継続中。<雇用者数×週平均労働時間×時間当たり賃金>で求められる総賃金指数は前年比5.0%増と、こちらもそれなりの伸びが続いています。

時間当たり賃金

総賃金

家計調査に基づく失業率は4.2%と、3カ月連続で横ばい。ただし、失業率の小数点以下2位までをみると、3月4.15%⇒4月4.19%⇒5月4.24%と、ジリジリ上昇しています。(家計調査上では)労働力人口(=雇用者数+失業者数)62.5万人減、雇用者数69.6万人減、失業者数7.1万人増の結果でした。

失業率

Bloombergによれば、労働力人口のうち「外国生まれ」が4月に71.5万人減、5月に29.8万人減で、この2カ月間での減少幅は20年春のコロナショック直後以来の大きさとのこと。トランプ大統領による移民規制の強化が、失業率(=失業者数÷労働力人口)の上昇を妨げてFRBの利下げを難しくしているとすれば、なんとも皮肉です。

労働参加率<労働力人口÷生産年齢人口>は62.4%と、前月から0.2ポイント低下。これは今年2月と並んで23年2月以降の最低水準です。結論は時期尚早ですが、人々の就業意欲が低下しているとすれば、外国人労働力の減少と同様に失業率が上昇しにくい状況を作っているのかもしれません。

労働参加率
西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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