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印象に残る為替相場の大変動:ロシア・LTCM危機

2024/08/09 06:46

M2TVのYouTube「チャンネル登録者3万人突破!」キャンペーンで、「今までで一番印象に残っている為替相場の大変動はいつですか」との質問をいただきました。わたし的には98年のロシア・LTCM危機が一番かなと思っています。

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98年ロシア・LTCM危機
米ドル/円が8月11日の147.66円から10月8日に111.85円まで下落

ロシアは98年8月にデフォルトを経験しました。ロシア政府は98年8月17日にルーブル建て国内債務の不履行を宣言し、対外債務を90日間支払い停止としました。いずれもデフォルト(債務不履行)と定義されました(※)。加えて、ルーブルの対米ドル相場の許容変動レンジを拡大し、事実上のルーブル切り下げを行いました。

※ロシア政府は自国通貨建て債務を返済する能力はありましたが(理論上はルーブル紙幣を刷れば返済に困らない)、返済する意思を欠いていました。一般に、債務の履行は、債務者に返済の能力と意思があってはじめて可能になります。

ロシア財政悪化の背景
直接的には97年のアジア通貨危機のあおりを受けたと言えるかもしれません。アジア通貨危機によって、投資家がリスクを回避する傾向が強まり、ロシアを含む新興国の資産は敬遠されました。また、世界経済にブレーキがかかり、原油をはじめ資源価格が下落し、原油を主な輸出品とするロシアの貿易収支/経常収支は悪化しました。当時、ロシアはルーブルを米ドルに緩く結び付けるクローリングペッグを採用していました。95年4月に米国が利上げを開始、クリントン政権下でルービン財務長官が「強いドル」政策を打ち出していたため、ルーブルが米ドル以外の通貨に対して割高になっていたことも影響しました。

大手ヘッジファンドが破たん
ロシアのデフォルトは市場に大きな影響を与えました。ルーブルの急落もあり、ロシアに対して債権を保有する欧米金融機関や投資家は損失を被りました。その中にはヘッジファンドも含まれていました。とりわけ、大きな傷を負ったのが米国のLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)でした。

LTCMは新興ながら、ノーベル賞受賞の学者を抱えて、驚異的なパフォーマンスを叩き出していました。LTCMの戦略はアービトラージ(鞘取り)。オプションなどを用いた理論値からかい離した資産価格が理論値に収れんすることを前提としたポジションを構築、高いレバレッジをかけることでわずかな変化から利益を得ていました。

しかし、ロシアのデフォルトによって、状況が一変。LTCMは当時、ロシア国債が売られ過ぎと判断、ロシア国債の買いポジションと米国債の売りポジションを持っていました。ところが、ロシアがデフォルトしたことで、ロシア国債の買いポジションから巨額の損失が発生、さらにリスクオフから米国債が上昇(金利が低下)したことで米国債の売りポジションからも損失が発生、いわゆる「また裂き」となったのです。

急激な円高へ
そして、ロシアのデフォルトやLTCMの破たんは急激な円高をもたらしました。単に安全資産への逃避というだけでなく、それまでに行われた巨額の円キャリートレード(金利の低い円資金を調達して外貨資産で運用すること)のポジションが巻き戻ったためです。米ドル/円はロシアがデフォルトする直前の8月11日の高値146.66円から10月8日の111.85円まで下落。とりわけ、10月5日から8日のわずか4日間で25円近く下落しました(為替レートはBloombergのデータ)。
西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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