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為替レートの水準はどう決まる? なぜ、1米ドル=155円なのか

2024/05/17 07:02

5月10日のグローバルView(YouTube)をご覧になった方から以下のようなご意見をいただきました。私なりの考えを示したいと思います。

今の「円安」を金利差だけで説明できますか。為替レートの変化は金利差に影響を受けるでしょうが、それだけではないはず。そもそも為替レートがなぜその水準にあるかを説明すべきではないでしょうか。例えば、なぜ、1米ドル=155円なのか。

まず、押さえておきたいのは・・・
・為替レートは2通貨間の交換比率である(=相対価値)
・為替レートは需要と供給で決定される

では、需要と供給はどうやって変化するか。二国間の金利差は一つの要因ですが、ご指摘のようにそれだけではありません。かつては実需と呼ぶべき経常収支/貿易収支(以下、経常収支で統一します)が大きな役割を果たしていました。しかし、現在では、実需(輸出や輸入)を伴わない投資の資金が世界中を自由に駆け巡っています。経常収支は今でも一要因ではあるものの、以前に比べて影響度は小さいように思われます。結局は、企業や投資家がどういう現状判断や予測に基づいて通貨の売買を行いたいかに尽きるのではないでしょうか。その意味では、ケインズの言うところの「美人投票(※)」に近い気がします。
(※)現在ではこの表現も不適切ですね。

購買力平価とは
前置きが長くなりましたが、為替レートの水準を上手く説明するのは大変難しいように思います。為替レートの水準を説明する一つの尺度が購買力平価(PPP)です。基になっているのが一物一価の法則で、それは2つの国で同じものが同じ価格で買えるような為替レートという意味です。

ビッグマック指数
購買力平価のシンプルな形が、英エコノミスト誌が考案したビッグマック指数です。これに従えば、24年1月時点で1米ドル=79.09円です。それに比べて実際の円はかなり割安だということになります。

■23年3月6日付け「騙されない投資家9~購買力平価って何?」で詳しく解説しています。

IMFの購買力平価
さすがにビッグマックの価格だけで為替レートを論じるのは無理がありそうです。IMF(国際通貨基金)は各国の約1000項目のデータに基づく購買力平価を公表しています。これによれば、23年の米ドル/円の購買力平価は90.96円です。もっとも、IMFの購買力平価は各国通貨で表された経済データを比較するための換算レートとして利用されており、「適正な」為替レートを示す意図はないようです。

■23年4月25日付け「騙されない投資家10~購買力平価をどう使う?」で詳しく解説しています。

購買力平価の限界
一般に利用される購買力平価は、二国間の経常収支がある程度均衡している時点の為替レートを基準とし、それに両国のインフレ率の差を反映させて求めます。しかし、基準時点をいつにするのか(そもそも均衡していた時期があるのか)、インフレ率としてどの指標が適切かなど、疑問点も多いように思います。

そもそも購買力平価/一物一価の法則が成り立つのは、経常収支を均衡させる力が働くケースでしょう(経常収支が黒字の場合は自国通貨が割安なので、それが修正される等)。もっとも、日本や米国、その他の国の例をみても、必ずしも経常収支が均衡に向かっているとは言えません。仮に、10年、20年という単位で経常収支が均衡に向かうとしても、その間に算出される購買力平価そのものが大きく変化する可能性もあるでしょう(※)。

※新興国の経常収支赤字が拡大を続け、何かをきっかけに「〇〇ショック」という形で同国通貨が急激に調整されるケースは過去にもありました。

為替レート予測の実践
現在の為替レートが何らかの要因に強く影響されており、その要因がなくなれば為替レートの水準が大きく変わるというケースもありうるでしょう。ただ、そうした要因があるのか、それは何か、それがいつなくなるのか、なくなった場合にどの水準に落ち着くかなど、不確実性が大きい場合は、現在、あるいは近い過去の為替レートをある程度所与のもの(前提)として予測せざるをえないのではないでしょうか。

上述したIMFの購買力平価によれば、13年の米ドル/円の購買力平価は101.30円でした(あくまで事後的に現在のデータベースから抽出したものですが)。仮に、14年初頭に「105円(110円でもいいです)を上回る米ドル/円は売り」との基本方針で為替取引を続けていれば、この10年間に利益を出すことはできたでしょうか。おそらく答えは「否」でしょう。利益を出すどころか、取引を続けたか、続けられたかどうかもわかりません。つまりはそういうことではないでしょうか。
西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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