騙されない投資家17~新興国通貨の歴史
2023/12/27 07:39
投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。過去の相場を知ることは投資判断に役立つはずです。今回は新興国通貨を取り上げます。過去レポートは#騙されない投資家で表示されるので、ぜひご活用ください。
高金利や経済成長が魅力の新興国
世界的な低金利環境のもとでは、比較的高金利の新興国が投資対象として人気を博しました。経済成長率の高さも魅力でしょう。ただし、新興国の通貨や金融資産は総じて先進国のそれらと比べて価格変動が大きく不安定であり、時に大幅に下落するケースがあるため、とりわけ注意が必要でしょう。
90年代に頻発した通貨危機
実際、90年代には新興国で通貨危機が頻発しました。通貨危機とは、「債務返済能力への懸念等からある国の通貨の対外的価値が急激に下落することや、その結果経済活動に深刻な影響が及ぶ状況を指します」(日本銀行の「教えて!にちぎん」より一部抜粋)。
94年12月にはメキシコ危機(通称「テキーラ・ショック」)、97年7月にはタイや韓国などでアジア通貨危機、98年8月にはロシア危機が発生しました。いずれも自国通貨の為替相場を米ドルに固定、ないし連動させていました。インフレの抑制や安定的な資金流入を目的としたものでした。
しかし、それらの国は、90年代後半の米ドル高に連れたために国際競争力を失って経常赤字が拡大し、外貨準備が大幅に減少するなどして、為替レートの固定や連動制を維持することが困難になりました。そして、変動相場制への移行を余儀なくされ、その結果、自国通貨が大幅に下落しました。
90年代には、アルゼンチンが1ペソ=1米ドルに固定するダラライゼーションを実施、ブラジルはレアルの対米ドル相場の減価ペースを緩やかにする管理相場制(クローリング・ペッグ)を採用しました。しかし、いずれも維持が困難となってアルゼンチンは2002年、ブラジルは99年に変動相場制へ移行しました(※)。
(※)アルゼンチンはその後も度々経済危機に見舞われました。23年11月の大統領選ではダラライゼーションを公約にしたミレイ候補が勝利。ミレイ大統領は就任直後にペソを対米ドルで54%切り下げ、毎月2%切り下げるクローリング・ペッグを採用した模様です。
新興国の通貨危機では、多くのケースで数週間から数カ月の間に、通貨価値が1/2から1/4になりました。固定相場制(あるいは管理相場制)というタガが外れて短期間に通貨が急落するという特徴がありました。
近年の通貨安要因
2000年以降になると、多くの新興国が変動相場制へ移行しており、90年代型の通貨危機は発生しにくくなっています。ただし、それは新興国通貨の為替相場が大幅に変動したり、急落したりしないという意味ではありません。とりわけ、経常赤字や対外債務が大きく、外国資金への依存度が高い国は、何らかのきっかけによって大幅な資金流出に見舞われる可能性があります。そうした国は自国通貨を買い支えるための十分な外貨準備を保有していません。
資金流出のきっかけになりうるのは、独裁政権にみられがちな経済政策の失敗、クーデターや大統領暗殺など国内政治の不安定化、周辺国との軍事紛争の勃発・テロなどのいわゆる地政学リスクなど様々な要因があるでしょう。
トルコリラのケース
トルコリラは対米ドルで緩やかな減価が続いていましたが、13年ごろから下げがきつくなりました(ただし、13年春、14年秋は日銀の2度の金融緩和によって米ドル/円が大幅に上昇したため、トルコリラ/円も上昇基調でした)。
13年には宗教色を強める政府に対する反対運動や内閣の汚職スキャンダルが発生。14年に就任したエルドアン大統領が強権性を強めるなか、16年7月にはクーデター未遂事件が発生。これを契機に反対派を一掃したエルドアン大統領はますます専制政治を行いました。18年には米牧師の拘束などに絡んで対米関係が著しく悪化。これらの要因はトルコリラの下落要因となりました。
さらに、19—21年には利上げを進める中央銀行総裁をエルドアン大統領が相次いで解任。高インフレにもかかわらず、大統領が利下げを求めて金融政策に介入したことが決定打となって、リラが大きく下落しました。エルドアン大統領は23年5月に三選を果たし、経済チームを刷新しました。新たに就任したエルカンTCMB(トルコ中銀)総裁は積極的に利上げを実施していますが、リラの反発にはつながっていません。
■2024年の為替・株「大予想」が22日にリリースされています。ぜひご覧ください。
高金利や経済成長が魅力の新興国
世界的な低金利環境のもとでは、比較的高金利の新興国が投資対象として人気を博しました。経済成長率の高さも魅力でしょう。ただし、新興国の通貨や金融資産は総じて先進国のそれらと比べて価格変動が大きく不安定であり、時に大幅に下落するケースがあるため、とりわけ注意が必要でしょう。
90年代に頻発した通貨危機
実際、90年代には新興国で通貨危機が頻発しました。通貨危機とは、「債務返済能力への懸念等からある国の通貨の対外的価値が急激に下落することや、その結果経済活動に深刻な影響が及ぶ状況を指します」(日本銀行の「教えて!にちぎん」より一部抜粋)。
94年12月にはメキシコ危機(通称「テキーラ・ショック」)、97年7月にはタイや韓国などでアジア通貨危機、98年8月にはロシア危機が発生しました。いずれも自国通貨の為替相場を米ドルに固定、ないし連動させていました。インフレの抑制や安定的な資金流入を目的としたものでした。
しかし、それらの国は、90年代後半の米ドル高に連れたために国際競争力を失って経常赤字が拡大し、外貨準備が大幅に減少するなどして、為替レートの固定や連動制を維持することが困難になりました。そして、変動相場制への移行を余儀なくされ、その結果、自国通貨が大幅に下落しました。
90年代には、アルゼンチンが1ペソ=1米ドルに固定するダラライゼーションを実施、ブラジルはレアルの対米ドル相場の減価ペースを緩やかにする管理相場制(クローリング・ペッグ)を採用しました。しかし、いずれも維持が困難となってアルゼンチンは2002年、ブラジルは99年に変動相場制へ移行しました(※)。
(※)アルゼンチンはその後も度々経済危機に見舞われました。23年11月の大統領選ではダラライゼーションを公約にしたミレイ候補が勝利。ミレイ大統領は就任直後にペソを対米ドルで54%切り下げ、毎月2%切り下げるクローリング・ペッグを採用した模様です。
新興国の通貨危機では、多くのケースで数週間から数カ月の間に、通貨価値が1/2から1/4になりました。固定相場制(あるいは管理相場制)というタガが外れて短期間に通貨が急落するという特徴がありました。
近年の通貨安要因
2000年以降になると、多くの新興国が変動相場制へ移行しており、90年代型の通貨危機は発生しにくくなっています。ただし、それは新興国通貨の為替相場が大幅に変動したり、急落したりしないという意味ではありません。とりわけ、経常赤字や対外債務が大きく、外国資金への依存度が高い国は、何らかのきっかけによって大幅な資金流出に見舞われる可能性があります。そうした国は自国通貨を買い支えるための十分な外貨準備を保有していません。
資金流出のきっかけになりうるのは、独裁政権にみられがちな経済政策の失敗、クーデターや大統領暗殺など国内政治の不安定化、周辺国との軍事紛争の勃発・テロなどのいわゆる地政学リスクなど様々な要因があるでしょう。
トルコリラのケース
トルコリラは対米ドルで緩やかな減価が続いていましたが、13年ごろから下げがきつくなりました(ただし、13年春、14年秋は日銀の2度の金融緩和によって米ドル/円が大幅に上昇したため、トルコリラ/円も上昇基調でした)。
13年には宗教色を強める政府に対する反対運動や内閣の汚職スキャンダルが発生。14年に就任したエルドアン大統領が強権性を強めるなか、16年7月にはクーデター未遂事件が発生。これを契機に反対派を一掃したエルドアン大統領はますます専制政治を行いました。18年には米牧師の拘束などに絡んで対米関係が著しく悪化。これらの要因はトルコリラの下落要因となりました。
さらに、19—21年には利上げを進める中央銀行総裁をエルドアン大統領が相次いで解任。高インフレにもかかわらず、大統領が利下げを求めて金融政策に介入したことが決定打となって、リラが大きく下落しました。エルドアン大統領は23年5月に三選を果たし、経済チームを刷新しました。新たに就任したエルカンTCMB(トルコ中銀)総裁は積極的に利上げを実施していますが、リラの反発にはつながっていません。
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- 当レポートは、情報提供を目的としたものであり、特定の商品の推奨あるいは特定の取引の勧誘を目的としたものではありません。
- 当レポートに記載する相場見通しや売買戦略は、ファンダメンタルズ分析やテクニカル分析などを用いた執筆者個人の判断に基づくものであり、予告なく変更になる場合があります。また、相場の行方を保証するものではありません。お取引はご自身で判断いただきますようお願いいたします。
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