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日銀会合の結果はいかに

2023/12/18 12:10

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【今週のポイント】
・FRB、BOE、ECBの大幅な利下げ観測に変化はないか
・日銀会合と総裁会見では金融緩和修正の地ならしが行われるか
・RBA会合の声明以上の材料が議事録で提供されるか
・BOC総裁は市場の利下げ観測をけん制。CPIで利下げ観測が後退するか

先週(12/11-)は、FRB、BOE(英中銀)、ECBの金融政策会合が開催されました。いずれも政策金利を据え置きました。ただ、パウエルFRB議長が「利下げのタイミングを協議した」と述べた一方、ベイリーBOE総裁は「(インフレ抑制に自信を持てるまで)まだ進むべき道のりがある」、ラガルドECB総裁は「絶対にガードを下げてはならない」、「利下げの議論は全くしなかった」と述べ、タカ派的姿勢を示しました。

パウエル議長の発言等を受けて米長期金利が4.00%を割り込み、米ドル/円は一時141円割れを示現。ユーロ/米ドルや英ポンド/米ドルは上昇しました。

もっとも、15日時点のOIS(翌日物金利スワップ)に基づけば、市場のメインシナリオ(確率50%超)は、FRBとECBが24年3月に利下げを開始して11月までに0.25%換算で5回の利下げを行い、BOEは5月に利下げを開始して11月までに同4回の利下げを行うというものです。

今週の主要経済指標・イベント

今週(12/18- )は、カナダ、英国、日本のCPIや、米国のPCE(個人消費支出)デフレーターなどの物価指標が発表されます。インフレが中銀目標の2%に向けて落ち着きつつあると(日本の場合は持続的・安定的に2%を達成すると)中央銀行に自信を持たせる内容となるでしょうか。

15日時点のOISに基づけば、市場が描く日銀のメインシナリオは、24年3月、7月、10月に0.10%の利上げを行うというもの。18‐19日の金融政策決定会合でどのような決定がなされるか。そして、その後の記者会見で植田総裁が何を語るかによって、市場の観測は大きく影響を受けそうです。YCC(イールドカーブ・コントロール=長短金利操作)の修正や撤廃、あるいはマイナス金利の解除が決定される可能性は低そうですが、それらに向けて何らかの地ならしは行われるかもしれません。<西田>

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豪ドル/円やNZドル/円などのクロス円は、日銀金融政策決定会合が重要です。日銀の金融政策に変更はなさそうですが、声明や植田日銀総裁の会見を受けて早期のマイナス金利解除の観測が高まれば、円が全般的に堅調に推移して、クロス円は下落する可能性があります。

米FRBによる早期の利下げ観測が一段と強まれば、米ドルが全般的に軟調に推移しそうです。豪ドル/米ドルやNZドル/米ドルは底堅く推移し、一方で米ドル/カナダドルは上値が重い展開になるかもしれません。

TCMB(トルコ中銀)の政策会合が21日に開かれます。TCMBは前回11月の会合で5.00%の利上げを行う一方、声明で「金融引き締めのペースは減速して、短期間で引き締めサイクルは完了する」と表明。利上げ幅を縮小するとともに、利上げサイクルは近く終了するとの意向を示しました。21日の会合で利上げ幅が市場予想の2.50%と異なる結果になれば、トルコリラが反応しそうです。

BOM(メキシコ中銀)は14日に政策会合を開き、政策金利を11.25%に据え置くことを決定しました。市場ではBOMが早期に利下げを行うとの観測がありますが、声明では利下げは示唆されませんでした。このことはメキシコペソにとってプラスと考えられます。

声明では政策金利について前回11月の会合と同じく、「しばらくの間、現在の水準に維持する必要がある」とされました。また、「予測期間内のインフレの軌道に対するリスクバランスは、依然として上向きに偏っている」との評価も変わりませんでした。

メキシコの12月前半のCPI(消費者物価指数)が21日に発表されます。CPIの結果次第では、BOMの利下げ観測が後退する可能性があり、その場合にはメキシコペソにとってさらなるプラス材料になりそうです。<八代>

今週の注目通貨ペア①:<米ドル/円 予想レンジ:140.000円~145.000円>
米ドル/円と米長期金利(10年物国債利回り)の強い相関が11月以降続いています。今年4-9月の回帰分析から求められる米ドル/円の推計値は、長期金利が3.80%の時に140.13円です。長期金利が3.80%を下回れば、米ドル/円の140円割れが現実味を帯びる計算です。長期金利は先週14日(FOMCの結果判明の翌日)に一時3.88%まで低下しました。3.80%はすぐそこかもしれません。

今週、米国では11月の住宅着工件数、個人所得と消費支出、12月の消費者信頼感指数などが発表されます。アトランタ連銀のGDPNow(短期予測モデル)によれば、14日時点で10-12月期GDPは前期比年率2.6%と予測されています。7日時点では1.2%まで低下していましたが、その後の雇用統計や小売売上高を受けて上昇しました。今週の経済指標を受けて景況感が一段と改善するようであれば、利下げ観測が後退し、金利上昇や米ドルの上昇をもたらすかもしれません。

PCE(個人消費支出)のデフレーターも要注目です。10月のPCEデフレーターは一段と伸びが鈍化しました。雇用コストを強く反映するとしてFRBが注目するPCEコアサービス(住居費を除く)は前年比3.9%と21年3月以来の4%割れを示現。ただ、FRBの物価目標の2%にはまだ距離があります。もう一つの物価指標であるCPI(消費者物価指数)のコアサービス(住居費を除く)は今年6月以降改善がストップしています。PCEデフレーターも同様の様子をみせるならば、利下げ観測は後退しそうです。

もちろん、日銀の金融政策決定会合と植田総裁の記者会見も非常に重要でしょう。YCCの修正・撤廃やマイナス金利解除に向けた地ならしが行われるようなら(ユーロ/円の項ご参照)、米ドル/円には下押し圧力が加わりそうです。<西田>

今週の注目通貨ペア②:<ユーロ/円 予想レンジ:153.000円~158.000円>
ユーロ/円は11月16日の高値(164.243円)から大きく下落してきました。12月7日には、植田総裁が「年末から来年にかけて一段とチャレンジングな状況になる」と述べたことで、日銀の利上げ観測が高まり、日本の長期金利が大きく上昇。「円高」が進行し、ユーロ/円は一時153.023円をつけました。足もとではもみ合いつつも下値を切り下げているとの印象です。

植田総裁の発言後に、関係者が早期利上げに否定的な見方をしたとの報道を受けて、円高圧力はやや後退した感がありますが、今週の政策会合でYCCの修正・撤廃やマイナス金利解除に向けた地ならしが行われるようなら再び円高圧力が高まる可能性があります。その場合、ユーロ/円は7日の安値をトライするかもしれません。

ECBは、14日の会合後にラガルド総裁が早期利下げ観測をけん制する発言をしました。また、ECB内のタカ派で知られるナーゲル・ドイツ連銀総裁は利上げサイクルが終了した可能性を認めつつも、利下げの議論は時期尚早との見解を表明しました。それでも15日時点のOISによれば、市場は24年3月以降のアグレッシブな利下げを織り込んでいます。今週はドイツのIFO指数やユーロ圏のCPI(ただし、改定値)や、レーン理事(チーフエコノミスト)らの発言が予定されています。それらはECBの利下げ観測に影響を与えるでしょうか。<西田>

今週の注目通貨ペア③:<豪ドル/NZドル 予想レンジ:1.07000NZドル~1.09000NZドル>
豪ドル/NZドルは12月15日に一時1.08115NZドルへと上昇し、約2週間ぶりの高値をつけました。NZの7-9月期GDP(国内総生産)や11月食品価格指数を受け(※)、RBNZ(NZ中銀)の利下げ観測が高まったことが、豪ドル/NZドル上昇の主な要因です。市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によると、市場では24年5月に利下げが行われるとの見方が有力です(24年2月と4月は据え置き)。

(※)7-9月期GDPは前期比マイナス0.3%と、市場予想(プラス0.2%)に反してマイナス成長でした。また、11月の食品価格指数は前月比マイナス0.2%と、3カ月連続でマイナスになりました。

RBA(豪中銀)議事録が19日に公表されます。政策金利の据え置きを決定した12月5日の政策会合のものです。5日の会合時の声明では、「金融政策をさらに引き締める必要があるかどうかは、データとリスク評価次第」とされました。議事録がタカ派的な内容になれば、豪ドルが全般的に買われて、豪ドル/NZドルは一段と上昇する可能性があります。<八代>

今週の注目通貨ペア④:<米ドル/カナダドル 予想レンジ:1.31000カナダドル~1.36000カナダドル>
パウエル米FRB議長は12月13日に「(FOMCでは)利下げのタイミングについて議論した」と述べました。一方で、マックレムBOC(カナダ中銀)総裁は15日、「利下げを議論するのは時期尚早」、「我々が議論しているのは、十分に利上げを行ったかどうか、あるいは現在の政策金利の水準をどれくらいの期間維持するかだ」などと発言。市場の利下げ観測をけん制しました。

FRBとBOCの金融政策スタンスの違いが市場で意識されて、米ドル/カナダドルは上値が重い展開になるかもしれません。カナダの11月CPI(消費者物価指数)が19日に発表されます。CPIの結果次第では、BOCの利下げ観測が後退するとともに、米ドル/カナダドルは下押ししそうです。<八代>

西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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