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ゴールドは中東の地政学的リスクを受け買い戻し、原油は急伸後に往って来い

2023/10/13 07:31

【ゴールドのポイント】
・米ドル建て金先物、中東の地政学的リスク浮上と米金利低下を受け買い戻し
・中国は11カ月連続で金を積み増し、インドやポーランドも需要強く
・米ドル建て金先物、割安感が解消され買い戻しの勢いを試す展開か

―米ドル建て金先物、中東の地政学的リスク浮上と米金利低下を受け買い戻し
シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の米ドル建て金先物価格は、買い戻し。強弱まちまちな米9月雇用統計を受け米10年債利回りが4.9%付近から4.5%台へ戻す動きに合わせ、米ドル建て金先物は買い戻されました。加えて、前週末にパレスチナを実効支配するイスラム武装組織ハマスがイスラエルに突如攻撃し地政学的リスクが浮上。

米連邦準備制度理事会(FRB)の高官が足元の米金利急上昇により利上げの必要性低下、と相次いで発言したことも重なり、米ドル建て金先物に対し買い戻しが続きました。前週までの9営業日続落から一転、10月11日まで4営業日続伸し、約2週間ぶりの水準を回復。ただ、米9月消費者物価指数(CPI)が高止まりしたほか、米30年債入札が不調で米金利が再び上昇したため、米ドル建て金先物は伸び悩む場面も見られました。

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―中国は11カ月連続で金を積み増し、インドやポーランドも需要強く
中国が10月7日発表した外貨準備高は、前月比450億ドル減の3兆1,150億ドルでした。一方で、金保有高は前月比26.1トン増の2,192トンに。11カ月連続で増加した結果、累計で2022年11月以降、243トン積み増しています。

チャート:中国、2022年からの金購入量は243トンに
中国の金保有高

また、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)のシニア・アナリストであるクリシャン・ゴポール氏によると、国際通貨基金(IMF)から確定データはまだ発表されていないものの、中央銀行による金需要は引き続き堅調でした。同氏によれば、中国のほか、インド準備銀行も9月に7トン相当購入したとされ、22年7月以来で最大の規模だったといいます。

WGCのゴポール氏によれば、ポーランド国立銀行(NBP)が8月の18トンに続き9月も金を19トン購入した結果、金保有高は330トン近くに及びました。結果、NBPが2021年に発表した金保有高の100トン積み増しを達成しつつあります。NBPは当時、ゴールドの100トン積み増しについて「自国通貨を保護するため」と説明していました。

米ドル建て金先物は10月6日に一時1,823.5ドルと、3月以来の水準まで下落しましたが、こうした中銀の金需要が下値を支える傾向が続きそうです。

―米ドル建て金先物、割安感が解消され買い戻しの勢いを試す展開か
米ドル建て金先物価格の1週間の予想レンジは、1,860~1,910ドル。今後1週間は、本日の米10月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値を始め、10月17日に米9月小売売上高と鉱工業生産、19日にパウエルFRB議長による講演を予定します。

テクニカル的には、三役逆転や複数のデッドクロスが形成されたままで弱い地合いを保っています。RSIが前週の21.2から47.5 まで回復し割安感が解消されており、ここからは買い戻しの勢いが試されるでしょう。上値は、直近の高安値の61.8%戻しにあたる1,910ドル、下値は一目均衡表の転換線付近の1,860ドルと予想します。

チャート:8月以降の米ドル建て金先物の日足、一目均衡表の転換線は赤線、RSIは下図
8月以降の米ドル建て金先物の日足チャート
(出所:TradingView)

円建て金先物価格の1週間予想レンジは、8,900~9,110円。円建て金先物は、米ドル建て金先物の急反発に支えられ一時9,004円まで上昇、10営業日続落分の61.8%戻しに近付きました。テクニカル的には50日移動平均線に加え、一目均衡表の雲の上限、21日移動平均線も抜けただけに、買いの流れが続くか注目です。上値は9月高値と10月安値の78.6%戻しの9,110円、下値は一目均衡表の雲の下限と100日移動平均線が近い8,900円と見込みます。

金ETFの代表格、SPDRゴールド・シェア(ティッカー:1326)の1週間予想レンジは、2万5,5 00~2万6,200円。


【WTI原油先物のポイント】
・WTI原油先物、10月9日に約5ドル急伸も概ね往って来い
・変化する中東勢力図、サウジは独自の要因もあり原油一段高を演出せず
・WTI原油先物、直近高安値の半値戻しを達成できず地合いは軟調か

―WTI原油先物、10月9日に約5ドル急伸も概ね往って来い
ニューヨーク・マーカンタイル取引所でのWTI原油先物価格は、買い戻しを経て失速。10月6日、米週間石油在庫統計でガソリン在庫が積み増しとなった余波から、WTI原油先物は一時81.5ドルと8月末以来の安値をつけました。パレスチナを実効支配するイスラム武装勢力ハマスによるイスラエル攻撃を受け、9日には窓を開けて一時87.24ドルと約5ドルも急伸。しかし、中東の地政学的リスク浮上を受け、原油生産にも影響が及ぶ懸念から上昇したものの、その後はサウジアラビアが原油市場の安定化に言及したとの報道を受け供給不足の懸念が後退しました。

また、米エネルギー情報局(EIA)の短期見通しで、米国の原油生産量がQ3に過去最高となり、Q4に一段と増加する見通しを示したほか、米週間石油在庫統計で原油の積み増しなどを確認。さらに国際エネルギー機関が月報で2024年の原油見通しにつき、世界経済情勢の厳しさなどを背景に下方修正したため、概ね往って来いの展開となりました。

チャート:米週間石油在庫統計、原油は4週ぶりに大幅積み増し
米原油の在庫

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米週間石油在庫統計、増減幅

―イスラエル・ハマスの大規模衝突、「第4次中東戦争」の再来を回避できるか
イスラム組織ハマスが10月7日の午前6時過ぎ、パレスチナ自治区内のガザ地区からロケット弾を発射するなどイスラエルに対し攻撃を開始し、世界に激震が走りました。1973年10月6日の第4次中東戦争(ヨム・キプール戦争)勃発から50年後に起こっただけに、当時のように中東全体を巻き込んだ戦争に発展するか、一部で懸念されています。

作家のマーク・トウェインの名言に「歴史は繰り返さない、韻を踏む」というものがありますが、少なくとも当時と現時点では決定的な違いがあります。
まず、アラブ諸国の盟主を自負するサウジアラビアは、10月7日に公表した声明でパレスチナ側に立つとの姿勢を明らかにしつつ「双方間のエスカレーションの即時停止や民間人の保護、自制を求める」とし、ハマスに支持を表明しませんでした。アラブ首長国連邦やヨルダン、トルコ、エジプトも停戦・自制を求めており、当時のようなアラブ諸国対イスラエルといった構図は描かれていません

ハマスを支援してきたイランはハマス支持を公言するものの、国交正常化合意後で初めてサウジのムハンマド皇太子とイランのライシ大統領が電話会談した際、「パレスチナに対する戦争犯罪を止める必要性について」協議したといいます。

イランはハマス以外にガザ地区の武装組織イスラム聖戦、レバノンのシーア派組織ヒズボラなどを支援しているため、今回のハマスの攻撃に関与していないとは言い切れません。しかし、少なくともブリンケン米国務長官は10月8日の段階で「イラン関与の証拠はない」と発言。米情報機関も、イランの直接関与は疑問との分析を寄せています。

―変化する中東勢力図、サウジは独自の要因もあり原油一段高を演出せず
中東情勢も、当時と比べて大きく変化しています。今年3月には、7年前に国交を断絶したサウジとイランが中国の仲介で国交正常化について合意したと発表。また、2024年の米大統領選を控え、原油価格の高騰を抑えたい米国と経済制裁の解除を求めるイランが核協議再開を模索しています。米国は、9月に両国の囚人交換を念頭に、イランの資産60億ドルの凍結解除を決定したばかりです。サウジとイスラエルも、米国の仲介で国交正常化の交渉を行っています。

脱炭素社会への移行に加え、エネルギー依存からの脱却を図る上で、防衛面での協力や投資、技術供与などを望むサウジを始めとした中東諸国の狙いと、米・イスラエルの思惑が一致したと言えます。

逆に、ハマスはパレスチナ国家建設という悲願を掲げるなか、アラブ諸国から見捨てられる恐怖が募ったとの見方があります。防衛大学校の立山良司名誉教授は、朝日新聞でのインタビューで中東諸国間の融和ムードを崩す大きな野望でなく「内向きの理論」に突き動かされ、攻撃に向かったと分析していました。

チャート:足元の中東情勢
足元の中東情勢

イスラエルのネタニヤフ首相は10月11日、ハマスとの戦闘を指揮すべく挙国一致政権を樹立、地上戦も辞さない構えを打ち出しました。仮に地上部隊投入となればアラブ諸国が猛反発し、中東情勢が一段と緊迫化しかねない一方、10月11日にサウジアラビアのムハンマド皇太子は、原油市場の安定化を確約したと伝えられました。

中東情勢における多大な不確実性を受け、WTI原油先物のボラティリティが高まりそうですが、少なくともサウジは一段の原油高を狙っているようには見えません。仮に原油高となれば、一部の産油国が増産し、サウジの自主減産の影響が軽減されるリスクが意識されます。

何より、ハマスによる攻撃直前の10月6日、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、サウジが米国・イスラエルとの三者合意を目指し、原油急騰局面で増産する用意があると報道したように、サウジは特に2024年に大統領選を控える米国に対し、恩を売ろうとするシナリオが考えられます。

サウジには、イスラエルとの国交正常化と引き換えに、米国のサウジ防衛義務付けを盛り込んだ軍事協定を結ぶ狙いがあるためです。米国の中東関与が低下していくなか、2019年9月、サウジの石油施設関連がドローンによるミサイル攻撃を受けていました。他産油国も、サウジの思惑をにらみつつイスラエル・ハマスの大規模衝突に対応していくと見込まれます。 

―WTI原油先物、直近高安値の半値戻しを達成できず地合いは軟調か
WTI原油先物の1週間の予想レンジは、81.50~88.00ドル。今後1週間は、本日の中国9月貿易収支や消費者物価指数、生産者物価指数を始め、10月17日に米9月小売売上高と鉱工業生産、18日に中国9月小売売上高と鉱工業生産、19日にパウエルFRB議長による講演を予定します。

テクニカル的には、これまでサポートだった50日移動平均線を再び下抜けたほか、一時は一目均衡表の雲に突入しました。10月9日の上昇局面で、9月高値から10月安値の半値戻しが達成できなかったことも、軟調な地合いを感じさせます。突発的な事象で上振れがないとは言い切れないものの、地合いは強いようには見えません。上値は前述した直近の高安値の半値戻し手前の88ドル、下値は前週安値がある81.50ドルと予想します。

チャート:WTI原油先物の8月以降の日足、50日移動平均線は水色線
WTI原油先物の8月以降の日足チャート
(出所:TradingView)


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安田佐和子

執筆者プロフィール

安田佐和子(ヤスダサワコ)

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役/経済アナリスト

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