マネースクエア マーケット情報

ロシアの「デフォルト」を正しく理解しよう!

2022/06/28 09:02

※本レポートは3月21日に作成したものです。最新の情報は、6月28日付けファンダメ・ポイント「ロシアがついにデフォルト⁉」をご覧ください。

【目次】

・デフォルトとは?
・ルーブルによる支払いはOKか?
・今後の元利払いスケジュールは?
・デフォルトにも種類がある?
・「デフォルト」で何が起きるか?
・「デフォルト=無価値」なのか?
・クロス・デフォルトとソブリン・シーリングって何?

3月16日が期日だった2つの米ドル建てロシア国債の利払い計1.17億ドルは履行されたようです(全ての債券保有者が利払いを受領したかは確認できません)。ロシアのデフォルト(債務不履行)はいったん回避されましたが、危機が去ったわけではありません。今後も機会があるごとにデフォルト観測が浮上する可能性があります。ここではロシアの「デフォルト」について詳しく解説します。

*******
デフォルトとは?
まず、債券市場における「デフォルト(債務不履行)」とは、発行時の条件通りに利払いや満期償還(元本の支払い)が実行されないことを指します。主に、発行者に支払う能力がないか、能力はあっても支払う意思がないか、あるいはそれら両方のケースが該当します。

もっとも、ロシアの債券(国債だけでなく、社債も含む)のケースでは、経済制裁が絡むため、事態は複雑です。発行体に支払う能力と意思があっても、債券保有者(投資家)が受け取れないケースがあるからです。そうしたケースもデフォルトに該当します。

例えば、ルーブル建て国債(OFZ)について、ロシア財務省は国内の決済機構に支払いを実行したものの、ロシア中銀の規制によって外国向けのルーブル支払いができないようです。

また、3月16日の米ドル建て利払いについて、米財務省のOFAC(外国資産管理室)は米国の管理銀行から投資家への支払いを承認しました。しかし、5月25日以降は規制の対象になります(対象外とする措置を延長する可能性はあります)。

ルーブルによる支払いはOKか?
ロシアは14年のクリミア併合以降、対外債務を減らし、外貨準備を積み上げるなど、欧米経済への依存度を引き下げてきました。もっとも6,400億ドルとされる外貨準備(米ドルは16%程度)の約半分は凍結されたとのこと。また、経済制裁によって、外貨の獲得や支払いは今後一段と困難になるでしょう。

ロシアは、外貨建て債務について、経済制裁が解除されるまで制裁に参加する日米英EUなどの「非友好国」に対してルーブルでの支払いを認める方針を打ち出しました。ルーブルでの元利払いは債券発行時の条件と異なるため、デフォルトと判定される可能性が高そうです。大手格付け会社はそうした見解を発表しています。ただし、クリミア併合以降に発行された国債にはルーブル払いのオプションがついているものが多くあるようです。そのケースではデフォルトには該当しないでしょう。

今後の元利払いスケジュールは?
ロシアの外貨建て国債の元利払いのスケジュールは以下の通りです。3月16日の利払いは1.17億ドルでしたが、3月31日には4.47億ドルの元利払いがあります。また、4月4日には21.29億ドルの元利払いがあります。3月31日の元利払いの猶予期間は通常の30日間より短い15日間との報道もあり、それが正しければ4月15日までに元利払いが履行されないとデフォルトと判定されるかもしれません。

ロシア国債支払いスケジュール

デフォルトにも種類がある?
上述したように、早ければ4月15日に米ドル建て国債がデフォルトと判定される可能性があります。また、3月2日のルーブル建て国債(OFZ)の利払いが実行されていないとの報道もあり、その場合、4月1日にルーブル建て国債がデフォルトと判定されるかもしれません。

デフォルトの保険として、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)があります。当該債券に保証対象となる「イベント」が発生したかどうかは判定委員会(Credit Derivatives Determinations Committee)が判定します。

格付けにおける「デフォルト」は少し違います。格付けは主に、想定されるデフォルトの確率によって決まりますが、いくつかの種類があります。発行体格付け、外貨建て長期債(短期債)、自国通貨建て長期債(短期債)などです。発行体が同じであれば、それぞれの格付けはほぼ同じですが、発行条件などによって若干の違いが生じるケースはあるようです(下表)。

特定の債券がデフォルトした場合、発行体が破たん(倒産や業務停止も含む)したのでなければ、「SD(選択的デフォルト、S&P)」や「RD(一部デフォルト、フィッチ)」といった格付けになります。ただし、デフォルト状態であっても、資金回収が見込まれるのであれば、「デフォルト」より上の格付けが付与されるケースもあるようです。

例えば、98年8月のロシアのデフォルトに際して、S&Pによる外貨建て長期債の格付けは「B-」から「CCC」に引き下げられましたが、「SD」となったのは99年1月でした。また、ムーディーズによる自国通貨建て長期債の格付けは「Ca(S&PやフィッチのCCと同じ)」より下には下がりませんでした。

なお、一部報道では、「ロシアが対外債務でデフォルトすれば1917年のロシア革命以来」とされています。98年のデフォルトが国内向け債務不履行(厳密には再編)で、対外債務は90日間のモラトリアム(履行停止)にとどまったからでしょう。この場合の「デフォルト」は冒頭で紹介した定義と異なり、「借金踏み倒し」という意味でしょう。

格付け一覧
                                                     
「デフォルト」で何が起きるか?
特定の債券のデフォルトによって直接的に発生する損失はさほど大きくないでしょう。ただし、強力な経済制裁や厳しいリセッション(景気後退)を前提とすれば、ロシア政府や企業の対外債務が全てデフォルトの危機にあるといっても過言ではなさそうです。

ロシア中銀によれば、21年9月末の時点で、対外債務残高は4,906億ドル。うち政府分は677億ドル(外貨建て国債205億ドル、ルーブル建て国債465億ドル)、企業が中心の「その他」が3,129億ドル(主に直接投資や融資)。一方、Bloombergによれば、外国投資家が保有する債券は、国債が約400億ドル、社債も合わせて合計1,500億ドル。また、BIS(国際決済銀行)によれば、外国銀行によるロシア向け融資はフランスやイタリアなどを中心に1,214億ドルあるとのこと。

同じ時点の米国の対外債務が22.8兆ドル、国債だけで7.6兆ドルであるのと比べれば、ロシアの対外債務はかなり小規模です。また、98年にロシアのデフォルトや大手ヘッジファンドLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)の破たんを経験していること、14年のクリミア併合後は何らかの形で経済制裁が発動されてきたことを勘案すれば、ロシアの「デフォルト」がグローバルな金融市場を揺るがせることはないかもしれません。

ただし、CDSの履行なども含めて、「ロシア・リスク」が一部の投資家や金融機関に何らかの形で集中しているかもしれません。思いがけない形で発出する可能性は否定できません。

ロシアと米国の対外債務

「デフォルト=無価値」なのか?
ある債券がデフォルトしたからといって、ただちに紙くず(無価値)になるわけではありません。発行体に支払う能力と意思があって、それでも手続き上の問題などで元利払いが履行できない、いわゆるテクニカル・デフォルトの場合は問題が解消すれば、100%の資金回収が可能でしょう。また、そうではなくとも、発行体と投資家の交渉によって、あるいは裁判による差し押さえなどを通じて、投資家は一定の資金回収が可能かもしれません。

例えば、ベネズエラの国営石油会社の例があります。ベネズエラは17年11月に国債がデフォルトし、18年2月には同社の債券もデフォルトしました。しかし、当該債券の価格はその後も額面1ドルにつき20~30セントで推移。18年大統領選挙の不正疑惑に絡んで米国が取引停止とし、停止期間(19年2月~20年11月)明けにほぼ無価値となりました。それでも、満期日(22年2月17日)を経過しても数セントの価格がついているのは、わずかでも資金回収の可能性が残っているからでしょう。

仮にロシア国債がデフォルトした場合、現状ではロシアと米英欧を中心とした債権者が債務リストラ(再編)に関して建設的な話し合いができるかは不透明です。「現時点でロシア国債の価値はゼロ」と言い切る著名投資家もいるようです。

ベネズエラ債券

クロス・デフォルトとソブリン・シーリングって何?
デフォルト懸念がロシアの債券全体に広がるかどうかという点に関連して、2つの重要な概念があります。「クロス・デフォルト」と「ソブリン・シーリング」です。

クロス・デフォルトとは、一つの債務がデフォルトした場合に同じ債務者が負う債務は、元利払いの期日が到来していなくともデフォルトとみなされ、債権者は資金の返済を求めることができるという条項のこと。

ソブリン・シーリングとは、企業の格付けがその国(政府)の格付けを上回ることができないという考え方のこと。国は企業に対する増税や資産接収などを行う権限を持ちうるので、企業の債務返済より国の債務返済を優先できるからです。もっとも、多国籍企業などで海外に十分な資産や収益源を持つ場合は例外となります。なお、ソブリン・シーリングを明示しているフィッチは現在ロシアを「B-」としています。

今回のロシアのケースで、クロス・デフォルトやソブリン・シーリングが適用されるのか不透明です。ただし、ロシアのデフォルト懸念が政府の支払い能力だけに基づくものではなく、経済制裁といったロシア経済全体を取り巻く環境にも基づいているため、(債券だけでなく)ほとんどの債務にデフォルトの可能性があるのかもしれません。
西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

  • 当レポートは、情報提供を目的としたものであり、特定の商品の推奨あるいは特定の取引の勧誘を目的としたものではありません。
  • 当レポートに記載する相場見通しや売買戦略は、ファンダメンタルズ分析やテクニカル分析などを用いた執筆者個人の判断に基づくものであり、予告なく変更になる場合があります。また、相場の行方を保証するものではありません。お取引はご自身で判断いただきますようお願いいたします。
  • 当レポートのデータ情報等は信頼できると思われる各種情報源から入手したものですが、当社はその正確性・安全性等を保証するものではありません。
  • 相場の状況により、当社のレートとレポート内のレートが異なる場合があります。
topへ