米FOMCの積極利下げ観測は裏打ちされるか
2025/09/08 12:18
※次号ウィークリー・アウトルックは9月16日(火)に配信いたします。
【今週のポイント】
・米8月雇用統計を受けて、高まった利下げ観測はCPI等でサポートされるか
・金融政策差はユーロ/米ドルのプラス材料、フランス政局が重石になるか
・トルコ中銀はどの程度利下げするか
・8月のRBNZ会合の結果が引き続き市場で意識されるか
米国の8月雇用統計は、NFP(非農業部門雇用者数)が前月比2.2万人増、3カ月平均は同2.9万人増。5-6月分が大幅下方修正された7月に続いて弱い結果でした。失業率は0.1%上昇して4.3%。JOLTS(労働動態調査)やベージュブック(地区連銀経済報告)が示唆した雇用の軟調が表面化した格好です。
雇用統計を受けて市場ではFOMCの利下げ観測が高まりました。5日時点のOIS(翌日物金利スワップ)に基づけば、9月16-17日のFOMCでは利下げが確実視され、0.50%幅での利下げもわずかながら織り込まれました。市場は、9月を含め年内残り3回のFOMCで0.25%×2.8回、26年7月までの8回のFOMCで0.25%×5.2回の利下げを織り込んでいます。
今週の8月CPIや9月ミシガン大学消費者信頼感指数、その他の経済指標で、市場が織り込むFOMCの積極的かつ大幅な利下げが裏打ちされるのかが注目されます。また、雇用統計の年次改定で今年3月時点のNFPについて、通常のサンプルによる推計ではなく、失業保険登録に基づく全数調査の結果が発表されます。過去データに反映されるのは26年1月分の発表時点ですが、市場が反応する可能性はあります。
ECB理事会は据え置きが確実視されます。5日時点のOISに基づけば、市場は26年7月までに0.25%×0.8回の利下げしか織り込んでいません。政策金利(中銀預金金利)は2%まで引き下げられており、追加利下げがあるかどうかは微妙なところ。追加利下げがあるとしても下げ余地は限定的でしょう。声明文やラガルド総裁の記者会見で金融政策の先行きに関してどのようなメッセージが発せられるでしょうか。
フランスでのバイル内閣の信認投票にも注目です。26年度の予算を巡って、野党は緊縮策に反発しており、少数派内閣の信任投票が否決される可能性が高そうです。フランス政治が流動化し、また財政に対する懸念が強まれば、フランスの長期金利が上昇し、ドイツや域外の国の長期金利にも上昇圧力が加わるかもしれません。
石破首相の辞意表明を受けて、日本の政治も流動化しています。次の首相は誰?が大きなテーマとして浮上してきました。新首相が野党の圧力に負けて財政拡張的な政策をとるのかどうか。自民党総裁選、そして臨時国会を経て誰が次期首相になるのか、どういった政策を打ち出すのか、大いに注目されます。<西田>
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5日に発表された米国の8月雇用統計の弱い結果を受け、市場ではFRBによる積極的な利下げ観測が高まりました。11日発表の米国の8月CPIが市場予想と比べて弱い結果になれば、積極的な利下げ観測は一段と高まると考えられます。その場合、米ドル安圧力はさらに強まり、豪ドル/米ドルやNZドル/米ドルは堅調に推移しそうです。米ドル/カナダドルについては、BOC(カナダ中銀)による追加利下げ観測が高まっていることから下げ渋る可能性があります。
11日には、TCMB(トルコ中銀)の政策会合が開かれます。TCMBは前回7月の政策会合で3.00%の利下げを行うことを決定。主要政策金利の1週間物レポ金利を46.00%から43.00%へと引き下げました。
トルコの8月CPIは前年比32.95%と、上昇率は前月の33.52%から鈍化しました。上昇率が鈍化したのは15カ月連続です。市場では、TCMBは11日の会合で追加利下げを行うと予想されており、利下げ幅は2.00%になるとの見方が優勢です。利下げ幅が市場予想と異なる結果になれば、トルコリラが反応するかもしれません。<八代>
今週の注目通貨ペア①:<米ドル/円 予想レンジ:145.000円~150.000円>
米FOMCの利下げ観測や長期金利(10年物国債利回り)の低下など、米ドルには下落圧力が加わり易い状況です。他方、実質賃金のプラス化や4-6月期GDPの上方修正など、日銀の利上げをサポートする材料はあります。日米長期金利差は約3年ぶりの水準まで縮小しており、従来の関係に基づけば、米ドル/円が下落しても不思議ではありません。
しかし、政局の不透明や財政赤字拡大懸念が日銀の利上げ観測を後退させており、円に下押し圧力を加えているようです。また、NYダウが5日に一時最高値を更新したように、米株が堅調に推移していることも、米ドル買いの資金フローを生んでいるのかもしれません。
今後、日米長期金利差が示唆するように、米ドル/円に下落圧力が加わるのかどうか。注目点の1つは、FOMCの利下げ観測が米株の上昇につながるどうか。利下げ観測から米株が上昇するならば、米ドル買いのフローが継続して米ドル/円をサポートしそうです。逆に、景気減速を嫌気して米株が下落するならば、米ドル/円にも下向きの圧力が加わりそうです。
もう1つは、日本の政局がどうなるか。政治が不安定な状況下で財政拡大の懸念が続くならば、円に対して下落圧力が加わり続けそうです。政治が安定し、日銀の利上げが現実味を帯びるようなら、日米長期金利差の縮小がストレートに米ドル/円の下落につながるかもしれません。
また、トランプ政権からの様々な利下げ圧力や市場の積極利下げの観測に抵抗して、FRBが金融政策を慎重に運営することができるかどうかも重要かもしれません。トランプ関税などインフレ要因&不確実要素が残るなかで、FRBが積極的に利下げを行えば、FRBの独立性に対する疑念を生み、米ドルの信認低下につながりそうです。<西田>
今週の注目通貨ペア②:<ユーロ/米ドル 予想レンジ:1.1500ドル~1.1900ドル>
ユーロ/米ドルは8月1日に米国の7月雇用統計の軟調を受けて反発、その後は堅調に推移しています。FOMCの利下げ観測の高まりを素直に反映している形です。ECBが11日の理事会で政策金利の据え置きを決定したうえで、追加利下げに慎重な姿勢を示した場合、そして、11日の米国の8月CPI(や10日の同PPI)が利下げを踏みとどまらせる結果とならなかった場合、ユーロ/米ドルは上昇し、いずれ7月1日の高値(1.18249ドル)を試す展開となるかもしれません。
他方、8日に実施される国民議会(下院)でのバイル内閣の信任投票では、バイル首相の退陣が決まりそうです。市場はそうした結果を既に織り込んでいるとみられます。ただし、フランスの政治不安が高まるなかで、震源地となった財政再建の道筋は見つかりそうにありません。
バイル首相が信任投票を発表した8月下旬以降、ドイツとフランスの長期金利差は大きく拡大しました。今後の状況次第で長期金利差が一段と拡大するようであれば、ユーロ/米ドルの重石になる可能性はあります。<西田>
今週の注目通貨ペア③:<豪ドル/NZドル 予想レンジ:1.10000NZドル~1.12000NZドル>
豪ドル/NZドルは9月4日に一時1.11512NZドルへと上昇し、2月中旬以来6カ月半ぶりの高値をつけました。
足もとの豪ドル/NZドル上昇の主な要因として、8月20日に開かれたRBNZ(NZ中銀)の政策会合が挙げられます。RBNZ会合では0.25%利下げすることが決定されました。そのことは市場予想どおりだったものの、市場にとってのサプライズもあり、それらがNZドル安圧力を生じさせました。
サプライズとは、(1)会合ではより大幅な0.50%利下げすることも検討されたこと、(2)政策メンバーの意見がまとまらずに投票が実施されて、4人が0.25%の利下げに賛成し、2人は0.50%の利下げを支持したこと、(3)RBNZによる政策金利見通しでは、今回の利下げサイクルの最終到達点が5月時点の2.85%から2.55%へと下方修正されたことです。
また、豪州の4-6月期GDP(国内総生産。9/3発表)は前期比0.6%、前年比1.6%と、いずれも市場予想(0.5%と1.6%)を上回りました。そのことも豪ドル/NZドルの支援材料となったと考えられます。
今週は、豪州とNZのいずれも主要な経済指標の発表はありません。RBNZ会合の結果などが引き続き市場で意識されれば、豪ドル/NZドルは底堅く推移する可能性があります。<八代>
今週の注目通貨ペア④:<米ドル/カナダドル 予想レンジ:1.37000カナダドル~1.39500カナダドル>
9月5日に発表されたカナダの8月雇用統計は、失業率が7.1%、雇用者数が前月比6.55万人減となり、いずれも市場予想(7.0%と1.00万人増)と比べて弱い結果でした。
BOC(カナダ中銀)は前回7月の会合で政策金利を2.75%に据え置きました。マックレム総裁は会合後の会見で「景気の減速がインフレにさらなる下押し圧力を加え、貿易の混乱による物価上昇圧力が抑制される場合、政策金利の引き下げが必要になる可能性がある」と述べました。カナダの8月雇用統計の結果を受け、市場では次回9月17日のBOC会合での追加利下げ観測が高まりました。OIS(翌日物金利スワップ)によると、市場が織り込む次回会合での利下げ確率は8割強(9/5時点)。4日時点は6割強でした。
一方で、米国の8月雇用統計の弱い結果を受けて、市場ではFRBによる積極的な利下げ観測が高まりました。
米ドル/カナダドルは7月下旬以降、おおむね1.37000カナダドル~1.39200カナダドルのレンジで上下動を繰り返しており、短期的な方向感が失われているように見えます。FRBとBOCの金融政策面から考えれば、米ドルとカナダドルの双方にマイナス材料があり、米ドル/カナダドルは引き続き方向感の乏しい展開になるかもしれません。<八代>
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