マネースクエア マーケット情報

米雇用統計:NFPは引き続き軟調、失業率も小幅上昇

2025/09/06 06:34

【ポイント】
・8月NFPは前月比2.2万人増、失業率は4.3%に上昇
・長期金利は4月以来の水準に低下し、米ドルを下押し
・市場は年内2.7回、26年7月までに5.2回の利下げを織り込む!?
・11日の8月CPIなどを踏まえてFRBからどんなメッセージが出されるか

米国の8月雇用統計ではNFP(非農業部門雇用者数)が引き続き弱く、失業率も小幅上昇しました。長期金利(10年物国債利回り)は大きく低下し、米ドルの重石となりました。

長期金利

市場では、9月16-17日のFOMCでの利下げが確実視され、利下げ幅が0.50%になる確率もわずかながら織り込まれました。雇用統計後のOIS(翌日物金利スワップ)に基づけば、市場は年内残り3回のFOMCで0.25%×2.7回の利下げを織り込んでおり、26年7月までの8回のFOMCで0.25%×5.2回の利下げを織り込みました。

FOMC政策金利見通し

失業率は引き続きFOMCが自然失業率(※)とみなすレンジ内にほぼ収まっているため、大幅かつ積極的な利下げが必要と判断されるかは微妙なところです。ただ、上院での承認待ちのミラン(マイラン)理事候補が16-17日のFOMCに参加すれば、ボウマン副議長やウォラー理事に加わってそうした方向に議論をリードしようとするかもしれません。

能力に問題なく、職を求める人が全て職に就いている状態。それを下回れば、労働需給のひっ迫によって賃金上昇率が顕著に高まり始めるとされる水準。米国ではNAIRU(Non-Accelerating Inflation Rate of Unemploymentの略、ナイルと読みます)とも呼ばれます。FOMCで発表される経済・金融見通しにおける「失業率の長期予想」がこれに該当すると考えられます。

クック理事の解任によって(その可否は司法の判断待ちですが)、FRBの独立性に関する懸念が強まる中でも、景気減速や利下げ観測から長期金利は今年4月の「関税ショック」以来の水準に低下しています。内外金利差の面からも米ドルに下押し圧力が加わり易い状況です。

11日の8月CPIなどを受けてFOMCどう判断するか、大幅利下げを織り込む市場に対してパウエル議長がどのようなメッセージを発するのか、要注目です。

*******
8月雇用統計では、事業所調査のNFP(非農業部門雇用者数)は前月比2.2万人増と、市場予想(7.5万人増)を下回りました。7月分は小幅上方修正されましたが、6月分が下方修正されて1.3万人減と、コロナショックの影響が残った20年12月以来のマイナスとなりました。3カ月移動平均は2.9万人増と低空飛行が続きました。

なお、9日にNFPの年次改定が実施されます。これは毎年3月のNFPの水準を通常のサンプルデータからの推計でなく、失業保険登録者数などから全数調査するもの。それに伴ったNFPデータの遡及改定は26年1月の雇用統計発表時に反映されます。

NFP

時間当たり賃金は前年比3.7%増と、前月から伸びが0.2%鈍化。<雇用者数×週平均労働時間×時間当たり賃金>で求められる総賃金指数は前年比4.4%増と、前月の4.9%から伸びが鈍化しました。ただ、インフレ率を上回って推移しています。

時間当たり賃金

総賃金
家計調査に基づく失業率は4.3%と、前月から0.1%上昇。FOMCが自然失業率とみなす水準の中央値4.2%をわずかに上回りましたが、中心的レンジ(4.0~4.3%)には収まっています(もっとも、8月の失業率は厳密には4.32%)。

失業率

失業率4.3%は、労働力人口<雇用者数+失業者数>前月比43.6万人増、雇用者数28.8万人増、失業者数14.8万人増の結果でした。もっとも、今年に入って労働力人口の伸びが止まっており(ピークは4月)、移民規制強化の影響が考えられます。パウエル議長が(NFPよりも)失業率を重視すべきと言った理由の一つでしょう。

労働力人口

労働参加率<労働力人口÷生産年齢人口>は62.3%と前月から0.1ポイント上昇。もっとも、労働参加率は23年末ごろの62.8%をピークに低下基調にあり、労働市場軟調(労働意欲の低下)の兆候と言えるかもしれません。

労働参加率
西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

  • 当レポートは、情報提供を目的としたものであり、特定の商品の推奨あるいは特定の取引の勧誘を目的としたものではありません。
  • 当レポートに記載する相場見通しや売買戦略は、ファンダメンタルズ分析やテクニカル分析などを用いた執筆者個人の判断に基づくものであり、予告なく変更になる場合があります。また、相場の行方を保証するものではありません。お取引はご自身で判断いただきますようお願いいたします。
  • 当レポートのデータ情報等は信頼できると思われる各種情報源から入手したものですが、当社はその正確性・安全性等を保証するものではありません。
  • 相場の状況により、当社のレートとレポート内のレートが異なる場合があります。
topへ