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FOMC議事録:雇用統計前はやや「タカ派的」だったが・・・

2025/08/21 06:36

【ポイント】
・引き続き関税の評価がFOMCでの議論の中心
・雇用の下振れリスクより物価の上振れリスクが大きいと多くが考えたが・・・
・7月雇用統計でどう変化したか。パウエル議長の講演待ち?

米FOMC議事録(7/29-30開催分)によれば、大部分の参加者が雇用の下振れリスクより物価上振れのリスクが大きいと指摘した、ややタカ派的な内容でした。利下げを支持した2人の投票メンバー以外に雇用の下振れリスクを重視した参加者はいなかったようです。

もっとも、FOMC直後の7月雇用統計が非常に弱かったため、FOMC参加者の考えに変化が生じている可能性はあります。労働市場の最新の評価という意味で、ジャクソンホール会議で22日(日本時間23:00開始)に実施されるパウエルFRB議長の講演が注目されます。

■8/19付け「ジャクソンホール会議、パウエルFRB議長は利下げを示唆するか」をご覧ください。

議事録の公表を受けて、直前まで軟調だった米ドル/円は小反発しましたが、反応は限定的。OIS(翌日物金利スワップ)に基づけば、市場は9月16-17日のFOMCでの0.25%利下げを約8割の確率で織り込んでいます。先週半ばには利下げが確実視されていました。

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FOMC議事録(7/29-30開催分)によれば、中心テーマは引き続き関税。議事録中に「関税」への言及が36回と、前回6月(31回)からさらに増えました。関税の影響の「タイミング」、「大きさ」、「持続性」に関して詳細な議論がなされました。一方、(政府の政策に関わる)「不確実(不透明)」への言及は15回と、前回(28回)から減少。主要な関税交渉で合意がなされたことが大きかったようです。

物価の見通しについて、関税の影響が完全に出るまでに時間がかかると多くの参加者が指摘しました。要因として、(関税前の)在庫の積み増し、投入コストが最終価格に波及するまでの時間契約価格の改定にかかる時間、関税徴収までの時間、依然として関税交渉が進行中、などが挙げられました。

関税の影響の大きさに関して、外国の輸出業者はせいぜい関税のごく一部しか負担しておらず、国内の企業や消費者が関税コストのほとんどを負担することになるとの指摘がありました。

一方で、関税の負担を減らす対策として、サプライヤーとの交渉や変更生産工程の見直し利ザヤの圧縮、オートメーションやAIの活用などを挙げる参加者もいました。

関税効果の持続性については見解が分かれました。関税は一時的な価格水準の引き上げであって効果は続かないとの見方がありました。一方で、サプライチェーンの障害などは持続性があり、他のインフレ要因と区別するのが困難だとの指摘もありました。

労働市場については7月雇用統計発表前だったこともあり、雇用はFRBの目的の一つである「最大雇用」か、それに近いと評価されました。不確実性が高いため、企業は採用にも解雇にも慎重だとの指摘もありました。

雇用が軟化している兆候があるとの指摘はありました。ただ、雇用の伸び鈍化は必ずしも経済実態の弱さを示唆しているわけではないとの意見もありました。それは、移民の減少が雇用の伸びを抑制しているためで、結果として失業率の安定に必要となる雇用の伸びは低下しているとのこと。

パウエル議長は当該FOMC後の記者会見で「(NFP=非農業部門雇用者数ではなく?)重要なのは失業率だ」と述べましたが、上記の議論を踏まえてのことでしょう。7月NFPの弱さを予見していたか、あるいは事前にある程度の情報を得ていた可能性もあるでしょう。


■8/2付け「米雇用統計:NFPは急失速! パウエル議長が失業率を重視する訳⁉」をご覧ください。
西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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