トランプ大統領はパウエル議長を解任するのか、できるのか
2025/06/10 08:21
【ポイント】
・トランプ大統領はパウエル議長に1%の利下げを要求
・大統領が議長の後任に言及したのは来週のFOMCに向けた圧力か
・政策の不一致は議長を解任する「正当な理由」とはなりにくい
・FRBの独立性が侵害されたと判断すれば市場がネガティブに反応も
トランプ大統領は度々、パウエルFRB議長に利下げを要求。6日にはSNSで1%の利下げを行うよう迫りました。その後、大統領はエアフォースワン(大統領専用機)で取材に応じ、パウエル議長の後継者を検討しており、「(その人物は)間もなく明らかになるだろう」と述べました。
トランプ大統領は一時パウエル議長の解任を検討したようですが、4月22日には記者団に対して「パウエル議長を解任する意図は全くない」と明言しました。したがって、今回の発言もパウエル議長の任期満了後の人選に関するものだったかもしれません。パウエル議長の任期は26年5月15日まで、FRB理事としての任期は28年1月31日までです。
ただし、トランプ大統領は来週17-18日のFOMCで利下げを検討するよう圧力をかけているのでしょう。パウエル議長自身も任期途中での辞任は否定しており、また前回5月7日のFOMC後の記者会見では、「(大統領の発言は)我々の仕事に何ら影響しない」と断言しました。
*******
では、大統領はFRB議長を解任することが可能なのでしょうか。
FRB設立の根拠となった連邦準備制度法(Federal Reserve Act)には、議長を含む理事は「正当な理由(cause)」があれば大統領による解任は可能だとあります。もっとも、「正当な理由」とは、過去の判例に従い「非能率、職務怠慢、職務上の不正行為」に限定されると解釈されています。志向する金融政策が異なること(今回は利下げの是非)は「正当な理由」とは言えないでしょう。ただし、トランプ大統領が拡大解釈してパウエル議長を解任し、その正当性を巡って法廷闘争へと発展する可能性はゼロではないかもしれません。
現在、最高裁ではトランプ大統領による独立機関の高官解任(※)を巡って訴訟が行われており、その結果が何らかの影響をもたらすかもしれません。
※トランプ大統領が1月末にNLRB(全米労働関係委員会)の民主党系幹部2人、MSPB(メリットシステム保護委員会)の民主党系委員を解任。5月23日付けのBloombergによれば、最高裁はそれらの解任を容認する一方で、FRBを「独自の構造を持つ準民間組織」と位置づけて同列では議論できないとの見解を示したようです。
もう一つのあり得るシナリオは、トランプ大統領がパウエル議長を単なる理事に降格すること。連邦準備制度法には議長の地位を保護する明確な規定はないようです。もっとも、議長降格の事例は過去にありません。
いずれにせよ、トランプ大統領がFRBの独立性を侵害したとみなされれば、金融市場がネガティブに反応するであろうことは想像に難くありません。
・トランプ大統領はパウエル議長に1%の利下げを要求
・大統領が議長の後任に言及したのは来週のFOMCに向けた圧力か
・政策の不一致は議長を解任する「正当な理由」とはなりにくい
・FRBの独立性が侵害されたと判断すれば市場がネガティブに反応も
トランプ大統領は度々、パウエルFRB議長に利下げを要求。6日にはSNSで1%の利下げを行うよう迫りました。その後、大統領はエアフォースワン(大統領専用機)で取材に応じ、パウエル議長の後継者を検討しており、「(その人物は)間もなく明らかになるだろう」と述べました。
トランプ大統領は一時パウエル議長の解任を検討したようですが、4月22日には記者団に対して「パウエル議長を解任する意図は全くない」と明言しました。したがって、今回の発言もパウエル議長の任期満了後の人選に関するものだったかもしれません。パウエル議長の任期は26年5月15日まで、FRB理事としての任期は28年1月31日までです。
ただし、トランプ大統領は来週17-18日のFOMCで利下げを検討するよう圧力をかけているのでしょう。パウエル議長自身も任期途中での辞任は否定しており、また前回5月7日のFOMC後の記者会見では、「(大統領の発言は)我々の仕事に何ら影響しない」と断言しました。
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では、大統領はFRB議長を解任することが可能なのでしょうか。
FRB設立の根拠となった連邦準備制度法(Federal Reserve Act)には、議長を含む理事は「正当な理由(cause)」があれば大統領による解任は可能だとあります。もっとも、「正当な理由」とは、過去の判例に従い「非能率、職務怠慢、職務上の不正行為」に限定されると解釈されています。志向する金融政策が異なること(今回は利下げの是非)は「正当な理由」とは言えないでしょう。ただし、トランプ大統領が拡大解釈してパウエル議長を解任し、その正当性を巡って法廷闘争へと発展する可能性はゼロではないかもしれません。
現在、最高裁ではトランプ大統領による独立機関の高官解任(※)を巡って訴訟が行われており、その結果が何らかの影響をもたらすかもしれません。
※トランプ大統領が1月末にNLRB(全米労働関係委員会)の民主党系幹部2人、MSPB(メリットシステム保護委員会)の民主党系委員を解任。5月23日付けのBloombergによれば、最高裁はそれらの解任を容認する一方で、FRBを「独自の構造を持つ準民間組織」と位置づけて同列では議論できないとの見解を示したようです。
もう一つのあり得るシナリオは、トランプ大統領がパウエル議長を単なる理事に降格すること。連邦準備制度法には議長の地位を保護する明確な規定はないようです。もっとも、議長降格の事例は過去にありません。
いずれにせよ、トランプ大統領がFRBの独立性を侵害したとみなされれば、金融市場がネガティブに反応するであろうことは想像に難くありません。
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