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ゴールド大幅調整、原油は上値重い 金とビットコインの共通点とは

2024/11/15 11:51

<金は軟調、大きな「押し目」に>
今週(11/4─)の米ドル建て金先物は軟調な展開となりました。一時2,500ドル台前半と約2カ月ぶりの安値水準を付け、今年最大の調整となっています。米上下両院で共和党が多数を占めることで、トランプ氏が掲げるインフレ的な政策が通りやすくなるとの見方から米長期金利が上昇。金利が付かない金には逆風となっています。

米ドル建て金先物価格の1週間予想レンジ:2,500─2,650ドル
円建て金先物価格の1週間予想レンジ:12,300─13,500円

*局所的な「トランプ・トレード」継続
マーケットでは「トランプ・トレード」が続いています。いわゆるトリプルレッド(米大統領と米議会両院の過半数が共和党)が確実になったことで、景気刺激的・インフレ的な政策が進みやすくなったとみられているようです。

トランプ氏の勝利が、事前にある程度織り込まれていたことで、「トランプ・トレード」は8年前ほどの勢いはなく、また全世界的、全資産的な流れでもありませんが、一部の資産では引き続き材料視されています。

いま買われているのは、ビットコイン、テスラ株、米ドルなど。売られているのは、米国債、ゴールドなどです。金からビットコインに資金が流出しているとの見方もあり、金は大きく下落しています。それまで連日で過去最高値を更新していただけに利益確定売りが出やすいのかもしれません。

ただ、マーケットでは、今回の調整は、金投資家にとって絶好の「押し目」とみる強気な見方も依然多く聞かれます。ウクライナ戦争や中東の紛争を終結させるとトランプ氏は息巻いてますが、一方に有利な解決は相手側の不満を高め、事態が泥沼化するおそれもあります。そうなれば「安全資産」としての金需要が再び高まる可能性もあるでしょう。

2016年11月8日の米大統領選でトランプ氏が勝利した際、米ドル建て金先物は11月7日から12月15日まで11.6%下落。その後反転して17年9月8日までに19.5%上昇しました。今回、その騰落率をそのまま当てはめれば、2,430ドルまで下落して2,900ドルまで反転上昇することになります。

*米ドル建て金先物の日足(期間:2023/12/22~2024/11/14)、青:25日移動平均線、黄:200日移動平均線
米ドル建て金先物の日足チャート
(出所:TradingView)


<原油は上値重い展開>
今週のWTI原油先物価格は上値が重い展開となりました。中国などの需要減に対する懸念が重石となり、前週末の70ドル付近から60ドル台後半に水準を下げて推移しています。トランプ氏は米国の化石燃料業界を支援する姿勢を示しているものの、同氏の高関税政策が、世界経済にとってマイナスになり、石油需要を弱めるとの見方も出ています。

WTI原油先物価格の1週間予想レンジ:1バレル66─72ドル

*OPECは需要減見通し、米在庫はまちまち
石油輸出国機構(OPEC)は12日に発表した月報で、2024年の世界石油需要予想を前年比日量182万バレル増とし、前月の日量193万バレルから11万バレル引き下げました。24年見通しの引き下げは4カ月連続です。中国やインドなどの需要の弱さが背景としており、25年についても前年比日量154万バレル増とし前回の164万バレルから引き下げました。

OPEC加盟国とロシアなど非加盟の産油国で構成する「OPECプラス」は今月3日、12月から予定されていた有志国による自主減産の縮小を1カ月延期することで合意したと発表しました。需要見通しが弱くなっていることから、来年以降も減産が継続されるかに注目が集まります。

米エネルギー情報局(EIA)が14日に発表した8日時点の週間石油在庫統計では、原油在庫が前週比208.9万バレル増加しました。2週連続の増加です。一方、ガソリン在庫は440.7万バレルの大幅減少、留出油も139.4万バレルの減少となりました。まちまちの結果となり、相場への影響としては中立的でした。

*WTI原油先物の日足(期間:2023/12/27~2024/11/14)、青:25日移動平均線、黄:200日移動平均線
WTI原油先物の日足チャート
(出所:TradingView)


<今週のトピック:エレクトロン金貨>

金を最初に貨幣として使ったのは、紀元前7世紀、小アジアにあったリュディア王国とされます。小アジアとは現在のトルコのアナトリア半島部あたり。この地方では、砂金に混じって自然に作られた金と銀の合金が粒となって取れたことから、それを集めて、獅子など動物の顔などを刻印し、貨幣として使えるようにしました。

金の品位は30─50%程度だったとされるので、現在の「K10」くらいです。鋳型に金属を流し込んで作る鋳造ではなく、金属の塊に文様を打ち込んで作ったので、形がいびつですが、交換手段として瞬く間に普及しました。

この通貨は「エレクトラム金貨」や「エレクトロン金貨」と呼ばれました。「エレクトロン」とはギリシャ語で「琥珀」という意味ですが、通貨の形状が琥珀に似ていることから、そう呼ばれるようになったようです。

「エレクトロン」。琥珀をこすると静電気が起きることから、琥珀は電子の語源にもなりました。そう金と電子は同じ語源なのです。電子のお金(通貨かどうかには議論がありますが)といえば、ビットコインなどの暗号資産です。最も古いお金である金と、最も新しいお金である暗号資産に共通点があるのは面白いですね。

金は実物として永遠に残りますが、暗号資産はネット上の存在で実体はありません。安定性という意味では両極端な存在ですが、最近では、ビットコインなどの暗号資産や金(ゴールド)は、米ドルなどの通貨の代替資産としてともに需要が高まっていると言われます。

インフレとは通貨の価値が下がることと同義であり、両資産の人気化は法定通貨に対する信頼が低下していることの表れなのかもしれません。暗号資産はデジタルゴールドと呼ばれることもあります。

米大統領選後、金とビットコインは明暗を分けていますが、「トランプ・トレード」が一巡すれば、いずれまた同方向の相場に戻る可能性もありそうです。


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伊賀大記

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伊賀大記(イガダイキ)

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