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【中間速報】トランプ氏が勝利に接近、「トランプ大統領」なら・・??

2024/11/06 15:31

米大統領選の結果はまだ確定していませんが、重要なカギを握るペンシルベニアなどの「ラストベルト」でリードするなど、トランプ氏が有利な展開となっています(日本時間6日午後3時30分現在)。市場では、米ドルがほぼ全面高となり、日経平均が急伸するなど(長期金利も上昇=国債価格は下落)、「トランプ・ラリー」が既に始まっているようです。これからロンドン時間やNY時間に一段と盛り上がるかもしれません。ただ、ハリス氏が逆転するケースを除いても、選挙結果の確定をもって反動が出る可能性もあり、十分に注意は必要でしょう。

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以下では、11月5日に配信されたブルームバーグの分析レポート「米大統領選-経済への影響」を概観し、関連レポートから興味深い点を追加しました<一部に筆者の判断が含まれます>。


1. はじめに:トランプ政権かハリス政権か-それぞれの米国経済への影響
米大統領選の共和党候補トランプ前大統領と民主党候補ハリス副大統領は、世論調査の支持率では僅差だが、政策面では大きな隔たりがあります。トランプ氏は、関税の強化、移民の大量国外追放、減税を公約に掲げて選挙活動を展開しています。ハリス政権が誕生した場合、その政策はバイデン政権と同一にはならないだろうが、それでもトランプ政権よりは、バイデン政権に近い政策が続くと予想されます。

もっとも、大統領候補の公約は、実際に提案されて、さらに議会が立法化して初めて実現します(一部公約は大統領令にて実現可能)。議会の協力がなければ、大統領の提案は骨抜きにされたり、葬り去られたりする可能性もあります。議会選挙の結果も非常に重要である理由です。

また、それぞれの政策の効果はある程度予測できますが、何が実現して、何が実現しないか、さらには総合的にみてどんな影響があるかは非常に判断が難しいと言えそうです。

2. トランプ関税-1930年スムート・ホーリー法より厳しい
中国に対する関税を60%、その他の国すべてに対する関税を20%に引き上げるというトランプ氏の提案は、トランプ政権第1期(米平均関税を1.5%から3%に引き上げ)や、悪名高い1930年のスムート・ホーリー関税法(同約14%から20%近くに引き上げ)さえも霞んでしまうでしょう。

中国が報復関税を打ち出した場合、米国の製品輸入は40%減少し、他の貿易相手国も同様の措置を採った場合は55%減少します。また、関税が供給ショックとなり、経済活動と雇用の重石になります。GDPは0.8%~1.3%低下し、雇用は0.4%~0.7%減少します。

関税の引き上げはインフレ圧力を高めますが、一方で経済や雇用に下押し圧力を加え(デフレ圧力)、CPIの押し上げ効果は0.5%程度にとどまります。

3. 数兆ドルの関税収入を模索するトランプ、ラッファー両氏
トランプ氏は関税引き上げにより「数兆ドル(数百兆円)の」の収入を得ると主張していますが、おそらく無理でしょう。せいぜい、年間約3000億ドル~4000億ドルの収入にとどまり、減税の財源としては不十分でしょう。

4. 貿易を巡るトランプ氏発言、今のところ市場への影響は小さいが・・・
トランプ氏が大統領だった時、ソーシャルメディアでの同氏の貿易と関税に関する投稿は金融市場に衝撃を与えました。しかし今では、共和党候補としての同氏の投稿が波紋を呼ぶことはほとんどないようです。選挙結果は予断を許さない状況で、トランプ氏が提案する関税引き上げ幅の大きさを踏まえると、市場はこのリスクを過小評価している恐れがあります。

5. ハリス氏とトランプ氏の移民政策による影響
移民問題も大きな争点として浮上しています。ハリス氏とトランプ氏はともに、南部国境からの不法移民の流入の阻止を望んでいます。トランプ氏は、すでに米国にいる不法移民の強制送還も目指しています。

Bloombergの分析によると、移民削減と強制送還の実施は主に、GDPの低下につながります。不法移民を全て強制送還するという極端なケースでは、28年のGDPの水準が8%低下します。供給の減少よりも需要の減少が顕著となり、物価はデフレ傾向になります。もちろん、選挙の公約が必ずしも実際の政策として実現するわけではありません。どちらが当選しても移民計画の完全実行は困難とみられます。

6. 公約とその信ぴょう性-トランプ氏とハリス氏、税制への影響
トランプ氏とハリス氏は、根本的に異なる税制案を提示しており、成長、インフレ、債務の方向性は分かれることになります。最初の2年間だけをみれば、トランプ氏の公約はGDPを大きく押し上げ、ハリス氏の公約は押し下げるか(25年)、わずかに押し上げる(26年)程度です。しかし、実際に実現可能な内容だけに焦点を当てると、両者の相違点の多くは消滅しそうです。

どちらが当選しても債務残高は増加しますが、トランプ氏の公約の方が債務の増加幅は大きい見通しです。トランプ氏の税制案は、今後2年間の成長率とインフレを押し上げる可能性があります。ただし、4年間の見通しでは、両者の政策の違いが生む成長率とインフレ率の差は誤差の程度とみられます。

<ハリス氏の公約>
・高所得者と法人に対する増税。
・児童税額控除の拡大による中低所得世帯に対する減税および税額控除。
・減税・雇用法(TCJA)に基づく個人税減税の一部を維持する。
・チップを非課税に。

<トランプ氏の公約>
・TCJA の事業規定の延長と個人税の減税を恒久化する。
・法人税率を引き下げる。
・チップを非課税に。
西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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