雇用統計プレビュー+良好だった米GDP
2024/10/31 08:16
【ポイント】
・10月ADP統計は堅調ながら、雇用統計は別物!?
・ハリケーンやストライキの影響もあり、雇用の判断は難しくなりそう
・7-9月期GDPは前期比年率2.8%と堅調
11月1日に発表される米国の10月雇用統計は、5日の大統領選投票、6-7日開催のFOMC前の最後の雇用統計。選挙結果やFOMCの判断に大きな影響を与えるかもしれません。
9月の雇用統計は、NFP(非農業部門雇用者数)が前月比25.4万人増と大幅に増えて、労働市場の堅調を示唆しました。10月分は9月の反動も予想されるのか、市場予想はNFPが前月比10.1万人増と弱め、失業率が4.1%と前月から横ばいです。
足もとの雇用関連指標はマチマチ。
9月のJOLTS(労働動態調査)によれば、求人件数は744.3万人で、21年1月以来の低水準でした。求人倍率はコロナショック後の22年3月には2倍を超えましたが、足もとでは1倍近くまで低下してきています。

FRBのベージュブック(地区連銀経済報告)では、「雇用はわずかに増加」と報告されました。12地区のうち、7地区が緩やかな増加を報告した一方で、残りの地区ではほとんど変化はなかったとのこと。
30日に発表された10月ADP統計(民間のみ)は前月比23.3万人増と堅調でした。もっとも、月々のADP統計と雇用統計とには相応の誤差があります。誤差の平均値は0.4万人(NFP民間-ADP)と僅少ですが、標準偏差は11.2万人と大きめ。9月のADP(改定前)は14.3万人増と、NFP(非農業部門雇用者数)民間の22.3万人を大きく下回りました。

10月雇用統計の評価を難しくする要因もあります。9月下旬~10月上旬に東海岸南部を襲ったハリケーン「へリーン」と「ミルトン」や、ボーイングのストライキはNFPを押し下げるでしょうが、それがどの程度かは不透明です(雇用統計の技術的側面からの考察は末尾の【補足】をご参照ください)。
NFPの市場予想は10.1万人増ですが、約60社による予想レンジは1.0万人減~18.0万人増。9月(予想レンジ7.0万人増~22.0万人増)に比べて、予想レンジが広く、また下限がマイナス(前月比減少)になっているのは、上記要因や不透明感を反映しているのでしょう。
雇用統計だけでなく、ADP統計、新規失業保険申請件数、JOLTS(労働動態調査)、ベージュブック(地区連銀経済報告)なども合わせて、FOMC(や有権者)がどう判断するか興味深いところです。
*******
7-9月期GDP(速報値)は前期比年率2.8%と堅調。とりわけ、PCE(個人消費支出)が同3.7%と好調で、GDPを2.5%分押し上げました(=寄与度)。景気の勢いを測るうえで重要な国内民間最終需要(PCE+設備投資+住宅投資)の寄与度は2.7%と、昨年10-12月期以来の強さとなりました。ベージュブック(地区連銀経済報告)では景気の軟調さが指摘されていましたが、実際の統計を見る限りにおいては景気堅調と言えそうです。
なお、アトランタ連銀のGDPNow(短期予測モデル)は直前にGDPを2.8%と予測しており、ドンピシャでした。公式統計とほぼ同じ方式で算出されているため、最終的に同じような結果になるのは不思議ではありません。ただ、GDPNowは主要な経済指標が発表されるたびに更新・発表されるのでたいへん参考になります。

【補足】10月雇用統計の技術的プレビュー
雇用者数よりも労働時間や労働所得に影響か
事業所調査のNFPは毎月12日分を含む給料の数をカウントします。NFPのPは「Payroll=給与台帳(リスト)」のこと。人によって異なりますが、週給の場合、早いタイミングの人は6‐12日、遅い人は12‐18日の1週間に1時間でも働いて給料をもらえば「雇用者」です。ハリケーン「へリーン」は9月26日、「ミルトン」は10月9日に米本土に上陸しました。したがって、避難や職場の閉鎖などで働けなかった人も、12日分を含む給料の一部をもらった人は多いとみられるため、2つのハリケーンがNFPを大幅に押し下げるわけではなさそうです。
ただし、該当期間内の労働時間が少なくなる可能性はあり、雇用統計の「週平均労働時間」や「週賃金(平均時給×労働時間)」、「総労働所得(週賃金×雇用者数)」などは弱めに出るかもしれません。
なお、10月12日時点でボーイングのストライキに4.4万人が参加したとされており、(4.4万人分全てではないものの)NFPにある程度影響は出そうです。
失業率への影響は軽微!?
一方、失業率などを算出する家計調査は、調査期間が10月6日~12日の1週間。避難や職場の閉鎖などで全く働かなくても「職がある」と回答した人は失業者にカウントされません。雇用者の中でも、「天候理由で働けなかった」「天候理由によるパートタイム」といったカテゴリーに分類されるようです。
陰謀説に物申す
なお、9月NFPで政府部門が前月比90万人以上増えたことを指して、選挙前に(景気を良くみせようと)政府が統計をでっち上げたとの指摘があります。しかし、これは季節調整前の数字。増えたのは連邦政府ではなく、もっぱら州政府と地方政府の教職員です(計111万人増)。9月は新学期のスタート前後であり、季節的に教職員は増加します。通常、我々が目にする季節調整後では政府部門は3.1万人増に過ぎません(州政府と地方政府の教職員で計1.9万人増)。
・10月ADP統計は堅調ながら、雇用統計は別物!?
・ハリケーンやストライキの影響もあり、雇用の判断は難しくなりそう
・7-9月期GDPは前期比年率2.8%と堅調
11月1日に発表される米国の10月雇用統計は、5日の大統領選投票、6-7日開催のFOMC前の最後の雇用統計。選挙結果やFOMCの判断に大きな影響を与えるかもしれません。
9月の雇用統計は、NFP(非農業部門雇用者数)が前月比25.4万人増と大幅に増えて、労働市場の堅調を示唆しました。10月分は9月の反動も予想されるのか、市場予想はNFPが前月比10.1万人増と弱め、失業率が4.1%と前月から横ばいです。
足もとの雇用関連指標はマチマチ。
9月のJOLTS(労働動態調査)によれば、求人件数は744.3万人で、21年1月以来の低水準でした。求人倍率はコロナショック後の22年3月には2倍を超えましたが、足もとでは1倍近くまで低下してきています。

FRBのベージュブック(地区連銀経済報告)では、「雇用はわずかに増加」と報告されました。12地区のうち、7地区が緩やかな増加を報告した一方で、残りの地区ではほとんど変化はなかったとのこと。
30日に発表された10月ADP統計(民間のみ)は前月比23.3万人増と堅調でした。もっとも、月々のADP統計と雇用統計とには相応の誤差があります。誤差の平均値は0.4万人(NFP民間-ADP)と僅少ですが、標準偏差は11.2万人と大きめ。9月のADP(改定前)は14.3万人増と、NFP(非農業部門雇用者数)民間の22.3万人を大きく下回りました。

10月雇用統計の評価を難しくする要因もあります。9月下旬~10月上旬に東海岸南部を襲ったハリケーン「へリーン」と「ミルトン」や、ボーイングのストライキはNFPを押し下げるでしょうが、それがどの程度かは不透明です(雇用統計の技術的側面からの考察は末尾の【補足】をご参照ください)。
NFPの市場予想は10.1万人増ですが、約60社による予想レンジは1.0万人減~18.0万人増。9月(予想レンジ7.0万人増~22.0万人増)に比べて、予想レンジが広く、また下限がマイナス(前月比減少)になっているのは、上記要因や不透明感を反映しているのでしょう。
雇用統計だけでなく、ADP統計、新規失業保険申請件数、JOLTS(労働動態調査)、ベージュブック(地区連銀経済報告)なども合わせて、FOMC(や有権者)がどう判断するか興味深いところです。
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7-9月期GDP(速報値)は前期比年率2.8%と堅調。とりわけ、PCE(個人消費支出)が同3.7%と好調で、GDPを2.5%分押し上げました(=寄与度)。景気の勢いを測るうえで重要な国内民間最終需要(PCE+設備投資+住宅投資)の寄与度は2.7%と、昨年10-12月期以来の強さとなりました。ベージュブック(地区連銀経済報告)では景気の軟調さが指摘されていましたが、実際の統計を見る限りにおいては景気堅調と言えそうです。
なお、アトランタ連銀のGDPNow(短期予測モデル)は直前にGDPを2.8%と予測しており、ドンピシャでした。公式統計とほぼ同じ方式で算出されているため、最終的に同じような結果になるのは不思議ではありません。ただ、GDPNowは主要な経済指標が発表されるたびに更新・発表されるのでたいへん参考になります。

【補足】10月雇用統計の技術的プレビュー
雇用者数よりも労働時間や労働所得に影響か
事業所調査のNFPは毎月12日分を含む給料の数をカウントします。NFPのPは「Payroll=給与台帳(リスト)」のこと。人によって異なりますが、週給の場合、早いタイミングの人は6‐12日、遅い人は12‐18日の1週間に1時間でも働いて給料をもらえば「雇用者」です。ハリケーン「へリーン」は9月26日、「ミルトン」は10月9日に米本土に上陸しました。したがって、避難や職場の閉鎖などで働けなかった人も、12日分を含む給料の一部をもらった人は多いとみられるため、2つのハリケーンがNFPを大幅に押し下げるわけではなさそうです。
ただし、該当期間内の労働時間が少なくなる可能性はあり、雇用統計の「週平均労働時間」や「週賃金(平均時給×労働時間)」、「総労働所得(週賃金×雇用者数)」などは弱めに出るかもしれません。
なお、10月12日時点でボーイングのストライキに4.4万人が参加したとされており、(4.4万人分全てではないものの)NFPにある程度影響は出そうです。
失業率への影響は軽微!?
一方、失業率などを算出する家計調査は、調査期間が10月6日~12日の1週間。避難や職場の閉鎖などで全く働かなくても「職がある」と回答した人は失業者にカウントされません。雇用者の中でも、「天候理由で働けなかった」「天候理由によるパートタイム」といったカテゴリーに分類されるようです。
陰謀説に物申す
なお、9月NFPで政府部門が前月比90万人以上増えたことを指して、選挙前に(景気を良くみせようと)政府が統計をでっち上げたとの指摘があります。しかし、これは季節調整前の数字。増えたのは連邦政府ではなく、もっぱら州政府と地方政府の教職員です(計111万人増)。9月は新学期のスタート前後であり、季節的に教職員は増加します。通常、我々が目にする季節調整後では政府部門は3.1万人増に過ぎません(州政府と地方政府の教職員で計1.9万人増)。

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