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米大統領候補の経済政策比較

2024/08/28 07:41

今、米株式市場では6月27日のバイデンvsトランプのTV討論会以降に盛り上がった「トランプ・トレード」を巻き戻したり、「ハリス・トレード」を始めたりする動きが注目されているようです。

「トランプ・トレード」とは、「トランプ政権」の誕生によって恩恵を受けるだろう刑務所運営会社や銃器メーカーなどの株を買うこと。「ハリス・トレード」とは、「トランプ政権」で打撃を受けるだろうクリーンエネルギー関連やEV関連、中国との関わりが深い企業の株を買うこと。

両者の政策を概観しておきましょう。もっとも、ハリス氏やトランプ氏の提唱する政策が実際に提案されるかは定かでありませんし、提案されても議会でそれらが立法化されるかどうかも不透明です。

ハリス氏は「機会の経済」
ハリス氏のスローガンは「機会の経済」であり、中低所得層に手厚い、左派寄りの政策を提唱しています。主な経済政策は、子供を対象とした給付付き税額控除、社会保障の充実、学生ローンの減免、初めての住宅購入に対する補助金、労働者保護のための規制強化など。インフレ対策として、食品価格つり上げに対する監視や住宅供給の拡大なども提案しています。

外交や安全保障面では、バイデン政権を継承するグローバル主義。ハリス氏は脅威国(中国、ロシア?)に対する同盟強化を唱え、イスラエルの自衛権を支持する一方で、パレスチナ国家建設も支持しています。ウクライナ支援は継続する意向。不法移民に対する警備を強化する一方で、合法移民制度の拡充も提案しています。

課題は、多くの意欲的なプログラムの財源の確保でしょう。富裕層に対する増税やキャピタルゲイン課税の強化などを提案していますが、それらが議会で立法化されるかどうか。仮に、財源が確保できなければ、財政赤字が一層拡大して市場金利の上昇を招くかもしれません。

財源の不確かな大規模減税を提案して、市場から厳しい警告を受けた英国のトラス政権のケースが想起されます。

トランプ氏はもちろん「MAGA」
トランプ氏のスローガンは8年前と同様に「米国を再び偉大に(MAGA=Make America Great Again)」です。経済の強化により米企業や雇用を守るということ。主な経済政策は、17年トランプ減税(※)の恒久化、法人税率の一段引き下げ、チップ課税廃止、10%の輸入関税や中国製品に対する60%課税、石油・ガス開発の規制撤廃、オバマケアの廃止など。

※法人税率の引き下げ(35%⇒21%)、所得税率の引き下げ(最高税率を39.6%⇒37%)、設備投資減税など。25年末に期限切れとなる。

外交・安全保障面では、米国第一主義。NATO(北大西洋条約機構)加盟国の負担増加を要求しており、国際的な枠組みからの離脱も視野に入れています。イスラエルを支持し、ウクライナ戦争は即時停戦させるとのこと(方法は不明)。メキシコ国境の壁を強化。移民規制を強化し、不法移民は強制送還します。

「トランプ政権」下でも財政赤字が拡大する可能性がありますが、関税収入を減税の財源とする模様。また、エネルギー価格の引き下げがインフレを抑制するとし、MAGAをもじって「米国(での生活)を再び手頃なコストに(Make America Affordable Again)」とも唱えているようですが、「トランプ政権」下ではインフレ高騰のリスクがあります。輸入関税によるコスト上昇や移民制限による労働需給のひっ迫などが背景です。

インフレが高騰すれば、金融政策が引き締められ、米ドル高を招きそうです。もっとも、トランプ氏は大統領になれば金融政策に物申すと公言しています。金融政策の独立性が脅かされて必要な利上げができなければ、長期金利の上昇と米ドル安を招きかねません。
西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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