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米雇用統計改定プレビュー:雇用はそんなに強くなかった??

2024/08/21 08:15

【ポイント】
・全数調査の結果、24年3月の雇用水準が大幅下方修正も!?
・雇用がさほど強くなかったとなれば、市場が反応しそう
・ただし、改定の全体像が明らかになるのは25年2月

市場で今注目されているのが、米雇用統計の改定です。今年3月まで1年間の雇用の伸びが、これまでのデータが示すほど強くなかったのではないかとの指摘があります。仮に、それが正しければ、景気実態がさほど良くなかったということで、FRBは利下げを速めるべきだし、株価や米ドルは下落しても不思議ではありません。逆に、国債相場は上昇する(金利は低下する)でしょう。

本日21日(日本時間午後11時)に米労働省が発表するのは、あくまで暫定結果であり、全体像は25年2月の年次改定まで待つ必要があります。それでも市場は暫定結果に対して反応する可能性があります。

本日の雇用統計改定の暫定結果と、日本時間22日午前3時に公表されるFOMC議事録(7/30-31開催分)には要注意でしょう。

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以下はかなり技術的ですが、重要な雇用統計の年に1度の改定なので、詳しく解説します(データが完全には入手できなかったので、一部には筆者の推定を含みます。ご了承ください)。

まず、ファンダメ・ポイント8月3日付け「米雇用統計は軟調も、年0.5%×2回利下げは織り込みすぎ!?」で、雇用統計の改定について言及しています。

■8月21日に全数調査の暫定結果発表
通常の事業所調査は給与記録に基づくサンプル調査ですが、年に1度3月に失業保険支払い記録に基づく全数調査が行われます。今年は8月21日に暫定結果が公表されるようです。最終的には25年2月に発表される1月雇用統計に反映されます。結果次第では労働市場に対する認識に影響が出る可能性があります。

21日に発表される暫定結果は、24年3月時点のNFP(非農業部門雇用者数)の水準のみです。それをもとに季節調整やその他の係数等が修正され、25年2月の年次改定で24年1年間のNFPの改定値が発表されます(つまり、全数調査の結果は24年3月のみで、同4月~12月分は新たに推計されたもの)。

100万人の下方修正も!?
市場では60万人~最大100万人の下方修正があるとの観測が浮上しています。おそらく類似のデータや対象データの一部からの推計とみられますが、詳細は不明です。

労働省によれば、過去10年間の改定幅のNFPの±0.3%とのこと。つまり、50万人を大きく超える下方修正は過去10年にはなかったことになります。

NFP改定

仮に、24年3月のNFPの水準が100万人下方修正されるとすれば、24年3月まで1年間の雇用者増は現在のデータでは計290万人(24.2万人/月)ですが、改定後は190万人(15.8万人/月)になります。かなりのペースダウンですが、15.8万人増のペースは通常ならさほど悪い数字ではありません。ただ、コロナ禍からの回復途上だと考えるとやや弱いでしょうが。

もっとも、23年4月以降のNFP(推計値)がどう修正されるかが重要かもしれません。それが明らかになるのは25年2月の年次改定です。

前回の年次改定
前回23年3月の全数調査暫定結果では、NFPの水準が30.6万人下方修正されました。それが24年2月の年次改定に反映された時点で、23年3月のNFPの水準は26.6万人の下方修正でした。ただし、23年12月のNFPの水準(通常の推計値)は11.5万人の上方修正でした。結果として、23年1年間の雇用増加幅は当初発表の269.7万人から305.6万人に上方修正されました。
労働省データ

【補足】Birth-Death モデル
通常のサンプル調査と全数調査の結果にかい離が生じる理由は様々です。一つ大きな要因として指摘されているのが、Birth-Deathモデルです。これは通常のサンプルでは捕捉しきれない起業と廃業による雇用の変化(サンプルに反映されるには7-9カ月かかるとされています)をモデル化して、サンプル調査に反映させたもの。エコノミストの間では、単なる机上の数字がNFPに大きな影響を与えている(水増ししている)との指摘もあります。

前回の年次改定では、全数調査によって23年3月までの1年間に起業-廃業によってネットで113.2万人の雇用が創出されたことが明らかになりました。この間にBirth-Deathモデルはネットで146.2万人の雇用が創出されたとしており、NFPを33万人過大推計していました。月ベースだと2.75万人の過大推計でした。
西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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