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欧州政治事情とユーロ・英ポンド

2024/06/17 12:34

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【今週のポイント】
・フランスでは極右が第1党に!? 28歳の首相誕生か
・英国は政権交代がほぼ確実。市場は労働党の公約を精査へ
・RBA会合で市場の豪金融政策見通しが変化するか

欧州政治が流動化の気配をみせています。

フランスの議会選挙が6月30日(第1回投票)と7月7日(決選投票)に予定されています。最新の世論調査(IFOP 6/13-14)によれば、ルペン氏の極右RN(国民連合)が支持率35%、左派連合が同26%、マクロン大統領の与党連合(再生)が19%。

今週の主要経済指標・イベント

マクロン大統領は極右政党に対する有権者の拒絶反応に期待しているのでしょうが、今のところRNが圧勝する勢いです。RNが単独で過半数の議席を獲得するのは難しそうですが、他の右派政党と連立・協力することで過半数に達することは可能でしょう。その場合、RNの若き党首バルデラ氏(28歳)が首相に就任することになりそうです。

ルペン氏は有力紙とのインタビューで、マクロン大統領と協力する姿勢を示しました。ただし、過去の言動から、ウクライナ支援の停止、EU(欧州連合)からの離脱、財政赤字拡大などの懸念は払しょくできないかもしれません。RNが勝利した場合にどのような政策を打ち出してくるか、市場は神経質になりそうです。

英国の総選挙は7月4日投票です。保守党のスナク首相は野党の虚を突いて選挙の早期実施に踏み切りました。ただし、今のところ、スナク首相の戦略は裏目に出ているようです。16日に公表された、いくつかの調査結果は保守党の惨敗を予測しました。

サーベーションの調査によれば、労働党の獲得議席予想は262。これに対して保守党は同72議席にとどまるとのこと。また、サバンタの調査によれば、労働党の支持率46%に対して保守党は21%。

英国の政権交代はほぼ確実な情勢です。市場は労働党の公約と、その実現性を精査することになりそうです。<西田>

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RBA(豪中銀)が17-18日に政策会合を開きます(会合の結果は18日に発表)。その結果が豪ドル/円や豪ドル/米ドル、豪ドル/NZドルの動向に影響を与える可能性があります。RBAの利下げ観測が後退する場合、豪ドルにとってプラスになりそうです。豪ドル/NZドルについては、20日発表のNZの1-3月期GDP(国内総生産)も材料になる可能性があります。

南アフリカでは14日に、ANC(アフリカ民族会議)とDA(民主同盟)が連立政権を組むことで合意しました。5月29日に実施された総選挙(下院。定数400議席)では、ANCが159議席、DAが87議席を獲得しており、連立政権は十分な過半数を獲得することになります。連立政権には、IFP(インカタ自由党)とPA(愛国同盟)も参加します。南アフリカの下院は14日に大統領選出の議員投票を実施し、現職のラマポーザ大統領の再任を決定しました。南アフリカ政治の先行き不透明感が後退したことは、南アフリカランドにとってはプラスになりそうです。

メキシコペソ/円は12日に一時8.185円へと下落し、23年12月15日以来およそ6カ月ぶりの安値をつけました。与党連合が憲法改正(司法制度改革など)を推進するとの懸念が引き続き、メキシコペソ/円に対する下押し圧力となりました。メキシコの新たな議会は9月から開会し、シェインバウム氏は10月に大統領に就任します。憲法改正に関するロペスオブラドール大統領やシェインバウム次期大統領の発言には、引き続き注意が必要です。<八代>

今週の注目通貨ペア①:<米ドル/円 予想レンジ:154.000円~158.500円>
米ドル/円は堅調な推移が続いています。14日の日銀会合後には一時158.240円と、5月1日の2回目の為替介入(推定)後の高値をつけました。

日米長期金利(10年物国債利回り)の格差は、4月30日のピークから先週末までに約50bp(ベーシスポイント:1bp=1/100%)縮小しました。その一方で、米ドル/円の水準はほとんど変わりません。これは現状、市場が長期金利差の変化よりも差の水準の大きさに着目している、あるいは政策金利差に着目しているからかもしれません。

12日のFOMCでは、「ドット・プロット(参加者の政策金利見通し)」の中央値が年内1回だけの利下げを示しました(市場は2回の利下げを高い確率で織り込んでいますが)。また、日銀は国債買入れの減額方針を示しましたが、決定は次回7月30-31日に持ち越されました。また、その結果、日銀の追加利上げは9月以降になるとの見方も強まっています。

日米の金融政策見通しは今後の経済データや関係者発言などによって変化する可能性はあります。ただ、金融政策見通しに大きな変化がないとすれば、大幅な株安などでリスクオフが強まらない限り明確な「円高」にはならないのかもしれません。<西田>

今週の注目通貨ペア②:<ユーロ/英ポンド 予想レンジ:0.83500ポンド~0.85500ポンド>
欧州議会選挙の結果やフランス議会の解散を受けて、ユーロ/英ポンドは22年9月(≒「トラス・ショック」)以降の変動レンジの下限とみなせる0.85000ポンドを明確に下抜けしました。ユーロ圏でドイツに次ぐ大国であるフランス政治の流動化がユーロの重石になったためでしょう。

最新の世論調査でも極右RN(国民連合)が第1党になることが示唆されています。RNはEUやユーロ圏の取り組みに批判的な姿勢を取ってきたため、RNが第1党となり、かつ右派政党の協力を得て議会をコントロールする見通しとなれば、通貨ユーロにさらなる下押し圧力が加わる可能性がありそうです。

英国も総選挙を控えており、政権交代がほぼ確実視されます。ただ、過半数の議席獲得が予想される労働党は、14年ぶりとはいえ、過去に保守党と交互に政権を担ってきたので、市場は冷静に選挙結果を受け止めそうです。労働党は、22年9月の「トラス・ショック」を他山の石として、市場の混乱を招きかねない政策提案は避けようとするでしょう。それでも、政権交代による政策の変化が英ポンドの材料となる可能性は否定できません。<西田>

今週の注目通貨ペア③:<豪ドル/NZドル 予想レンジ:1.07000NZドル~1.09000NZドル>
今週は、17-18日にRBA(豪中銀)の政策会合があり(会合の結果は18日に発表)、20日にはNZの1-3月期GDP(国内総生産)が発表されます。それらの結果に豪ドル/NZドルが反応しそうです。

RBAは前回5月の会合まで4会合連続で政策金利を4.35%に据え置きました。政策金利は今回も据え置かれると考えられます。

その通りの結果になれば、RBAの声明や会合後に行われるブロック総裁の会見が材料になりそうです。前回5月会合時の声明では、先行きの金融政策について「何も決定しておらず、何も排除していない」と改めて表明されました。ブロック総裁は会合後の会見で、「インフレリスクを警戒する必要がある」と述べ、5月の会合では利上げの選択肢も議論したことを明らかにしました。その一方で、「インフレ率を目標に戻すうえで、(現在の政策)金利は適切な水準だ」との認識を示し、「必ずしも再び引き締め(追加利上げ)が必要になるとは考えていない」と述べました。

市場では、RBAは11月か12月に利下げを行うとの観測があります。声明やブロック総裁の会見によって、市場のRBAの金融政策見通しが変化するかに注目です。

NZの1-3月期GDPの市場予想は前期比0.1%です(17日午前9時時点)。GDPが市場予想よりも弱い結果になれば、RBNZ(NZ中銀)の利下げ観測が強まる可能性があります。

RBAの利下げ観測が後退する一方で、RBNZの利下げ観測が強まる場合、豪ドル/NZドルは1.08434NZドル(5月30&31日高値)に向かって上昇しそうです。<八代>

今週の注目通貨ペア④:<米ドル/カナダドル 予想レンジ:1.36000カナダドル~1.39000カナダドル>
米ドル/カナダドルは11日に1.37871カナダドルへと上昇し、4月19日以来およそ2カ月ぶりの高値をつけました。足もとの米ドル/カナダドル堅調の主な要因として、米FRBとBOC(カナダ中銀)の金融政策スタンスが挙げられます。FRBは11-12日のFOMCで政策金利を5.25~5.50%に据え置くとともに、利下げに慎重な姿勢を示しました。BOCは5日の政策会合で0.25%の利下げを実施し、マックレムBOC総裁は会合後の会見で追加利下げの可能性に言及しました。

FRBとBOCの金融政策面からみれば、米ドル/カナダドルには引き続き上昇圧力が加わりやすいと考えられます。小売売上高など米経済指標の結果を受けてFRBの利下げ観測が後退する場合、米ドル/カナダドルは1.38413カナダドル(4月16日高値)に向かって上昇する可能性があります。<八代>

西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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