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マクロン大統領の思惑、スナク首相の思惑

2024/06/14 07:41

【ポイント】
・政治の不安定化はユーロや英ポンドの弱気材料
・マクロン仏大統領は27年大統領選挙を見据える?
・スナク英首相は勝ち目のない賭け?

欧州の政治情勢が一気に流動化する気配をみせています。議会選挙が近々実施されるフランスや英国だけでなく、ドイツでもショルツ政権が揺らいでいます。欧州政治情勢は時に大きな相場材料となるケースもあるため(欧州政治の不安定化はユーロや英ポンドの弱気材料になり得ます)、今後の動向から目が離せません。

マクロン大統領の思惑
欧州議会選の結果判明後、フランスのマクロン大統領はすぐに下院を解散して議会選に踏み切りました。以下のような思惑があったと推察されます。

第1に、2年前の選挙でマクロン大統領の与党連合は下院の過半数を失っており、足もとで国民の支持低下は鮮明でした。欧州議会選の結果を受けて、「有権者の声をしっかり受け止めた。改めるべきところは改める」との姿勢を打ち出す必要があった(どのみち欧州議会選の結果をスルーするのには無理があった)。

第2に、極端な主張をする極右RN(国民連合)に対して一般有権者が拒絶反応をみせ、中道派与党に支持が戻ることに期待した(いわゆる危機バネ)。

フランスのルメール経済・財務相は11日、RNが大幅な減税や退職年齢引き下げなどを提唱しているとして、22年9月に英国が財政悪化懸念からトリプル安(株・債券・通貨の下落)に見舞われた「トラス・ショック(※)」の二の舞になりかねないと警告しました。

※ジョンソン首相の後を継いだトラス首相が財源の不透明な大型減税を公約したため、市場が一斉に警鐘を鳴らしました。

第3に、RNが第1党になるとしても、単独での過半数は難しく、他の右派政党と協力して過半数を獲得するかどうかは不透明。また、マクロン大統領の任期は3年残っており、少なくとも外交や安全保障などの面では権限を持ち続ける(ただし、国内政策への影響力は低下する)。

第4に、RNが過半数を獲得した場合に、党首のバルデラ氏が首相に指名される可能性が高いが、まだ28歳と若く政治手腕は未知数。RNが早い段階で国民の支持を失う可能性もある。そうなれば、27年の大統領選でルペン氏が出馬しても、国民の支持が集まらないかもしれない。

※最新の世論調査(6/11-12 by Elabe for BFM TV/La Tribune Dimanche)
政党支持率:RN(国民連合)31% 与党連合(再生など)18% 左派連合28%
首相候補:バルデラ氏(国民連合)39% アタル氏(現職)36%


スナク首相の思惑
英国の下院の任期は25年1月まででした。スナク首相は今年初めに総選挙を年後半に行うことを示唆していました。スナク首相が、7月4日という「年後半」の最も早いタイミングでの選挙を決断したのは、以下のような思惑があったからでしょう。

第1に、今年秋以降の総選挙を想定していただろう野党の虚を突くことができる。

第2に、コロナ禍からの正常化が進んできた。22年9月の「トラス・ショック」の混乱も落ち着いてきた。そして、英経済は昨年後半のリセッション(景気後退)から脱し、先進国の中では非常に高かったインフレ率も明確に鈍化してきた。つまり、これ以上、状況は良くならない。

第3に、難民認定を求める不法入国者のルワンダへの強制移送が7月に始まる。不法移民の排除はスナク政権が掲げる重要な政策であり、それに反対する労働党との差をアピールできる。

総選挙に負ければ、保守党は14年ぶりの下野、自身も即退陣となるだけに、スナク首相の立場はマクロン大統領以上に切実でしょう。手をこまねいてジリ貧となるよりも賭けに出たということかもしれません。

※最新の世論調査(6/13公表 Bloomberg集計による最新11調査の平均)
政党支持率:労働党44.1% 保守党(与党)22.4% 改革党12.9%

■本日のM2TV「グローバルView」では、「欧州政治事情 ユーロと英ポンドの行方」をお送りする予定です。是非ご覧ください。
西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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