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騙されない投資家21~米国債券相場の歴史

2024/03/27 06:54

投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。過去の相場を知ることは投資判断に役立つはずです。今回は米国債券相場の歴史を取り上げます。過去レポートは#騙されない投資家で表示されるので、ぜひご活用ください。

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株式と違って、個人の投資家が個々の債券を売買する機会は少ないかもしれません。しかし、様々な債券が投資信託に組み込まれています。また、債券価格(金利)の変化は株価や為替相場とも相互に影響し合うので、債券相場の歴史を知ることは、やはり投資判断の役に立つと思います。

金利と価格の関係
債券について真っ先に知っておくべきことは、金利と価格の関係です。債券相場(債券の価格)が上昇すれば利回り(金利)は低下し、債券相場が下落すれば利回りは上昇します。両者は真逆の動きをします。ここでいう金利とは市場金利のことで、債券市場において債券が取引される際の利回り、いわゆる流通利回りを指します。相場状況に応じて利回りは刻々と変化します。

これに対して債券が発行される際に約束されるのは額面の何パーセントの利子が支払われるかであり、これは表面利率、あるいはクーポンと呼ばれ、原則として債券が償還されるまで変わりません。

■26日付け「騙されない投資家20~日本国債相場の歴史」もご覧ください。

米10年物国債利回りは最も重要な金利
さて、本稿では米国の国債(財務省証券。以下、米国債)を取り上げます。米国債の利回りは、単に市場金利と呼ばれることもあり、金融市場で最も注目される金利です。とりわけ、10年物国債利回りは、長期金利とも呼ばれ、世界の様々な金利の直接・間接のベンチマーク(指標)となっています。

2度のオイルショックで長期金利は16%に
第二次世界大戦後から60年代半ばまで、米国債の利回りは比較的落ち着いていました。米国債が現在のように活発に売買されるものでなかったこと、そしてインフレ(物価上昇率)が安定していたことが背景でしょう。

60年代半ば以降、ベトナム戦争が泥沼化し、米国経済が疲弊して、インフレが高まると、米国債の利回りも上昇基調(価格は下落基調)となりました。米国債の利回り上昇に拍車をかけたのが、73年と79年の2度のオイルショックとインフレの高騰でした。10年物国債利回り(長期金利)は81年9月には16%近辺まで上昇しました。

「インフレファイター」ボルカー議長
79年にFRB議長に就任したポール・ボルカー氏はインフレ退治を最優先し、81年には政策金利を20%に引き上げました。この大幅な金融引き締めが景気に急ブレーキをかけたこと、さらには86年には原油価格の暴落(オイルグラット)もあって、インフレは低下しました。

その後、米国債の利回りは、上下動しながらも、ピークが前回ピークを下回り、ボトムが前回ボトムを下回る、いわゆる「ロワー・ハイ、ロワー・ロウ」を概ね示現しつつ、低下基調が続きました。

グリーンスパン議長のコナンドラム
90年代半ば以降は、新興国が世界経済に組み込まれてグローバリゼーションが拡大・深化しました。また、IT革命もあって、物価上昇率が鈍化するディスインフレや物価が下落するデフレが広がりました。2000年代半ばにはFRBが利上げを繰り返しても、資金余剰のなかで長期金利は上がらなくなりました。当時のグリーンスパンFRB議長はその状況を「コナンドラム(謎)」と呼びました。

さらにはリーマンショックと「100年に一度の経済危機」に際して、国債購入などの量的緩和を含む積極的な金融緩和が世界中で実施され、長期金利は低下基調が続きました。

金利低下の長期トレンドは終焉!?
15年12月、FRBは約9年ぶりに利上げを実施、政策金利をほぼゼロに維持する極端な金融緩和からの正常化を開始しました。そして、利上げの継続とともに18年春に長期金利は3%を超え、80年代初頭から続いてきた金利低下の長期トレンドが終焉したかにみえました。しかし、18年終盤から世界経済の減速懸念が強まり、トランプ政権による対中強硬姿勢など懸念も強まり、長期金利は低下。さらには20年のコロナショックによって景気が落ち込むと、FRBは強力な金融緩和に踏み切り、長期金利は同年8月に0.51%と過去最低を記録しました。

その後、金融緩和や財政出動の効果から景気は回復基調となりました。サプライチェーン障害に伴う需給ひっ迫、コロナの制約による労働市場のタイト化、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の上昇などもあって、インフレ率が大幅に上昇したため、長期金利も上昇基調となりました。22年10月にはリーマンショック後で初めて4%台に上昇、23年10月には一瞬ですが5%をつけました。

米長期金利

◆シャットダウンとデフォルト
 米国債券相場に関連して時々話題に上るのが、シャットダウンやデフォルトです。

シャットダウンとは、政府機能の一部が停止されることで、期限までに新しい予算が成立しなければ発生します。ここでいう予算とは12本の歳出法のことで、議会で上院と下院が同一の歳出法案を可決して大統領に送付、大統領がそれらに署名すれば成立します。議会の共和党と民主党、あるいは議会と政府の交渉が難航した場合にシャットダウンが発生する可能性があります。

最近では、18年12月から19年1月にかけて35日間シャットダウンが発生しました。これは過去最長です。シャットダウンが発生すると、自宅待機を命じられる政府職員や、政府サービスが利用できない一般市民にとっては大迷惑です。ただ、よほど長期化しない限り、景気や金融市場への影響は限定的です。

他方、デフォルト(債務不履行)とは、国債の利払いや償還が約束通り行われないことです。政府の債務残高には法定上限(デットシーリング)が設けられており、債務残高が上限に達すると、議会が都度それを引き上げて(または無効化して)きました。議会が引き上げを拒否すれば、政府は新たに債務を増やすことができず、社会保障給付や利払いができなくなります。それらの支払いは時間の経過とともに発生する新しい債務だからです。

過去に米国債がデフォルトしたことはありません。ただ、11年8月にはデットシーリングの引き上げが土壇場まで遅れ、金融市場が大きく動揺しました。もっとも、米株が大幅に下落したため、安全性の高い(!?)米国債へと資金が流れ、米国債の価格が上昇(金利が低下)したのは、なんとも皮肉でした。また、23年6月にも土壇場でデットシーリングが無効化されました。11年のケースでは大手格付け会社S&Pが、23年のケースでは同フィッチが米国債の格付けを最上級のAAAから1段階下げてAA+としました。

なお、社会保障の給付や米国債の利子は自然に発生するため、政府の支出ながら予算の外にあります。したがって、そこで起こり得るデフォルトは上述のシャットダウンとは直接関係がありません。ただ、予算審議の過程でデットシーリングが交渉材料に使われることも多いため、2つは同じようなタイミングで相場材料になることがあります。
西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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