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騙されない投資家16~英ポンドの歴史

2023/12/05 08:20

投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。過去の相場を知ることは投資判断に役立つはずです。前回「通貨ユーロの歴史」に続いて今回は英ポンドを取り上げます。過去レポートは#騙されない投資家で表示されるので、ぜひご活用ください。

基軸通貨を降りた英ポンド
米ドル以前の基軸通貨は英ポンドでした。米ドルが基軸通貨の地位を確立したのは、第二次世界大戦後のブレトンウッズ体制によって、金1オンスと35米ドルの兌換(だかん)による固定相場制が採用されてからです。ただし、第一次世界大戦以降、疲弊した英国経済を反映して英ポンドの凋落は明らかでした。

イングランド銀行を打ち負かした男
自国の独自性を重視する英国が欧州のERM(為替相場メカニズム)に加盟したのは、創設から11年後の90年でした。しかし、手厚い福祉や国有化による英国病に蝕まれた英国が英ポンド相場を維持するのには大きな困難を伴いました。92年9月、ジョージ・ソロス氏ら投機筋が英ポンドを売り込む一方で、イングランド銀行=BOE(中央銀行)がこれを買い支えるという攻防が繰り広げられた末、最後にはイングランド銀行が全面降伏。英国はわずか2年でERMを離脱しました。そして、ソロス氏は「イングランド銀行を打ち負かした男」として名を馳せました。

リーマンショックとブレグジット
英国は、ERM離脱後の英ポンド安や北海油田の開発などを背景に経済の活力を取り戻しました。99年のユーロ圏創設時、自国の主権を重視する英国はEU加盟15カ国の1つでありながら、スウェーデン、デンマークとともにユーロ圏への参加を見送りました。

2000年代に入ると、金融センターとしてのロンドンの重要度が増大し、英ポンドは堅調に推移しました。しかし、08年のリーマンショックでは英国の金融機関も大きな打撃を受け、またロンドンの不動産バブルの崩壊もあって、英ポンドは大きく反落しました。

16年6月の国民投票によって、EU(欧州連合)からの英国の離脱、いわゆるブレグジットが決まると、英ポンドはさらに下落しました。EUとの離脱交渉は難航しましたが、英国は20年1月に正式にEUを離脱しました。

英ポンドの対米ドル相場
英ポンドは変動相場制移行後に対米ドルで大幅に下落し、85年初めには一時1ポンド=1米ドルのパリティ(等価)に接近しました。その間の例外は70年代後半で、2度の石油ショックや米経済の低迷により米ドルが下落する一方、中東のオイルダラーが英国に流入したことで英ポンドは堅調に推移しました。

85年以降は、米ドル高是正の国際協調や英国経済の復活で英ポンドは比較的堅調に推移し、07年11月に1ポンド=2.116ドルの近年の高値を付けました。その後、リーマンショック前後に大幅に下落、さらに16年6月国民投票後の10月、コロナショックの20年3月と安値を更新。トラスショック(※)の22年9月には対米ドルで約40年ぶりの安値をつけ、一時パリティ(1ポンド=1米ドル)に迫りました。

(※)ジョンソン首相の後を継いだトラス首相は就任早々に大型減税を提案。その財源が不透明だったことで、英ポンド、英株、英債券が売られるトリプル安が発生しました。直後にトラス首相は辞任を表明。在任期間はわずか49日でした。

英ポンド/米ドル

英ポンドの対円と対ユーロ相場
英ポンドの対円相場は、71年8月のニクソンショック直後の1ポンド=約880円から下落基調でした(中東からオイルダラーが英国に流入した79年は例外的に英ポンド/円が上昇)。リーマンショック以降に何度か120円前後まで下落。20年3月のコロナショック後は上昇基調に転じ、23年11月には190円近くまで上昇しました。

英ポンド/円

ユーロ/英ポンドは、ユーロの現金流通が開始された01年辺りを底に08年リーマンショックまで上昇基調でした。その後はユーロ圏の財政危機やECBの金融緩和を背景にユーロ/英ポンドが下落。16年の英国民投票(ブレグジットの決定)でユーロ高方向に大きくシフトして、その後は概ね横ばいで推移しました。大きくみれば、過去20年間は0.70000ポンド~0.95000ポンドを中心としたレンジ相場と呼べるかもしれません。

ユーロ/英ポンド
西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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