23年春、金融不安の経緯
2023/04/17 06:58
23年3月10日の米シリコンバレー銀行の破たんに始まったグローバルな金融不安について、これまでの経緯を振り返ります。
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発端:シリコンバレー銀行の破たん
23年3月10日、カリフォルニア州のシリコンバレー銀行(SVB)が経営破たんしました。特化していた新興企業の資金繰り悪化や保有債券の価格下落などが背景。資産規模は全米16位。米国の銀行破たんではリーマンショック時の08年9月のワシントン・ミューチャルに次ぐ2番目の規模とのこと。
同12日にはニューヨーク州のシグネチャー銀行が当局によって事業停止措置を受けました。8日には銀行持ち株会社のシルバーゲート・キャピタルが銀行業務の清算を発表しています。昨年3月に始まったFRBの利上げの影響が徐々に出てきたのでしょう。
同じく12日は日曜日ながら、財務省、FRB、FDIC(連邦/預金保険公社)が共同声明を発表。SVBやシグネチャー銀行の全ての預金を保護するなどとし(=保護される預金の25万ドルの上限を例外的に撤廃)、銀行システムの健全性維持のために全力を挙げることを表明しました。これと並行して、FRBは銀行の資金繰りを支援するための新しいプログラム(BTFP)を創設しました。
SVB銀行破たんの影響
米国の主要銀行と地方銀行大手24行から構成されるKBW銀行株指数は2月7日の直近ピークから3月13日までに約29%下落。とりわけ、経営基盤が不安定とみられる地方銀行が売り込まれ、ファースト・リパブリック銀行は2月2日の高値から約8割、3月9-13日の3営業日で73%株価が下落しました。
金融不安の台頭を受けて、長期金利(10年物国債利回り)が大幅に低下しました。震源地となった米国だけでなく、英国やドイツの長期金利も大幅に低下。日本や豪州の長期金利にも下押し圧力が加わりました。また、高インフレ抑制のために利上げを続ける主要国中央銀行に対して、利上げ停止や利下げへの政策転換が余儀なくされるとの観測も広がりました。
金融不安はいったん落ち着き!?
その後、シリコンバレー銀行の余波で株価が大きく下落したファースト・リパブリック銀行に対して、主要な銀行20数行が300億ドルの預金を預けることで合意しました(3/16)。当局が仲介しました。また、NYコミュニティバンクがシグネチャー銀行を買収(3/19)、ファースト・シチズンズ・バンクシェアーズがシリコンバレー銀行を買収(3/27)、そうした当局の迅速な対応や金融機関の協力によって、事態はいったん落ち着きをみせました。
UBSによるクレディ・スイスの買収
金融不安は欧州に飛び火し、クレディ・スイスの経営危機が表面化しました。直接のきっかけは、3月15日に同行の筆頭株主であるサウジ・ナショナル・バンク(SNB)のフダリ会長が追加出資の可能性について「断じてない」と明言したこと。翌16日、もう一つのSNB(スイス中銀)と規制当局は、「クレディ・スイスは金融システムにとって重要な銀行として、資本や流動性の基準を満たしている」、「必要であれば、SNBが流動性を提供する」と表明、最大500億スイスフランの融資を行う意向でした。
もっとも、クレディ・スイスでは、破たんした新興ファンドへの過大な投資などスキャンダルが続出。21年2月25日につけたコロナショック後の高値からSVBが破たんした23年3月10日までに8割超下落していました。米銀の破たんがクレディ・スイスの経営危機を浮き彫りにした格好です。
スイス政府の仲介によって、UBSがクレディ・スイスを買収することで3月19日に合意。買収は30億スイスフランの株式交換になった模様ですが、そうであればクレディ・スイスの時価総額(17日終値で74億スイスフラン)を大きく下回りました。
クレディ・スイス債160億スイスフランが無価値に
3月20日、FINMA(スイス連邦金融市場監督機構)は、クレディ・スイスが発行したAT1債(「その他ティア1債」)160億スイスフラン相当が無価値になったと発表しました。
AT1債は、通常の社債に比べて弁済順位が低いため、発行した金融機関に損失が発生した場合には打撃を受け易い、高リスク商品です。自己資本に組み入れられるため、リーマンショック後に欧州やアジアの金融機関による発行が活発化しました。Bloombergによれば、世界の発行残高は2,750億ドル。クレディ・スイスのAT1債は、公的支援を受けた場合(今回はスイス政府が90億スイスフランの損失補償)に減損されるとの特別な条項があり、これに該当しました。
他方、クレディ・スイスはUBSに「買収」されましたが、「破たん」ではないため、株主は相応の対価を受け取りました。AT1債が株価より先に全損となったことで、投資家の間では相当な批判が出ました。
ドイツ銀行も売り浴びせられる
SVBが破たんした3月10日から3月下旬にかけて、ドイツ銀行の株価が急落しました。数年前に経営危機に陥ったドイツ銀行はその後に財務基盤を強化しており、今回の下げはファンドによる仕掛け的な売りとの見方が強かったようです。ドイツのショルツ首相は3月24日、「ドイツ銀行は事業モデルを再編成しており、非常に収益性の高い銀行だ」と述べ、投資家へ安心するように呼びかけました。
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発端:シリコンバレー銀行の破たん
23年3月10日、カリフォルニア州のシリコンバレー銀行(SVB)が経営破たんしました。特化していた新興企業の資金繰り悪化や保有債券の価格下落などが背景。資産規模は全米16位。米国の銀行破たんではリーマンショック時の08年9月のワシントン・ミューチャルに次ぐ2番目の規模とのこと。
同12日にはニューヨーク州のシグネチャー銀行が当局によって事業停止措置を受けました。8日には銀行持ち株会社のシルバーゲート・キャピタルが銀行業務の清算を発表しています。昨年3月に始まったFRBの利上げの影響が徐々に出てきたのでしょう。
同じく12日は日曜日ながら、財務省、FRB、FDIC(連邦/預金保険公社)が共同声明を発表。SVBやシグネチャー銀行の全ての預金を保護するなどとし(=保護される預金の25万ドルの上限を例外的に撤廃)、銀行システムの健全性維持のために全力を挙げることを表明しました。これと並行して、FRBは銀行の資金繰りを支援するための新しいプログラム(BTFP)を創設しました。
SVB銀行破たんの影響
米国の主要銀行と地方銀行大手24行から構成されるKBW銀行株指数は2月7日の直近ピークから3月13日までに約29%下落。とりわけ、経営基盤が不安定とみられる地方銀行が売り込まれ、ファースト・リパブリック銀行は2月2日の高値から約8割、3月9-13日の3営業日で73%株価が下落しました。
金融不安の台頭を受けて、長期金利(10年物国債利回り)が大幅に低下しました。震源地となった米国だけでなく、英国やドイツの長期金利も大幅に低下。日本や豪州の長期金利にも下押し圧力が加わりました。また、高インフレ抑制のために利上げを続ける主要国中央銀行に対して、利上げ停止や利下げへの政策転換が余儀なくされるとの観測も広がりました。
金融不安はいったん落ち着き!?
その後、シリコンバレー銀行の余波で株価が大きく下落したファースト・リパブリック銀行に対して、主要な銀行20数行が300億ドルの預金を預けることで合意しました(3/16)。当局が仲介しました。また、NYコミュニティバンクがシグネチャー銀行を買収(3/19)、ファースト・シチズンズ・バンクシェアーズがシリコンバレー銀行を買収(3/27)、そうした当局の迅速な対応や金融機関の協力によって、事態はいったん落ち着きをみせました。
UBSによるクレディ・スイスの買収
金融不安は欧州に飛び火し、クレディ・スイスの経営危機が表面化しました。直接のきっかけは、3月15日に同行の筆頭株主であるサウジ・ナショナル・バンク(SNB)のフダリ会長が追加出資の可能性について「断じてない」と明言したこと。翌16日、もう一つのSNB(スイス中銀)と規制当局は、「クレディ・スイスは金融システムにとって重要な銀行として、資本や流動性の基準を満たしている」、「必要であれば、SNBが流動性を提供する」と表明、最大500億スイスフランの融資を行う意向でした。
もっとも、クレディ・スイスでは、破たんした新興ファンドへの過大な投資などスキャンダルが続出。21年2月25日につけたコロナショック後の高値からSVBが破たんした23年3月10日までに8割超下落していました。米銀の破たんがクレディ・スイスの経営危機を浮き彫りにした格好です。
スイス政府の仲介によって、UBSがクレディ・スイスを買収することで3月19日に合意。買収は30億スイスフランの株式交換になった模様ですが、そうであればクレディ・スイスの時価総額(17日終値で74億スイスフラン)を大きく下回りました。
クレディ・スイス債160億スイスフランが無価値に
3月20日、FINMA(スイス連邦金融市場監督機構)は、クレディ・スイスが発行したAT1債(「その他ティア1債」)160億スイスフラン相当が無価値になったと発表しました。
AT1債は、通常の社債に比べて弁済順位が低いため、発行した金融機関に損失が発生した場合には打撃を受け易い、高リスク商品です。自己資本に組み入れられるため、リーマンショック後に欧州やアジアの金融機関による発行が活発化しました。Bloombergによれば、世界の発行残高は2,750億ドル。クレディ・スイスのAT1債は、公的支援を受けた場合(今回はスイス政府が90億スイスフランの損失補償)に減損されるとの特別な条項があり、これに該当しました。
他方、クレディ・スイスはUBSに「買収」されましたが、「破たん」ではないため、株主は相応の対価を受け取りました。AT1債が株価より先に全損となったことで、投資家の間では相当な批判が出ました。
ドイツ銀行も売り浴びせられる
SVBが破たんした3月10日から3月下旬にかけて、ドイツ銀行の株価が急落しました。数年前に経営危機に陥ったドイツ銀行はその後に財務基盤を強化しており、今回の下げはファンドによる仕掛け的な売りとの見方が強かったようです。ドイツのショルツ首相は3月24日、「ドイツ銀行は事業モデルを再編成しており、非常に収益性の高い銀行だ」と述べ、投資家へ安心するように呼びかけました。
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