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「ウォーシュFRB議長」、3つのハードル

2026/02/04 07:43

※下院が上院の予算案を可決。大統領の署名を得て予算が成立したため、シャットダウンは解消されました。予算は年度末(9月末)まで。ただし、ICE(移民関税執行局)の予算は2月13日まで。その間に、議会は移民規制(主に執行)ルールの変更を立法化する方向です。なお、現時点で遅延した雇用統計やJOLTSの発表日は不明。

【ポイント】
・利下げを推進するために3つのハードル
・第1に、上院本会議での指名承認
・第2に、FRB内部での信任獲得
・第3に、「債券自警団(市場)」の説得
・「ウォーシュ議長」は非常に難しい政策運営を求められそう

トランプ大統領は1月30日、次期FRB議長としてウォーシュ元理事を指名しました。トランプ大統領は「ウォーシュ議長」が自身の意を汲んで積極的に利下げを推し進めることを期待しているでしょう。

「ウォーシュ議長」が利下げを推進するためには3つの大きなハードルがあると考えられます。

第1のハードル:上院での指名承認
上院で指名が承認されなければ、ウォーシュ氏が正式に議長に就くことはできません。ウォーシュ氏は06年に史上最年少で理事に承認されており、その資質は承認に問題ないかもしれません。ただし、今年1月9日に司法省が出したパウエル議長に対する大陪審への召喚状()が政治的な動機に基づくものだとして、共和党内にも批判があります。とりわけ、上院本会議で採決するために通過すべき銀行委員会の共和党ティリス議員は、召喚状問題が解決するまでFRB人事を承認しないと宣言しています。

※FRB本部改修工事費が予算を大きくオーバーしたことの責任、およびそれに関してパウエル議長が偽証したと追及するもの。

上院銀行委員会は現在、共和党議員13人、民主党議員11人で構成されています。ティリス議員と民主党議員全員が承認に反対すれば、賛否同数となり、基本的に否決となるようです。上述の召喚状に対してFRBは文書の提出など対応しておらず、この件がどう展開するかは全く不明です。

パウエル議長が退任後も理事としてFRBに留まる可能性がある場合、ウォーシュ氏は空席となったミラン理事(1月31日退任)の後任に指名されるはずです。FRB議長は理事の中から選ばれるとのルールがあるため。しかし、上述したように上院で承認されなければ、ウォーシュ氏は理事になることもできません。仮に、指名が承認されれば、「ウォーシュ理事」は早ければ3月のFOMCから参加することになりそうです。その前にも見解を表明する機会はあるかもしれません。

仮に、5月15日を過ぎてもウォーシュ氏の指名が上院で承認されていない場合、事態は複雑です。誰がFRB議長を代行するのか。副議長だと考えるのが妥当そうですが(現状だと銀行制度担当のボウマン副議長でなく、ジェファーソン副議長)、明確な規定はないようです。議長の再指名の承認が遅れて当人が議長代行として職務を続けるケースは過去にもありました。しかし、パウエル議長の退任が決定的なため、誰が代行となるのかは不透明です。

第2のハードル:FRB内での信任獲得
金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)は7人の理事と12人の地区連銀総裁の19人が参加。そのうち7人の理事と5人の総裁の12人の投票で決定されます。議長は投票前の議論のなかで自身の判断に参加者が賛同するよう説得するでしょう。それでも、議長の投票権は1票に過ぎません。過去に議長の提案が否決されたことは公式上ありません。ただ、それは換言すれば、賛同を得られない提案を議長がしなかっただけかもしれません。

金融制度など理事会の決定も原則多数決です。現在の7人の理事のうち、パウエル議長(のちに理事)とクック理事が残留するなら、ウォーシュ氏は、ウォラー理事(トランプ1期目に指名)、ボウマン副議長(トランプ2期目に昇格)の他に1名の賛同者を見つける必要があります。

ウォーシュ氏は、FRBの運営スタイルを変えようとするかもしれません。最近の言動から想定されるのは、(1)経済指標への依存から企業業績などミクロ情報の重視、(2)裁量の余地を狭めるとして経済見通し(ドット・プロット含む)やフォワード・ガイダンスの廃止、(3)FRBのバランスシートの圧縮(保有債券の売却)、(4)FRBの機能を金融政策に特化させる、(5)エコノミストやアナリストなどスタッフの削減、などです。それらがFRB内部で歓迎されるのかも不透明です。

第3のハードル:債券自警団(市場)の説得
仮に、ウォーシュ氏が首尾よく議長に就任し、さらにFRB内部をまとめ上げて、トランプ大統領が望むような大幅な利下げを遂行できるとします。その場合は、市場の洗礼を受けることになります。とりわけ、大統領への忖度からFRBの独立性が蔑(ないがし)ろにされ、強引な利下げがインフレの高騰につながると受け止められれば、市場金利、とりわけ長期金利は急騰するかもしれません。それは、景気の失速や株価の大幅な下落、米ドルの急落をもたらしかねません。

困難かつ狭き道
結局のところ、「ウォーシュ議長」は、①大統領に忖度するあまりにFRB内部や市場の信任を失うのか、②FRBの独立性を守るために大統領から攻撃を受けるのか、③それらをバランスさせてうまくかじ取りするのか、のいずれかでしょう。そして、③は非常に狭い道と言えるかもしれません。米景気が失速してデフレ的状況となり、誰もが積極果敢な金融緩和を期待すれば話は別でしょう。もっとも、その場合は株の暴落や金融不安に対処する必要がありそうです。
西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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