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FOMC議事録:関税の影響は低下も引き続き不確実

2025/07/10 07:36

【ポイント】
・関税の不確実性がFOMCでの議論の中心
・関税はインフレを高めるものの、そのタイミング・程度・期間は不確実
・参加者の2人は利下げに前向きも、大半が様子を見守る余裕があると判断

9日のNY市場で長期金利(10年物国債利回り)が大きく低下し、米ドル/円の重石になりました。長期金利は7月に入って、堅調な雇用統計、減税法案の成立などを背景に上昇していました。長期金利が6月中旬の水準まで上昇したことで、9日の10年物国債入札が良好な結果になるとの思惑があり、また実際に良好だったことが長期金利低下の背景でした。

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また、FOMC議事録(6月17-18日開催分)で、2人の参加者が早ければ次回7月のFOMCで利下げを検討することに前向きだったことが明らかになり、債券市場に安心感をもたらしたのかもしれません。

もっとも、投資家の国債購入意欲を測るうえで、10日実施の30年物国債入札が最も重要だとの見方もあり、その結果が注目されます。

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米FOMC議事録(6/17-18開催分)によれば、議論の中心は引き続き関税の影響でした。議事録中には「関税」が31回と、前回5月(32回)と同様に頻繁に言及されました。関税への言及は、3月が18回、1月が1回でした。また、(政府の政策に関わる)「不確実(不透明)」への言及が28回と前回(19回)から増加しました。

結論として、関税の影響に関する不確実性は、一部関税交渉の合意やその見通しを背景に4月のピークからやや低下したものの、引き続き大きいとのことでした。

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物価の見通しについて、関税の影響に関する議論が白熱したようです。物価に上昇圧力を加えるとの見方はほぼ一致していました。ただし、そのタイミングや影響の程度、影響する期間には大きな不確実性があると指摘。

多くの参加者は、関税が最終財の価格に反映されるまでには時間がかかるとみていました。関税引き上げ前に駆け込みで輸入したモノの在庫がなくなるまで企業は値上げをしないかもしれない、あるいは中間財にかかる関税がサプライチェーンを通して最終財に反映されるまでタイムラグがあるなどの理由からでした。

また、多くの参加者は、関税交渉が進展すれば、物価への影響は限定的になると指摘。企業がサプライチェーンの調整を通じて関税の影響を低下させるかもしれないとの見方もありました。関税に直接影響を受けない企業が便乗値上げをするのではないかとの指摘もあった一方で、家計や企業が値上げに拒絶反応を示せば関税の価格転嫁は難しくなるとの指摘もありました。

数人の参加者は、関税は一時の価格上昇をもたらすだけで、長期のインフレ期待には影響しないと指摘。しかし、ほとんどの参加者は、関税は物価に継続的な影響を与え、インフレ期待を高めるリスクがあると考えました。

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金融政策の先行きについては、声明文にあった通り景気や労働市場が引き続き底堅いため、インフレの見通しがもう少しはっきりするまで待つ余裕があるとの結論でした。そして、過半数の参加者は25年末までにいくぶんかの利下げを行うのが適切になると判断しました。

2人の参加者は、経済データが想定通りならば、次回7月のFOMCで利下げを検討することに前向きだと述べました。一方で、数人は25年末までに利下げをしないのが最も適切になるとみていました(※)。数人の参加者は、現在の政策金利が中立水準からそれほど高く離れていないと発言しました。

※公の場の発言から、利下げに前向きな2人はボウマン副議長とウォラー理事と推定できます。また、ドットプロットに基づけば、利下げ不要と考えたのは7人(利下げ1回が2人、2回が8人、3回が2人)。

なお、リスクについても検討され、高インフレが長引く一方で、雇用見通しが悪化すれば、FOMCは難しいトレードオフに直面すると(皆が)考えました。
西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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