日米欧の金融政策見通しに変化は?
2025/06/02 13:03
【今週のポイント】
・今週は、日米欧それぞれ金融政策見通しに関わる材料が多い
・関税や減税に絡んで米ドルが市場の信認を維持できるかも重要なポイントか
・BOC(カナダ中銀)は利下げするか、7月以降の金融政策についてのヒントを示すか
トランプ関税に関するニュースが引き続き市場を混乱させています。5月25日には、トランプ大統領が前週末に発表した対EU関税を7月9日まで延期すると発表。28日には米国際貿易裁判所が相互関税などを違法と判断。しかし、トランプ政権の控訴を受けて翌29日には連邦高裁が関税差し止めを一時停止しました。この件は、最高裁まで持ち込まれる可能性があり、そこでどのような判断が下されるかは予断を許しません。
30日には、トランプ大統領がSNSで「中国が(関税交渉の)合意に違反している」と発信。直後に習国家主席と電話会談の用意があることを明らかにしました。また、トランプ大統領は30日、鉄鋼・アルミ関税を現行25%から6月4日に50%に引き上げることを発表しました。
トランプ関税が最終的にどういった形になるのかは現時点で非常に不透明であり、その影響を把握するには相当の時間がかかりそうです。
今週は、日米欧の金融政策に関わる材料にも注目です。
米国では、ISM製造業・非製造業景況指数、雇用統計など5月分を中心とした経済指標や最新のベージュブック(地区連銀経済報告)が発表されます。また、2日にパウエル議長がFRB国際金融部門の75周年記念コンファレンスで講演します。
日本では、3日に植田日銀総裁が内外情勢調査会で講演。5日には4月の毎月勤労統計の発表があります。実質賃金は3月まで3カ月連続で前年比大幅マイナスとなっており、改善がみられるかどうか。同日昼過ぎに30年物国債入札の結果判明。同利回りは5月21日に、入札が始まった99年9月以来の最高値をつけており、入札が不調で金利上昇圧力が加わるようなら、株価にとってはマイナスとなりそうです。最近実施された20年債と40年債の入札は不調でした。
ECBの理事会では0.25%利下げが確実視されています。欧州経済の現状や見通し、トランプ関税の影響などについて、ラガルド総裁は会見で何を語るでしょうか。ラガルド総裁は利下げを実施した前回4月の理事会後の会見で、トランプ関税が景気と物価をともに下押しするデフレ的であるとの認識を示しました。EUが米国との関税交渉に前向きの姿勢をみせるなかで、ラガルド総裁の認識に変化はあるでしょうか。
なお、米議会では上院がメモリアルデーの休暇から戻ってきます。下院で可決された、トランプ減税を実現するための予算調整法案の審議が本格化しそうです。審議状況によっては債券市場(長期金利)が反応するかもしれません。<西田>
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トランプ米大統領は5月30日、「米国に輸入される鉄鋼・アルミニウムに課す追加関税を25%から50%(2倍)に引き上げる」と表明。6月4日に発動するとしました。
鉄鋼・アルミ関税が実際に引き上げられるなどして米中や米EUなどの貿易摩擦激化への懸念が強まれば、リスクオフ(リスク回避)が強まるかもしれません。その場合、豪ドル/円やNZドル/円などのクロス円に対して下押し圧力が加わる可能性があります。
今週は、RBA(豪中銀)議事録や豪州の1-3月期GDPが発表されます。それらがRBAの追加利下げ観測を高める内容になるのかどうか注目です。
カナダドルについては、4日のBOC(カナダ中銀)会合が材料になりそう。市場では、0.25%の利下げが決定されるとの見方がやや優勢です。<八代>
今週の注目通貨ペア①:<米ドル/円 予想レンジ:140.000円~148.000円>
OIS(翌日物金利スワップ)に基づけば、5月30日時点の市場のメインシナリオ(確率5割超)は、「FRBは、今年9月、12月、26年1月に0.25%ずつ利下げ」です。一方で、日銀については同じく「今年12月に0.25%利上げ」です(26年の金融政策予想は不明)。
上述した米経済指標やパウエル議長の発言などでFRBの利下げ観測が後退したり、日本の経済指標や植田総裁の発言で日銀の利上げ観測が後退したりすれば、日米長期金利差が拡大して米ドル/円の上昇要因になるかもしれません。
ただし、米長期金利が上昇するとしても、それが利下げ観測の後退というより財政赤字拡大懸念を強く反映しているようであれば、状況は異なるでしょう。いわゆる「悪い金利の上昇」であり、株安などリスクオフの強まりを伴って米ドル/円にも下落圧力が加わる可能性があるでしょう。
今週から上院で本格化する予算調整法案の審議において、トランプ減税の財源をどうするかが重要な争点になりそうです。トランプ政権が主張するように、減税による自然増収や(先行きが不透明な)関税収入に多くを依存するようであれば、債券市場から長期金利の上昇という形で警鐘が鳴らされるかもしれません。<西田>
今週の注目通貨ペア②:<ユーロ/米ドル 予想レンジ:1.11000ドル~1.16000ドル>
5月30日時点のOISに基づけば、6月5日のECB理事会での0.25%利下げが確実視されており、9月の理事会での追加利下げが8割近い確率で予想されています。また、確率は低いながらも25年中にさらに1回の利下げも想定されています。
FRBが利下げに慎重である一方で、ECBは利下げに積極的であり、金融政策見通しは短期的にはユーロ/米ドルのマイナス材料となり得ます。そうした状況下でもユーロ/米ドルが比較的堅調に推移してきたのは2つの理由が考えられるでしょう。
1つめは、ECBの利下げ打ち止めが近いとみられること。ECBの政策金利(中銀預金金利)は現在2.25%であり、次の利下げをもって政策金利はECBの物価目標である2%まで低下します。これはほぼ中立金利とみなせる水準であり、そこからの利下げ余地はさほど大きくないかもしれません。
2つめは、ユーロが米ドルの裏返しの性格を強く持っており、トランプ政権の関税発動やトランプ減税に向けての前進が米ドル安を招いていることでしょう。ユーロ/米ドルと米独2年物国債利回り差(米>ドイツ)は通常逆相関にありますが、今年3月以降は(週足データが少ないながら)強い相関関係にあります(例えば、米>ドイツの金利差の拡大とユーロ/米ドルの上昇が同時進行)。これはトランプ関税の発動などを受けて海外投資家が米国債を売却したと指摘されたタイミングと同じです。
今後、FRBとECBの金融政策の見通しの変化が短期的にはユーロ/米ドルの相場材料となりそうです。ただし、やや長い目でみれば、米ドル(や米国債)が海外投資家の信認を維持できるかが重要なポイントになるかもしれません。<西田>
今週の注目通貨ペア③:<豪ドル/NZドル 予想レンジ:1.07000NZドル~1.09000NZドル>
RBNZ(NZ中銀)は5月28日の政策会合で0.25%の利下げを行うことを決定しました。利下げは6会合連続です。
ただし、今回の会合では“政策金利を据え置く”ことも検討されました。また、声明では先行きの金融政策について「国内外の動向に対応する態勢が整っている」とされ、4月会合時の「必要に応じて政策金利をさらに引き下げる余地がある」から修正されました。政策会合の結果を受け、市場ではRBNZの追加利下げ観測が後退。市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によると、RBNZは12月末までにあと1回0.25%利下げするとの見方が市場では優勢です(5/30時点)。
一方、RBA(豪中銀)の金融政策については、同じくOISによると、市場では12月末までにあと3回合計0.75%利下げするとの見方が優勢です(5/30時点)。
市場のRBAとRBNZの金融政策見通しから見れば、豪ドル/NZドルには下落圧力が加わりやすいと考えられます。今週は、3日にRBA議事録(5/19-20日会合分)が公表され、4日に豪州の1-3月期GDPが発表されます。それらを受けてRBAの追加利下げ観測が一段と高まる場合、豪ドル/NZドルは下値を試す展開になりそうです。<八代>
今週の注目通貨ペア④:<米ドル/カナダドル 予想レンジ:1.35000カナダドル~1.39000カナダドル>
4日にBOC(カナダ中銀)の政策会合が開かれます。その結果にカナダドルが反応しそうです。
BOCは24年6月から25年3月にかけて7会合連続合計2.25%の利下げを実施。前回4月の会合では政策金利を2.75%に据え置きました。
カナダの4月CPI(消費者物価指数)はトリム値が前年比3.1%、中央値が同3.2%と、上昇率はいずれも前月(それぞれ2.9%と2.8%)から高まりました。その一方で、トランプ政権による関税はカナダ経済に大きな打撃を与える可能性があります。今回の会合について市場では、0.25%の利下げが行われるとの見方がやや優勢です。
BOCの声明やマックレム総裁の会見にも注目です。それらでは7月以降の会合についてどのようなヒントが示されるのかが焦点になりそうです。会合で政策金利が据え置かれて、さらに7月以降の追加利下げ観測が市場で後退する場合、カナダドルのプラス材料になると考えられます。
トランプ政権の関税や減税についてのニュース、雇用統計など米経済指標の結果にもよるものの、米ドル/カナダドルは200週移動平均線(6/4時点で1.34102カナダドル)に向かって下落する可能性があります。<八代>
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