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「関税戦争」の帰結!? 米スムート・ホーリー法の記憶

2025/03/11 08:05

【ポイント】
・10日のNY市場は関税や政府縮小の弊害を意識
・トランプ大統領は(痛み?は)「過渡期」的と形容
・米1930年関税法は世界恐慌を長期化・深刻化

10日のNY市場では、S&P500が前日比2.7%下落、ナスダック100が同3.8%下落。長期金利(10年物国債利回り)が前日の4.30%から4.21%に大きく低下。米ドル/円は一時146.622円をつけました。ただし、市場のリスクオフが強まったことで(※)、米ドルは円やユーロ以外の通貨に対しては上昇しました。

VIX指数、別名「恐怖指数」は30に接近。これは昨年12月18日(FOMCの結果を受けて利下げ観測が大きく後退して株大幅安)を超えて昨年8月上旬(いわゆる「日銀ショック」)以来の高水準。

VIX指数

直接のきっかけは、トランプ大統領が9日のFOXニュースで、リセッション(景気後退)を予想しているかと問われて「予測は嫌いだ。我々は非常に大きなことを行っているので、過渡期がある」と答えたこと。これを受けて、市場ではトランプ政権が長期的な目標実現のために、関税や政府部門縮小の痛みを容認するとの見方が広がりました。

トランプ政権ではDOGE(政府効率化省)が政府機能の縮小や職員の削減を進めています。トランプ大統領は関税を次々と打ち出しており、12日には鉄鋼・アルミ関税が発効する予定です。そして、中国やカナダが米国に対する報復関税を打ち出しています。

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以下では、極端な例ですが、米国の1930年関税法、いわゆる「スムート・ホーリー法」について概観しておきましょう。

第一次世界大戦(1914-18年)後の好景気を経て、米国は27年ごろから景気に陰りが見え始め、29年夏にはリセッション(景気後退)に入りました(※)。自国内の農業を保護する目的で30年6月にスムート・ホーリー法が成立。農産物にとどまらず約2万品目に平均50%程度の関税が課されました。

(※)NY株が大暴落した「暗黒の木曜日」は29年10月24日

米国の貿易相手国が次々と報復関税を打ち出した結果、世界貿易は縮小を続けました(下図)。これにより各国の工業生産も大きく落ち込み、世界恐慌(大恐慌)を長期化・深刻化させました。

世界貿易

トランプ関税の目的は、不公平貿易を是正し、国内産業を(正しく?)保護・振興することでしょう。しかし、それが行き過ぎたり、報復合戦を招いたりすると、貿易相手国のみならず米国を含めた世界経済に大きな打撃となりかねません。今後の展開を注意深く見守る必要があるでしょう。
西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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