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「トランプ2.0」の進め方、大統領令や予算交渉など

2025/01/10 08:37

【ポイント】
・移民規制や関税は大統領令で即発令!?
・減税案は予算調整法案に盛り込む意向
・25年度予算は3月中旬が重要タイミング、26年度予算のヤマ場は夏~秋

1月20日にトランプ大統領が就任します。トランプ大統領は選挙公約の実現に向けてまい進するでしょう。ただ、すぐにできること、できないことがあるので、そのプロセスを概観しておきましょう。

1. 大統領令の発令
2. 25年度予算の策定
3. 26年度予算の策定
4. その他の法の制定

通常の法案は、原則として議会をスタートして上下両院で可決された後に大統領の署名を得て成立します。閣僚指名諸外国との条約には上院の承認が必要です。共和党が上院、下院ともに過半数を占めるので、トランプ大統領は事を進めやすいはずです。ただし、民主党との議席差は上院、下院ともわずか。身内から造反が出れば、行き詰まります。また、上院では法案採決を遅らせるフィリバスターという戦術があり、採決に進むためにはスーパーマジョリティー(100議席中の60議席以上)が必要です。つまり、民主党の協力が不可欠。ただ、後述する予算調整法案のように一部の法案にはフィリバスターは使えません。一方、大統領令は大統領の権限として発令され、議会の承認は必要ありません。

1.大統領令の発令
大統領令は大統領の就任初日(1月20日)から発令できます。関税引き上げや、移民規制(不法移民の強制送還)・国境警備の強化などの新たな予算が必要でないものは可能でしょう。また、4年前の議会襲撃犯やトランプ氏に関連して有罪となった人々(トランプ氏自身も含む?)の恩赦も行いそうです。その他にも、パリ協定からの離脱(※)、環境問題の絡むエネルギー開発の許可などもあり得ます。

※パリ協定は、15年に採択された気候変動問題に関する国際的枠組み。17年6月にトランプ大統領が離脱を発表。21年にバイデン大統領が就任直後に復帰の大統領令に署名しました。

2.25年度予算の制定
24年10月に始まった25年度は正式な予算が成立せず、継続(つなぎ)予算が成立しています。24年12月20日に成立した継続予算の期限は25年3月14日。それまでに、新たな継続予算あるいは正式な予算が成立しなければ、シャットダウン(政府機能の一部停止)が発生します。

ここでいう予算とは、政府の歳出を決める12本の歳出法のこと。もっとも、社会保障などの義務的支出や国債費(利払い)が歳出のうち約7割を占め、歳出法がカバーするのは3割程度に過ぎません。歳入については税制などそれぞれの法に基づいています。ただ、財政収支をコントロールするために予算調整法案があり、それには歳出や歳入に関する項目(税制改革など)を盛り込むことができます。

上述したように、予算調整法案には上院のフィリバスターが使えず、上下両院の単純過半数で可決できるため、トランプ政権は様々な減税案を予算調整法案に盛り込む意向です。もっとも、共和党も一枚岩とは限りません。とりわけ、共和党内の財政保守派からは財政赤字拡大につながりかねない項目には強い反発が予想されます。

議会が25年度予算の交渉のなかで予算調整法案を審議するのか、そもそもルールとしてそれがどこまで可能なのか判然としない面もあります。

デットシーリング(債務上限)は年初に復活しました。財務省が非常手段を採ることで当面は問題とならないでしょうが、数カ月以内にデットシーリングへの対応が不可欠になります。デットシーリングの引き上げや無効化がなければ、連邦政府はデフォルト(債務不履行)します。デットシーリング問題が予算交渉に絡んできそうです。

3.26年度予算の策定
議会が25年度をつなぎ予算で乗り切るなどして、様々な問題を10月1日に始まる26年度の予算編成に先送りする可能性もあります。例年2月に発表される予算教書は、大統領就任1年目に限れば5月ごろにずれ込むようです。予算教書発表の前後から26年度予算の交渉が始まります。議会は予算の大枠を決める予算決議を採択。これが設計図となって歳出法案や予算に関連した法案の審議が行われます。予算交渉がヤマ場を迎える夏場~秋口には予算調整法案が最重要課題になるとみられます。

4.その他の法の制定
トランプ次期大統領の公約実現に向けて予算調整法案が重要なカギを握っています(民主党の協力が必ずしも必要ではないから)。ただ、予算調整法案には歳出や歳入に影響を与える項目しか盛り込めないとのルールがあるようです。予算調整法案に盛り込めない政策案には、相応の民主党への譲歩が必要になるかもしれません。
西田明弘

執筆者プロフィール

西田明弘(ニシダアキヒロ)

チーフエコノミスト

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