マネースクエア マーケット情報

ゴールドは米CPIショック後の下落をほぼ打ち消し、原油はもみ合い

2024/02/22 16:04

【ゴールドのポイント】
・米ドル建て金先物は、米CPIショックを消化し買い戻し
・ゴールドETFが資金流出、ビットコイン現物ETFが影響?
・米ドル建て金先物、三役逆転が消滅し下値の堅さを確認か

―米ドル建て金先物は、米CPIショックを消化し買い戻し
シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の米ドル建て金先物価格は、買い戻し。前週は、米1月消費者物価指数(CPI)が市場予想を上回ったショックで、早期の米利下げ期待が後退し2,000ドルを割り込みましたが、その後は下落を打ち消す展開となりました。米金利と米ドルの上昇に一服感もあり、2月20日までに3日続伸。21日には時間外で一時2,043.5ドルと、米1月CPI発表前の高値に迫り、通常取引で米金利上昇につれ下落したものの、小幅にとどまりました。

FOMC議事録:時期尚早な利下げ観測をけん制

―ゴールドETFが資金流出、ビットコイン現物ETFが影響?
 足元、ゴールドとビットコイン現物の上場投資信託(ETF)における資金流出入動向で明暗が分かれ、話題となっています。ビットコイン現物ETFの取引が1月11日に開始して以来、2月16日までの間、ここに巨額の資金が流入しているためです。ETFドットコムによれば、ビットコイン現物ETFの代表格である運用会社ブラックロックの「iシェアーズ・ビットコイン・トラスト(IBIT)」は51億7,340万ドル、運用会社フィデリティの「フィデリティ・ビットコインETF(FBTC)」は32億7,460億ドル、合計84億4,800万ドルの資金流入を確認しています。

一方で、ゴールドETFの代表格である「SPDRゴールド・シェア(GLD)」から17億2,170万ドル、「シェアーズ・ゴールド・トラスト(IAU)」から3億440万ドル、合計20億2,600万ドルの資金が流出していました。前年同期に、GLDに2億4,100万ドル、IAUに8,600万ドルの資金が流入していた動きと、対照的です。

チャート:ゴールドとビットコイン現物、2大ETFの資金流出入動向
ゴールドとビットコイン現物、2大ETFの資金流出入動向

ビットコインと言えば、安全資産としてゴールドの代替資産となるか長らく議論が交わされています。国際通貨基金(IMF)も「匿名性を確保し、商取引の遂行に当たって政府や主要金融機関への依存を排除する」資産と位置付けるなど、ドルを始め法定通貨離れの象徴としても注目されてきました。

ただ、足元のゴールドETFの資金流出とビットコイン現物の資金流入が、ゴールドからビットコインへの資金シフトを表すかというと、それは別問題と言えそうです。そもそも、ゴールドETFが保有するゴールドは金調査機関のワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が指摘したように、23年に224トン減の3,226トンと、22年に続き減少していました。ハト派的なFRBが北米からのゴールドの資金流入を支えた一方で、タカ派的な一部の中銀の政策姿勢などを受け欧州を中心とした投資家のゴールド需要を抑制したためです。

一方で、中国やポーランド、トルコなど新興国が支え、世界の中銀のゴールド購入量は1,035トン増と、ゴールドETFの売り越し分を大幅に上回ります。

23年の世界金需要、中銀の需要を軸に過去最高に急増

従って、足元のビットコイン現物ETFへの資金流入に対しゴールドETFから資金が流出している状況は、必ずしもゴールドの需要低下を意味するものではないと言えそうです。

―米ドル建て金先物、三役逆転が消滅し下値の堅さを確認か
米ドル建て金先物価格の1週間の予想レンジは、2,000~2,060ドル。今後1週間は、22日に米2月総合PMI・速報値、27日に米2月消費者信頼感指数、28日に米10~12月期実質GDP改定値、29日に米1月個人消費支出(PCE)やPCE価格指数、3月1日に米2月ISM製造業景況指数などを予定します。

テクニカル的には、三役逆転が消滅したほか、前週に2,000ドルを割り込んだ局面では100日移動平均線でサポートされたこともあり、下値の堅さが意識されそうです。上値は2月第2週以降で上げ渋りとなっている水準の2,060ドル、下値は100日移動平均線が近い2,000ドルと予想します。

チャート:23年11月以降の米ドル建て金先物の日足、100日移動平均線は黄緑線
23年11月以降の米ドル建て金先物の日足チャート
(出所:TradingView)

円建て金先物価格の1週間予想レンジは、9,660~9,850円。円建て金先物は、ドル円が150円前後で推移するなか、米ドル建て金先物の買い戻しに支えられ、2月22日に一時9,803円と23年12月初め以来の高値をつけました。ドル円が150円前後で推移する限り、円建て金先物は引き続き、堅調な推移を続けそうです。上値は心理的節目がある9,850円、下値は一目均衡表の基準線がある9,660円と予想します。

金ETFの代表格、SPDRゴールド・シェア(ティッカー:1326)の1週間予想レンジは、2万7,500~2万8,200円。


【WTI原油先物のポイント】
・WTI原油先物、中東情勢緊迫化続くも動意に乏しく
・シティ、「ワイルドカード」シナリオとして原油価格100ドル突破を予想
・WTI原油先物、78.80ドル付近で抑えられ上値重いか

―WTI原油先物、中東情勢緊迫化続くも動意に乏しく
ニューヨーク・マーカンタイル取引所でのWTI原油先物価格は、もみ合い。イスラエルが停戦を拒否するなかイエメンの親イラン武装組織フーシによる商船への攻撃が続き、米国がウクライナ侵攻中のロシア向け追加制裁を2月23日に発表するとの報道を受けても、値動きは限られました。独連銀が月次報告で24年の景気後退入り最中にある可能性を示すなど、主要国での景気後退・減速に伴う需要懸念が上値を抑えた格好。20日に一時78.52ドルまで上昇するにとどまりました。なお、米週間石油在庫統計は、19日がプレジデンツ・デーの祝日を受け休場だったため、通常の水曜ではなく、22日の木曜に発表されます。

―シティ、「ワイルドカード」シナリオとして原油価格100ドル突破を予想
中東情勢の緊迫化が続くなか、シティグループは向こう1年から1年半の間に原油価格が100ドルを突破するという「ワイルドカード(不確実)」予想を示しました。地政学的リスクの他、石油輸出国機構(OPEC)の加盟国と非加盟国から成る自主供給削減幅の拡大、主要産油国・地域からの供給障害などにより、原油価格が押し上げられるといいます。

OPECプラスが23年11月に開始した自主供給削減は3月までとなり、今後については不透明な状況です。また、米兵3人が死亡した1月のヨルダン米軍基地攻撃の米軍基地攻撃への報復として、イラクにある親イラン勢力の関連施設にミサイル攻撃を行っており、情勢悪化次第では供給障害が発生しイラク以外の国に広がる場合もありそうです。

ただ、市場は足元でこうしたリスク・シナリオを想定していないようで、WTI原油先物は80ドル以下での推移が続きます。米国のエネルギー需要が原油とガソリンそろって2019年平均以下であるように、主要国の需要への懸念が上値を重くさせているのでしょう。

チャート:米国エネルギー需要、2019年平均以下が続く
米国のエネルギー需要

―WTI原油先物、78.80ドル付近で抑えられ上値重いか
WTI原油先物の1週間の予想レンジは、73.90~78.80ドル。今後1週間は、22日に米2月総合PMI・速報値、27日に米2月消費者信頼感指数、28日に米10~12月期実質GDP改定値、29日に中国2月製造業PMIを始め米1月個人消費支出(PCE)やPCE価格指数、3月1日に中国2月財新製造業PMIや米2月ISM製造業景況指数などを予定します。

テクニカル的には、100日移動平均線が200日移動平均線を下抜けデッドクロスが形成されました。また、23年10月7日にハマスがイスラエルへ大規模攻撃を開始して以降の高値と、2023年12月の安値の半値戻しにあたる78.80ドル付近で頭が抑えられています。ここをクリアに抜けてこないと、レンジブレークは難しいでしょう。
上値は78.80ドル、下値は引き続き50日移動平均線が控える73.90ドルと予想します。

チャート:WTI原油先物の23年10月以降の日足、50日移動平均線は紫線、2023年10月20日の高値と2023年12月安値の半値戻しは黄緑線
WTI原油先物の23年10月以降の日足チャート
(出所:TradingView)

【お知らせ】
次号より『金・原油マーケット特別レポート』は伊賀大記(イガ ダイキ)氏が執筆いたします。


◆本レポートは、執筆者が信頼に値すると判断した情報に基づいて作成されたものです。あくまで情報提供が目的であり、投資に関しましては、投資家ご自身の判断に基づき決定してください。
◆本レポート内の予想やその他の見解は、出所を明記しているものを除き、執筆者個人のものであり、当社のものではありません。したがって、その内容等について当社は責任を負いかねます。また、当社はこれに関するお問い合わせにはお応えいたしかねますのでご了承ください。
◆相場の状況により、当社のレートとレポート内のレートが異なる場合があります。
◆本レポートの内容は予告なく変更される場合があります。
◆本サイトに掲載された内容の著作権は、当社または執筆者(またはその提供元)に帰属します。したがって、無断で使用、複製、改変することを禁じます。
安田佐和子

執筆者プロフィール

安田佐和子(ヤスダサワコ)

株式会社ストリート・インサイツ代表取締役/経済アナリスト

  • 当レポートは、情報提供を目的としたものであり、特定の商品の推奨あるいは特定の取引の勧誘を目的としたものではありません。
  • 当レポートに記載する相場見通しや売買戦略は、ファンダメンタルズ分析やテクニカル分析などを用いた執筆者個人の判断に基づくものであり、予告なく変更になる場合があります。また、相場の行方を保証するものではありません。お取引はご自身で判断いただきますようお願いいたします。
  • 当レポートのデータ情報等は信頼できると思われる各種情報源から入手したものですが、当社はその正確性・安全性等を保証するものではありません。
  • 相場の状況により、当社のレートとレポート内のレートが異なる場合があります。
topへ