2023年為替相場の総括
23年の為替相場は引き続き「円安」の一年でした。Bloombergの集計する主要17通貨の上昇率をみると、円のランキングが21年17位(=最下位)、22年16位、23年17位でした(23年は12月20日まで)。20年春のコロナ・ショックからの回復局面で日銀を除く主要中央銀行が高インフレに対応してアグレッシブな利上げを継続。一方で、日銀は23年4月に就任した植田総裁の下でも、黒田前総裁の政策を継承し、金融緩和を維持しました。
当社取り扱い通貨の23年(12月20日まで)の騰落は上昇率の高い順に以下の通り。
メキシコペソ>英ポンド>ユーロ>カナダドル>米ドル>豪ドル>NZドル>南アランド>円(>>>トルコリラ)
※トルコリラはBloombergの主要通貨に含まれず
米ドル151円台と為替介入
米ドル/円は10月に90年8月以来となる151円台を示現(終値ベース)。市場は22年秋の経験から本邦当局による米ドル売り円買いの為替介入を警戒。しかし、実際には為替介入は行われず、後述するような金融政策見通しの変化により米ドル/円は下落基調に転じました。
円は米ドル以外の通貨に対しても大きく下落。ユーロ/円は08年8月以来、英ポンド/円は15年11月以来、豪ドル/円は14年12月以来、NZドル/円は15年4月以来、カナダドル/円は08年1月以来、メキシコペソ/円は08年10月以来の高値をそれぞれ記録しました。
非円通貨ペアはレンジ相場!?
米ドル/円が1月の安値から11月の高値まで20%近く上昇したのに対して、ユーロ/米ドルや英ポンド/米ドルやその他の非円通貨ペアは5%~10%程度の変動(23年中の高値/安値)にとどまり、概ねレンジ相場を形成しました。
利上げサイクルの終盤
23年6月ごろから、市場では日銀を除く主要中銀の利上げサイクルが終盤に差し掛かったとの観測が浮上。ただ、主要中銀からは「高い政策金利を長く維持する」とのメッセージが発せられ、また植田日銀総裁が金融緩和の姿勢を堅持したため、内外金利差が引き続き「円安」材料になりました。それでも、23年終盤には主要中銀による早期の開始かつ大幅な利下げの観測が強まりました。一方で、日銀が近く金融緩和を修正するとの思惑も台頭し、金融政策見通しの変化が「円高」を演出しました。
金融不安と米イールドカーブの逆転
22年春以降のアグレッシブな利上げの悪影響も散見されました。米国における市場金利全般の上昇や長短金利の逆転が金融機関の経営を圧迫。3月以降、SVB(シリコンバレー銀行)など地銀大手数行が破たん、金融不安が広がりました。ただ、08年リーマンショックのような広範な危機の伝播(コンテイジョン)には発展しませんでした。これとは別に不動産不況が長引く中国で、大手不動産開発会社が事実上経営破たんしました。
米長短金利差(2年物と10年物国債利回りの格差)でみたイールドカーブの逆転現象は22年7月に始まって23年7月に最大となり、米国のリセッション(景気後退)が懸念されました。米景気は23年末も底堅く推移しているようですが、24年にかけて懸念が実現する可能性は残ります(イールドカーブの逆転はリセッションに2年程度先行するため)。なお、米長期金利(10年物国債利回り)は10月中旬には07年以来となる5%超を一時示現、その後は低下基調となりました。
デフォルトとシャットダウン
米長期金利の上昇には、財政赤字の拡大やFRBのQT(量的引き締め=保有国債の圧縮)も寄与。膨張する財政赤字に対して共和党の保守強硬派は大幅な歳出削減を要求。春にはデットシーリング(債務上限)引き上げの問題が発生。デフォルト(債務不履行)は回避されたものの、その時の経緯が禍根となって24年度の予算編成が難航。短期の継続(つなぎ)予算は成立しましたが、シャットダウン(政府機能の一部停止)のリスクは24年1—2月に先送りされました。
英賃金インフレとUAWストライキ
労働市場がタイトななかで、高インフレへの対抗から賃上げ要求が強まりました。英国では鉄道や病院など公共部門でもストライキが頻発。BOE(英中銀)は「賃金⇔インフレ」のスパイラル的上昇を強く懸念しました。米国では、9月にUAW(全米自動車労組)が3大メーカーに対してストライキを決行。45日間のストライキの末、労使交渉は4年で25%の賃上げなどの好条件で妥結しました。
エネルギー価格は比較的落ち着いて推移
22年に一時1バレル=130ドルまで上昇した原油価格(WTI先物)は、23年は比較的落ち着いて推移。9月には95ドルまで上昇しましたが、世界的な景気減速観測から23年終盤は70ドル前後で推移しました。また、ロシアのウクライナ侵攻を背景に22年夏~秋に高騰した欧州の天然ガス価格や電力料金も低水準で安定的に推移し、景気が低迷するユーロ圏や英国にとって一息つける要因となったはずです。
トルコ大統領選挙とトルコリラ
トルコでは、5月の大統領選挙でエルドアン氏が三選を果たしました。選挙戦で苦戦したことで、エルドアン大統領は経済チームを刷新。新たに就任したエルカンTCMB(中銀)総裁は、高インフレに対応するため大幅な利上げを推進しました。ただ、9月以降のトルコリラは管理相場の様相を呈しており、対米ドルでゆっくりと安値を更新する一方で、相場材料に対する変動はあまりみられませんでした。
2023年のトラリピを振り返る
- ほかと一線を画した『トラリピ世界戦略』3通貨ペア -
2023年を振り返ると、前年22年に続いて「円安」の印象が強かった、これに尽きそうです。対円通貨ペアの多くが上昇傾向となり、買いを中心に取り組まれた方は利益が上がった一方、売りを中心に取り組まれた方はポジション整理を余儀なくされるなど、苦い経験をした場面もあったことでしょう。
そして、なにかと注目を集めていた対円通貨ペアに対して、「円」の強弱に関係ない通貨ペア(=対円以外の通貨ペア)はどのような様子だったのでしょうか?
ここでは「注文件数」「注文口座数」からトラリピユーザーの皆さまの傾向を、そして「騰落率」と「レンジシェア」の観点から各通貨ペアの値動きを振り返っていきます。
【1】2023年のトラリピ人気通貨ペア
まずは『2023年に注文されたトラリピの件数』ランキングを見てみましょう。
2023年トラリピ新規注文件数ランキング※2023年1月3日~2023年11月30日の新規注文件数
通貨ペア | |
---|---|
1位 | ユーロ/円 |
2位 | 豪ドル/NZドル (オージーキウイ) |
3位 | 米ドル/円 |
4位 | カナダドル/円 |
5位 | 米ドル/カナダドル (ドルカナダ) |
6位 | ユーロ/英ポンド (ユーロポンド) |
7位 | 豪ドル/円 |
8位 | 英ポンド/円 |
9位 | NZドル/円 |
10位 | NZドル/米ドル |
11位 | ユーロ/米ドル |
12位 | メキシコペソ/円 |
13位 | 豪ドル/米ドル |
14位 | 英ポンド/米ドル |
15位 | トルコリラ/円 |
16位 | 南アフリカランド/円 |
※注文後取り消されたトラリピも含む
ユーロ/円が1位、「トラリピ世界戦略」でおなじみの豪ドル/NZドルが2位にランクイン。豪ドル/NZドルと同様「世界戦略」通貨ペアに名を連ねる米ドル/カナダドルとユーロ/英ポンドは、それぞれ5位と6位に入りました。
対円通貨ペアは概ね上昇傾向にあったため、追加で注文を入れるといったケースが多かったのかもしれません。
では、トラリピを注文した口座数でも確認してみましょう。
2023年トラリピ新規注文口座数ランキング※2023年1月3日~2023年11月30日の新規注文口座数
通貨ペア | |
---|---|
1位 | ユーロ/円 |
2位 | カナダドル/円 |
3位 | 豪ドル/NZドル (オージーキウイ) |
4位 | ユーロ/英ポンド (ユーロポンド) |
5位 | 米ドル/カナダドル (ドルカナダ) |
6位 | 米ドル/円 |
7位 | 豪ドル/円 |
8位 | NZドル/米ドル |
9位 | NZドル/円 |
10位 | ユーロ/米ドル |
11位 | 英ポンド/円 |
12位 | メキシコペソ/円 |
13位 | トルコリラ/円 |
14位 | 豪ドル/米ドル |
15位 | 英ポンド/米ドル |
16位 | 南アフリカランド/円 |
※注文後取り消されたトラリピも含む
注文件数と同じく、1位はユーロ/円。2位はカナダドル/円で、対円通貨ペアが上位2つを占めました。しかし、3位~5位には「トラリピ世界戦略」の3通貨ペアが続いています。
一般的に取引量が多いとされるのは米ドル/円ですが、注文口座数ランキングでは6位。「世界戦略」の3通貨ペアが、多くのトラリピユーザーにとって取り組みやすいものになってきているということかもしれません。
【2】値動きでみる2023年
では、各通貨ペアの値動きを振り返ってみましょう。
(1)騰落率でみる
各通貨ペアの2023年1月3日の終値を「100」として指数化しグラフにしました。期間は2023年1月3日~11月30日です。
まずは対円通貨ペアから。

中心に引いた赤線からの乖離の度合いで、年初からどれだけ上昇/下落したのかをイメージできます。11月末時点では、トルコリラ/円以外の通貨ペアは年初よりも値位置が高くなっていました。約15年ぶりの高値をつけたユーロ/円の値動きが印象的な1年でしたが、変動率でいえば、実はメキシコペソ/円と英ポンド/円のほうが大きく上昇していたことがわかります。
次に、対円以外の通貨ペアを見てみましょう。

まず、前掲の「対円通貨ペア」と比較して全体的に振れ幅が小さいことが見て取れます。対円通貨ペアの多くが年初と比較すると10%を超えて上昇、もしくは下落していましたが、対円以外の通貨ペアはどうでしょうか。ご覧のとおり、どの通貨ペアも±10%どころかほぼ±5%の範囲に収まっています。
ここで、図中の太線3本に注目してみましょう。
豪ドル/NZドル、ユーロ/英ポンド、米ドル/カナダドル…「トラリピ世界戦略」の3通貨ペアです。いずれも明確な方向性を持って変動するというよりも、ほぼ横ばいで推移している期間が大半を占めているように見えます。
トラリピを仕掛けるのであれば、一方向への動きが続くよりも横ばい(レンジ)で推移するほうが取り組みやすい。そう考えれば、注文口座数で「世界戦略」の3通貨ペアが上位に入っているという結果も頷けます。
(2)総推移・レンジシェアでみる
次に、各通貨ペアの「100pipsあたり総推移」そして「レンジシェア」を見てみましょう。
2つの項目の定義は以下のとおりです。
-100pipsあたり総推移とは?-
100pipsの値幅内でどの程度の総推移があったのかがわかるもので、値動きの多さを判断する指標の1つ。
《総推移÷高低差》で算出。
-レンジシェアとは?-
ある期間における最高値を100%としたときの最安値の水準を%で表したもの。
《(最高値―最安値)/最高値×100》で算出。
トラリピを仕掛けるにあたって、多くの方が「収益機会の多さ」と「資金効率」を気にするのではないでしょうか。であれば、「値動きが多く(=100pipsあたり総推移が大きく)」、かつ「値動きの幅が狭い(=レンジシェアが小さい)」通貨ペアほど「トラリピ向き」であると言えます。
これを念頭において、データを確認してみましょう。
2023年 100pipsあたり総推移ランキング
通貨ペア | 100pipsあたり 総推移 (単位:pips) |
|
---|---|---|
1位 | 豪ドル/NZドル (オージーキウイ) |
5,670.8 |
2位 | 米ドル/カナダドル (ドルカナダ) |
5,132.8 |
3位 | ユーロ/米ドル | 4,749.4 |
4位 | NZドル/米ドル | 4,594.2 |
5位 | ユーロ/英ポンド (ユーロポンド) |
4,581.0 |
6位 | NZドル/円 | 4,339.2 |
7位 | 豪ドル/米ドル | 4,221.3 |
8位 | 豪ドル/円 | 4,160.0 |
9位 | 英ポンド/米ドル | 3,860.4 |
10位 | 南アフリカランド/円 | 3,841.7 |
11位 | トルコリラ/円 | 3,120.2 |
12位 | カナダドル/円 | 2,931.9 |
13位 | 米ドル/円 | 2,658.4 |
14位 | ユーロ/円 | 2,530.1 |
15位 | 英ポンド/円 | 2,466.8 |
16位 | メキシコペソ/円 | 2,302.8 |
2023年 レンジシェアランキング
通貨ペア
|
レンジシェア (単位:%) |
|
---|---|---|
1位 | 豪ドル/NZドル (オージーキウイ) |
4.73 |
2位 | ユーロ/英ポンド (ユーロポンド) |
5.37 |
3位 | 米ドル/カナダドル (ドルカナダ) |
5.80 |
4位 | ユーロ/米ドル | 7.34 |
5位 | 英ポンド/米ドル | 10.21 |
6位 | NZドル/米ドル | 11.69 |
7位 | NZドル/円 | 11.99 |
8位 | 豪ドル/米ドル | 12.36 |
9位 | 豪ドル/円 | 12.71 |
10位 | カナダドル/円 | 15.37 |
11位 | 米ドル/円 | 16.27 |
12位 | ユーロ/円 | 16.36 |
13位 | 南アフリカランド/円 | 17.11 |
14位 | 英ポンド/円 | 17.65 |
15位 | メキシコペソ/円 | 24.65 |
16位 | トルコリラ/円 | 30.66 |
「トラリピ世界戦略」3通貨ペアの健闘が目立っています。
豪ドル/NZドルは両方のランキングで1位。
ユーロ/英ポンドは100pipsあたり総推移で5位、レンジシェアは2位。
米ドル/カナダドルは100pipsあたり総推移で2位、レンジシェアは3位。
先述の騰落表のとおり、対円以外通貨ペアは全体として振れ幅が狭い傾向にありましたが、上記3通貨ペアはその中でも頭一つ抜けている、まさに「トラリピ向き」ということでしょう。
ちなみに、豪ドル/NZドルはトラリピ戦略リストに掲載している『ダイヤモンド戦略』のパフォーマンスが好調に推移しています。ユーロ/英ポンド、米ドル/カナダドルの戦略も掲載しておりますので、どんなトラリピを仕掛けるか決めかねる場合は参考にしてみてください。
●2023年のトラリピまとめ
対円通貨ペアではほとんど一方向のトレンドが続き、トラリピがワークしにくい局面があった。
一方で対円以外の通貨ペア、とくに「トラリピ世界戦略」の3通貨ペア(豪ドル/NZドル、ユーロ/英ポンド、米ドル/カナダドル)は、いずれも比較的値動きは多め・変動幅は狭めの傾向で、昨年以上にトラリピユーザーにとって馴染みのある通貨ペアとなってきていることが窺える。
掲載している内容は、2023年1月3日~11月30日までの値動きを元に作成いたしました。その後の値動きによっては、傾向が変わる可能性がある点にご留意ください。