景気オーバーキルの懸念

2022/06/20 11:17

ウィークリー・アウトルック

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【今週のポイント】
・アグレッシブな利上げが景気をオーバーキルするとの懸念が台頭
・パウエルFRB議長は議会証言で何を語るか
・BOC(カナダ中銀)の利上げ観測は強まるか
・BOMはどの程度利上げするか(利上げ幅)、政策メンバーの投票行動にも注目

先週(6/13-)は、米FRBやSNB(スイス中銀)などのアグレッシブな利上げを受けて、景気をオーバーキルする(利上げにより景気を落ち込ませる)との懸念が強まりました。今週も、世界的な景気の先行きに対する見方や、それを反映する株価動向などが為替相場の材料となりそうです。

今週の主要経済指標・イベント

22日にパウエルFRB議長が上院で半期に一度の議会証言を行います(23日に下院で証言)。15日にFOMCの結果が判明し、議長の記者会見も行われました。もっとも、その後の市場の反応(株安など)に関して何を語るか、7月のFOMCでの0.75%利上げの可能性に言及するか、などは気になるところです。インフレ抑制に向けて強い意思を示せば、長期金利や米ドルの上昇要因となり得ます。ただ、リセッション(景気後退)の懸念が強まって株価が大きく下落するようだと、長期金利や米ドルが下落するシナリオもありそうです。

また、5月CPI(消費者物価指数)の発表が、英国、南アフリカ、カナダ(いずれも22日)、日本(24日)であります。インフレ動向は金融政策の予想に大きく影響するだけに要注目でしょう。<西田>

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BOC(カナダ中銀)やRBA(豪中銀)、RBNZ(NZ中銀)はすでに利上げを開始し、今後も利上げを続けるとみられる一方、日銀は現在の大規模な金融緩和策を継続する姿勢を示しています。日銀とBOCなどとの金融政策の方向性の違いに支えられて、カナダドル/円や豪ドル/円、NZドル/円は堅調に推移しそうです。

ただ、主要国の株価動向には注意が必要かもしれません。米FRBなど主要中銀(日銀を除く)の利上げを受けて、欧州や米国はリセッション(景気後退)に陥るとの懸念が市場で浮上しており、主要国の株価に対して下押し圧力が加わっています。株安が続けば、リスクオフ(リスク回避)の動きが強まる可能性があります。リスクオフは、円高材料や米ドル高材料です。

今週(6/20- )は、BOM(メキシコ中銀)とTCMB(トルコ中銀)の政策会合があります(いずれも23日)。BOMは、0.75%の利上げを行うことを決定しそうです(後述)。

TCMBについては、政策金利を14.00%に据え置くとみられます。トルコの5月CPI(消費者物価指数)は前年比73.50%と、上昇率は前月の69.97%から加速したものの、エルドアン大統領は低金利を志向しており、その状況でTCMBが利上げするのは困難と考えられるからです。トルコリラ/円については、米ドル/円の上昇に下支えされているものの、TCMBが政策金利を据え置いた場合には、下押しする可能性があります。<八代>

今週の注目通貨ペア①:<米ドル/円 予想レンジ:132.500円~137.500円>
先週の米FOMCと日銀金融政策決定会合の結果を受けて、日米の金融政策の方向性の差が一段と明確になりました。SNB(スイス中銀)がサプライズで利上げし、ECBも7月には利上げに踏み切るとみられるなか、日銀の金融緩和継続の姿勢は他の主要中銀との差が歴然であり、「円安」を基本とすべきでしょう。

ただし、先週も見られたように、景気の先行きに対する懸念から株価が大きく調整するようであれば、市場心理はリスクオフに傾いて、円や米ドルなどの安全通貨へ資金がシフトする場面もありそうです(二通通貨の関係は円>米ドル)。

今週は20日が祝日(振替)で米市場が休場。22-23日のパウエルFRB議長の議会証言が相場材料になる可能性があります。24日には日本の5月CPIが発表されます。総合指数や生鮮食品を除くベースでは前年比2%を超えそうです。ただし、日銀はインフレ率の上振れは一時的との判断を変えそうもありません。長期金利の許容変動レンジの上限(0.25%)の死守も含めて、金融緩和継続の姿勢に変化はなさそうです。

一方、6月に入ってFRBのQT(量的引き締め)が始まっており、米長期金利には上昇圧力が加わりやすい状況です。米長期金利が再び3.50%を目指す展開となれば、米ドル/円は直近高値15日の135.537円を超えて上昇するかもしれません。<西田>

今週の注目通貨ペア②:<ユーロ/米ドル 予想レンジ:1.03000ドル~1.07000ドル>
ECBが7月の利上げに向けて準備を進めるなか、イタリアなど財務状況の良くない国の長期金利が上昇し、ドイツの長期金利との格差が拡大しています。ECBは15日に臨時会合を開催して対応策を協議、そうした「分断化」を防ぐ新たなツールの開発をスタッフに支持しました。PEPP(パンデミック緊急購入プログラム)で取得した国債の再投資を利用するものとみられますが、欧州債務危機に際して12年に創設されたESM(欧州安定メカニズム)を活用する可能性もあるようです。「分断化」の阻止はユーロ圏の結束を示すものとして、通貨ユーロのプラス材料でしょう。

一方で、地政学リスクが散見されます。アイルランドの国境問題に関して、英国がブレグジット合意に反する動きをみせており、ユーロ圏は英国への「法的措置(最終的には罰金など)」を強化しています。ユーロ圏が返り血を浴びる可能性もあるでしょう。また、フランスでは国民議会選挙の決選投票が行われ、マクロン大統領の与党連合が過半数割れとなった模様です。フランス政治の不安定化はユーロのマイナス材料でしょう。加えて、ロシアによるウクライナ侵攻は今後もユーロ圏経済の重石となりそうです。<西田>

今週の注目通貨ペア③:<米ドル/カナダドル 予想レンジ:1.25000~1.32000カナダドル>
カナダの5月CPI(消費者物価指数)が22日に発表されます。CPIの市場予想は前年比7.3%と、91年1月以来の高い伸びを記録した前月の6.8%から上昇率が加速し、BOC(カナダ中銀)のインフレ目標(2%を中心に1~3%のレンジ)を大きく上回るとみられています。

BOCの現在の政策金利は1.50%。市場では、BOCは次回7月13日の政策会合で0.75%の利上げを行い、政策金利は22年末までに3.50%へと上昇するとの見方が有力です。CPIが市場予想を上回る結果になれば、BOCの利上げ観測が一段と強まり、カナダドルの支援材料となりそう。米ドル/カナダドルは軟調に推移する可能性があります。

一方で、米国の長期金利(10年物国債利回り)は14日に一時3.50%に接近し、11年4月以来の高い水準をつけました(長期金利はその後低下)。また、米国の代表的な指標であるダウは17日に終値としては20年12月以来の安値をつけました。米長期金利が上昇する、あるいは米国株が下落を続ける場合には(リスクオフは米ドル高要因のため)、米ドル/カナダドルは下値も堅いかもしれません。<八代>

今週の注目通貨ペア④:<メキシコペソ/円 予想レンジ:6.400~6.800円>
BOM(メキシコ中銀)は23日に政策会合を開きます。その結果にメキシコペソ/円が反応しそうです。

BOMは前回5月の会合で0.50%の利上げを行っており、現在の政策金利は7.00%です。メキシコの5月CPI(消費者物価指数)は、総合指数が前年比7.65%、変動の大きいエネルギーや食品を除いたコア指数は同7.28%でした。いずれもBOMのインフレ目標(3%。その上下1%が許容レンジ)を大きく上回っており、BOMは23日の会合で追加利上げを決定するとみられます。

必要なら0.75%の利上げを行うとの姿勢をBOMが示していることもあり、利上げ幅は0.75%になるとの見方が市場では有力です。その通りの結果になれば、5人の政策メンバーの投票行動に注目。全会一致で0.75%の利上げが決定される、あるいはより大幅な利上げを主張したメンバーがいれば、メキシコペソの支援材料となりそうです。主要国の株価動向には注意が必要なものの(株安は円高要因のため)、メキシコペソ/円は6.829円(6/9高値)に接近する可能性があります。<八代>

執筆者プロフィール
西田 明弘(にしだ あきひろ)
チーフエコノミスト
日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガンスタンレー証券などを経て、2012年マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。
米国を中心とした各国のマクロ経済・金融政策・政治動向の分析に携わる。
「アナリスト、ストラテジスト、エコノミスト、研究員と呼び名は変われども、30年以上一貫してリサーチ業務を行ってきました。長い経験を通じて学んだことは、金融市場では何が起きても不思議ではないということ。その経験を少しでも皆さんと共有したいと思います。」

執筆者プロフィール
八代 和也(やしろ かずや)
シニアアナリスト
2001年ひまわり証券入社後、為替関連の市況ニュースの配信、レポートの執筆などFX業務に携わる。2011年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)に入社。豪ドル、NZドル、カナダドル、トルコリラ、南アフリカランド、メキシコペソを中心に分析し、レポート執筆のほか、M2TV出演、セミナー講師を務めている。
【プロフィール】広島県出身。
【趣味】野球・サッカー観戦。
【一言】より分かりやすくタイムリーなレポートを心掛けています。


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