スタグフレーション!?

2022/05/09 12:34

ウィークリー・アウトルック

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【今週のポイント】
・米雇用統計は堅調、FRBはアグレッシブな利上げを継続へ
・ただし、景気減速の可能性には要注意。BOEはスタグフレーション予想
・メキシコ中銀はどの程度利上げするのか

米FOMCは5月4日、0.50%の利上げとQT(量的引き締め)開始を決定。会見でパウエルFRB議長は0.75%の利上げに否定的見解を表明する一方、次の2会合では0.50%の利上げを議題にすべきと語りました。FRBはアグレッシブな利上げを継続する意向のようです。

米国の4月雇用統計はNFP(非農業部門雇用者数)が前月比42.8万人増と引き続き堅調。失業率は3.6%と、コロナ・ショック直前の最低水準3.5%近辺で推移しました。賃金の伸びがインフレ率を下回っている点はやや気がかりですが、雇用の堅調はFRBが大幅な利上げを前倒しで行うとのシナリオと整合的です。

今週の主な経済指標・イベント

ただし、NASDAQ総合指数が昨年11月の高値から25%下落し、S&P500株価指数が弱気相場入りの目安とされる15%近く下落するなど、米株が軟調に推移しています。アグレッシブな利上げ、QT開始、それらを反映した長期金利(10年物国債利回り)の上昇などが米景気に大きくブレーキをかける可能性はあります。

政策金利(FFレート目標水準)先物によれば、足もとで市場が織り込むターミナルレート(利上げの最終到達点)は23年中の3%超とみられます。ただし、今後、高インフレと景気停滞が同時に起きるスタグフレーション的様相が強まった場合、ターミナルレートの到達時期が早まったり、水準が低くなったりするかもしれません。目先すぐではないでしょうが、そうした潮目の変化があれば、米ドルは上値の重い展開になりそうです。

BOE(英中銀)のMPC(金融政策委員会)は5日、0.25%の利上げと9月の一部QT開始を決定。そして、22年10-12月期のインフレ率は10%を超え、同期GDPは1%近いマイナス、23年も小幅マイナスとの見通しを示しました。まさにスタグフレーション。ただし、これは政策金利が市場の予想通り23年半ばに2.5%へ引き上げられることを前提としています。BOEが政策金利を現行の1.00%に維持すれば、マイナス成長は回避できるとのことですが、BOEがどのような判断をするのか大いに注目されます。

ECB内部では、22年中に複数回の利上げを行って、現在マイナス0.50%の政策金利をゼロ~プラスにすべきとの主張が広がりつつあるようです。次回6月9日の理事会でAPP(資産購入プログラム)の停止を決定し、早ければ7月21日の理事会で利上げを開始する可能性があります。

EU各国はロシアに対するエネルギー依存を低下させる動きをみせています。その結果、経済に下向きの力が加わりそうです。とりわけ、ドイツ経済は大きな打撃を受けそうです。それでも、ラガルドECB総裁は最新のメディア・インタビューで、「スタグフレーションは我々の基本シナリオではない」と発言しました。ECBは金融政策の正常化を慎重に進める意向のようです。<西田>

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米長期金利(10年物国債利回り)の上昇に支えられ、足もとで米ドルが全般的に堅調に推移しています。米長期金利は一段と上昇する可能性があり、その場合には豪ドル/米ドルやNZドル/米ドルは下値を試す展開になりそうです。

主要国の株価動向には注意が必要かもしれません。長期金利の上昇は、株価にとってマイナス要因になりうるからです。米長期金利が上昇を続ければ、米景気減速への懸念から主要国の株価が下落してリスクオフ(リスク回避)の動きが市場で強まる可能性があります。リスクオフは円高材料や米ドル高材料(対円以外)のため、資源・新興国通貨は対円や対米ドルで軟調に推移しそうです。

上海ではロックダウン(都市封鎖)が1カ月以上続いており、北京では新型コロナの感染対策が強化されました。中国景気をめぐる懸念が市場で強まる可能性があります。その場合、豪州やNZドルは中国を主力輸出先としていることから豪ドルやNZドルに対して下押し圧力が加わりそうです。<八代>

今週の注目通貨ペア①:<米ドル/円 予想レンジ:127.500円~132.500円>
今年初めから5月6日までの米ドル/円と米長期金利(10年物国債利回り)の相関係数(日足)は0.98と、ほぼ完全な正の相関。回帰分析により米長期金利を用いて米ドル/円の推計式を求めると以下の通り。

米長期金利を用いた米ドル/円の推計式

推計式に従えば、長期金利が3.15%(本稿執筆時点、日本時間9日09:00の水準)なら米ドル/円は131.22円が整合的な水準となります。米景気の堅調とFRBのアグレッシブな利上げを反映して長期金利が直近ピークの18年10月の3.26%に迫り、あるいはそれを超えてくれば、米ドル/円の02年1月の高値135.220円が視野に入りそうです。<西田>

今週の注目通貨ペア②:<英ポンド/円 予想レンジ:158.500円~163.500円>
日銀とBOE(英中銀)の金融政策の差(=政策金利差の拡大方向)は引き続き英ポンド/円にとってプラス材料とみられますが、英経済の減速懸念からBOEの金融政策見通しがハト派方向に修正されて、英ポンド/円は4月下旬から軟調な展開となっています。

今週(5/9-)は、英国の1-3月期GDPに要注目でしょう。前年比では、比較対象となる21年1-3月期に落ち込んだため、今年1-3月期は強めの数字が出そうです。ただし、3月の小売統計が前月比大幅なマイナスになるなど、景気実勢は軟調。仮に今年1-3月期が市場予想から下振れするようだと、利上げ観測が一段と後退して、英ポンド/円の160円割れの可能性が高そうです。<西田>

今週の注目通貨ペア③:<豪ドル/NZドル 予想レンジ:1.08000~1.12000NZドル>
RBA(豪中銀)は3日の政策会合で0.25%の利上げを行うことを決定。政策金利を0.10%から0.35%へと引き上げました。RBAが利上げしたのは、10年11月以来です。

RBAは声明で、「豪州のインフレ率が時間とともに(RBAの)目標へと戻ることを確実にするために必要なことを行う」と強調。「一定期間、政策金利をさらに引き上げる必要があるだろう」との見方を示しました。

RBAが今回利上げを行い、さらに追加利上げを示唆したことは、豪ドルにとってプラス材料です。一方で、RBNZ(NZ中銀)は前回4月13日の会合まで4会合連続で利上げを行っており、今後も利上げを継続するとみられます。NZドルにもプラス材料があります。豪ドル/NZドルは4日に一時1.11NZドル台へと上昇したものの、RBAとRBNZの金融政策の方向性を考えると(いずれも上向き)、豪ドル/NZドルが上昇を続ける状況ではなさそうです。<八代>

今週の注目通貨ペア④:<メキシコペソ/円 予想レンジ:6.200円~7.000円>
BOM(メキシコ中銀)は12日に政策会合を開きます。その結果がメキシコペソ/円の動向に影響を与えそうです。

メキシコの3月CPI(消費者物価指数)は、総合指数が前年比7.45%、変動の大きい食品やエネルギーを除いたコア指数は同6.78%。総合指数は01年1月以来、コア指数は01年4月以来の高い伸びとなりました。BOMのインフレ目標は3%(その上下1%が許容レンジ)です。4月CPIは9日に発表されます(本稿執筆時点でCPIの結果は未発表)。

インフレ圧力の強さを考えると、BOMは12日の会合で利上げを行うとみられます。利上げ幅は過去3会合と同じ0.50%になりそう。0.50%、あるいはそれを超える幅の利上げをBOMが決定すれば、メキシコペソ/円は堅調に推移しそうです。

原油価格の動向にも注目です。原油価格の代表的な指標の米WTI原油先物の6月物は5日に一時1バレル=111.37ドルへと上昇し、中心限月としては3月28日以来の高値をつけました。EU(欧州連合)がロシア産原油の輸入を年内に禁止する方針を示したことを受け、原油の需給がひっ迫するとの懸念が強まり、原油の上昇要因となりました。

メキシコは原油を輸出しているため、原油価格の上昇はメキシコペソにとってプラス材料です。BOMが大幅な利上げを行って原油価格が堅調に推移すれば、メキシコペソ/円は心理的な節目の7.000円に向かって上昇する可能性があります。<八代>

メキシコ中銀の政策金利とメキシコのCPI

執筆者プロフィール
西田 明弘(にしだ あきひろ)
チーフエコノミスト
日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガンスタンレー証券などを経て、2012年マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。
米国を中心とした各国のマクロ経済・金融政策・政治動向の分析に携わる。
「アナリスト、ストラテジスト、エコノミスト、研究員と呼び名は変われども、30年以上一貫してリサーチ業務を行ってきました。長い経験を通じて学んだことは、金融市場では何が起きても不思議ではないということ。その経験を少しでも皆さんと共有したいと思います。」

執筆者プロフィール
八代 和也(やしろ かずや)
シニアアナリスト
2001年ひまわり証券入社後、為替関連の市況ニュースの配信、レポートの執筆などFX業務に携わる。2011年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)に入社。豪ドル、NZドル、カナダドル、トルコリラ、南アフリカランド、メキシコペソを中心に分析し、レポート執筆のほか、M2TV出演、セミナー講師を務めている。
【プロフィール】広島県出身。
【趣味】野球・サッカー観戦。
【一言】より分かりやすくタイムリーなレポートを心掛けています。


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