ユーロや英ポンドの材料に注目

2021/07/19 12:47

ウィークリー・アウトルック

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【今週のポイント】
・ECB理事会は戦略的レビューをどう反映させるか
・英国の行動制限解除は成功するのか
・米国のインフレや長期金利の材料にも要注意
・SARBの利上げ観測は高まるか

先週(7/12- )は、米ドルや円(そして、RBNZが予想外の量的緩和停止に踏み切ったNZドル)が高く、カナダドルや南アランドなどが安いリスクオフの相場つきでした。米長期金利(10年物国債利回り)は6月米CPIの上振れを受けて一時上昇したものの、週後半には低下トレンドに戻りました。一方、NYダウが12日に終値ベースで高値を更新するなど、株価は総じて堅調でした。



今週(7/19- )、主要な経済指標はほとんどありません。注目は、ECB理事会。

ECBは8日に戦略的レビューの結果を公表しました。最大の変更は、これまで「2%を下回るが、それに近い」としていた中期的な物価目標を「対称的な2%」としたこと。2%を下回っていても、上回っていても、2%を目指すことを明確にしました。ラガルド総裁は「2%が天井でないことを明確に伝えた」と述べました。

また、物価が2%をやや上回る一時的な期間は容認するとしました。ただ、それは現在のように「利下げ余地がほぼない状況において」との条件付きで、ドイツ連銀関係者のようにインフレを極度に嫌うタカ派に配慮しました。

ECBの戦略的レビューは、「一定期間の平均値として2%を目指す」ことにした米FRBほどハト派的ではありません。そのため、ECB理事会の結果を受けてユーロが大きく下げることはなさそうです。そうであっても、戦略的レビューがどのように理事会の声明やラガルド総裁の会見に反映されるのか、興味深いところです。

英国では19日にコロナ対策の行動制限を完全解除します(ソーシャルディスタンスやマスク着用は法的義務からガイドラインに変更)。ただし、英国では変異株による新規感染が大幅に拡大しています。感染者との濃厚接触後の自主隔離を回避しようとしたことで、ジョンソン首相は厳しい批判にさらされました(結局、7月26日まで自主隔離)。19日はコロナからの解放という意味で「フリーダムデイ」と呼ばれていますが、このまま経済の正常化が一気に進むかは大いに疑問の残るところでしょう。

本格化する米企業の4-6月期の決算発表にも注目です。4-6月期のGDPは前1-3月期(前期比年率6.4%)に続いて高い伸びが予想されており、企業収益にとってもプラスとなりそうです。ただし、業種によってはサプライチェーンの障害の長期化や、原材料や雇用などのコスト圧力が報告される可能性もあり、インフレ懸念を高めるかもしれません。

住宅関連(20日着工件数、22中古販売件数)と週次の失業保険申請件数などを除けば、米国の経済指標の発表は多くありません。それでも、上述したような米国のインフレや長期金利に関する材料には引き続き要注意でしょう。<西田>

市場では、RBNZ(NZ中銀)の早期利上げ観測が高まっています。市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)によると、市場が織り込む、RBNZが次回8月の会合で利上げする確率は7割強(本稿執筆時点)。RBNZの利上げ観測に支えられてNZドルは堅調に推移しそうです。

OPEC(石油輸出国機構)加盟国と非加盟主要産油国で構成する「OPECプラス」は18日に閣僚級会合を行い、協調減産の規模を8~12月に毎月日量40万バレルずつ縮小することで合意しました。それが材料となり、原油価格は目先下値を試す可能性があります。その場合、カナダドル/円やメキシコペソ/円は上値が重い展開になりそうです。

22日のSARB(南アフリカ中銀)の会合では、政策金利は現行の3.50%に据え置かれそうです。一方で、インフレ圧力の高まりを背景に市場ではSARBが年内に利上げするとの観測があります。SARBの声明やクガニャゴ総裁の会見が利上げ観測を高める内容になれば、南アフリカランド/円の支援材料になりそうです。

一方で、南アフリカではズマ前大統領が7日に収監されたことをきっかけに暴動が発生。それが先週(7/12- )の南アフリカランド/円の下落要因でした。引き続き南アフリカ情勢には注意が必要なものの、ラマポーザ大統領は16日に「暴動はほぼ沈静化しており、大部分の地域で落ち着きを取り戻している」と語りました。南アフリカランド/円に対する下押し圧力は弱まる可能性があります。<八代>

今週の注目通貨ペア①:<ユーロ/米ドル 予想レンジ:1.17000~1.19000ドル>
ユーロ/米ドルは、米長期金利が低下に転じた3月末以降に堅調に推移しましたが、6月の米FOMCで23年末までの2回の利上げが示唆されたことで1.2000ドルを割り込み、その後も軟調な展開となっています。22日のECB理事会やその後のラガルド総裁の会見がハト派色を強めれば、ユーロ/米ドルに下押し圧力が加わりそうです。ただ、足もとでユーロ/米ドルは下げ止まりの兆候もうかがえるため、年初来安値(3/31の1.16998ドル)の更新は難しそうです。

他方、ECB理事会が想定ほどハト派的でない、米長期金利が一段と低下する、米株が軟調な展開となる等のケースではユーロ/米ドルは反発し、6月30日以来となる1.19000ドルを目指すかもしれません。<西田>

今週の注目通貨ペア②:<英ポンド/米ドル 予想レンジ:1.36000~1.40000ドル>
ユーロ/米ドルと同様に、英ポンド/米ドルも6月の米FOMCの結果を受けて1.4000ドルを割り込み、その後も軟調な展開となっています。英ポンド/米ドルは引き続き米株や米長期金利の影響を受けそうですが、英国の政治情勢にも注目です。

英国のコロナ新規感染者数は足もとで4万人/日を超えており、10万人当たりでみれば、日本の約30倍です。それでも、ジョンソン首相が行動制限の解除に踏み切るのは、ワクチンの重症化や死亡に至るケースが抑制されているためです。しかし、感染拡大に歯止めがかからなければ(英当局は10万人/日までの増加を想定しているようですが)、医療体制が崩壊しかねません。

上述したように、ジョンソン首相は感染者との濃厚接触後の自主隔離を回避しようとしたことで、厳しい批判にさらされました。仮に、行動制限の解除という「ギャンブル」が失敗に終われば、ジョンソン首相の求心力は一段と低下するでしょう。すぐに結果が出るわけではないでしょうが、そうした兆候がみられれば、英ポンドへの下押し圧力になりそうです。<西田>

今週の注目通貨ペア③:<豪ドル/NZドル 予想レンジ:1.04000NZドル~1.07200NZドル>
RBNZ(NZ中銀)は14日、政策金利を0.25%に据え置く一方、「大規模資産購入プログラム(量的緩和)の停止」を決定。また、16日に発表されたNZの4-6月期CPI(消費者物価指数)は前年比3.3%と、RBNZのインフレ目標(1~3%)の上限である3%を上回り、約10年ぶりの高い伸びを記録しました。

大規模資産購入プログラムの停止は市場の予想外の結果。そのうえ、CPIの強い結果を受けて、RBNZは8月18日の次回会合で利上げするとの観測が高まっています。

RBNZの利上げ観測を背景に、NZドルは引き続き堅調に推移するとみられ、豪ドル/NZドルは上値が重い展開になりそうです。豪ドル/NZドルは目先、1.04198NZドル(20/12/1安値)が下値メドです。一方、上値のメドとしては、200日移動平均線(7/19時点で1.07138NZドル)が挙げられます。<八代>



今週の注目通貨ペア④:<カナダドル/円 予想レンジ:85.000円~89.000円>
BOC(カナダ中銀)は14日、政策金利を0.25%に据え置く一方、量的緩和プログラムの縮小を決定。カナダ国債の買い入れ目標を週30億カナダドルから20億カナダドルへと、10億カナダドル減額しました。

BOCは今回の会合で4月に続いて量的緩和を縮小し、今後も縮小を続けるとみられます。市場では、量的緩和は年内に終了されるとの観測があります。また、BOCの利上げは米FRBやECB(欧州中銀)などよりも先になりそうです。BOCの金融政策の方向性は、カナダドル/円の下支え材料と考えられます。

一方で、原油価格がこのところ軟調に推移しています。原油価格の代表的な指標である米WTI原油先物は16日に一時1バレル=70.41ドルへ下落し、約1カ月ぶりの安値をつけました。

OPECプラスは18日の閣僚級会合で、協調減産の規模を8~12月に毎月日量40万バレルずつ縮小(増産)することで合意しました。協調減産の規模が今後縮小(原油の増産)されることとなり、原油価格は引き続き軟調に推移するかもしれません、

原油価格の下落が続く場合、市場はBOCの金融政策以上に原油安を意識する可能性があります。その場合、カナダドル/円に対して下押し圧力が加わりそうです。カナダドル/円は目先、85.411円(4/21安値)が下値メドです。<八代>

執筆者プロフィール
西田 明弘(にしだ あきひろ)
チーフエコノミスト
日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガンスタンレー証券などを経て、2012年マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。
米国を中心とした各国のマクロ経済・金融政策・政治動向の分析に携わる。
「アナリスト、ストラテジスト、エコノミスト、研究員と呼び名は変われども、30年以上一貫してリサーチ業務を行ってきました。長い経験を通じて学んだことは、金融市場では何が起きても不思議ではないということ。その経験を少しでも皆さんと共有したいと思います。」

執筆者プロフィール
八代 和也(やしろ かずや)
シニアアナリスト
2001年ひまわり証券入社後、為替関連の市況ニュースの配信、レポートの執筆などFX業務に携わる。2011年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)に入社。豪ドル、NZドル、カナダドル、トルコリラ、南アフリカランド、メキシコペソを中心に分析し、レポート執筆のほか、M2TV出演、セミナー講師を務めている。
【プロフィール】広島県出身。
【趣味】野球・サッカー観戦。
【一言】より分かりやすくタイムリーなレポートを心掛けています。


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