高インフレ長期化への懸念高まる

2021/10/18 13:25

ウィークリー・アウトルック

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【今週のポイント】
・高インフレ長期化の懸念から各国金利に上昇圧力
・例外的に日本の金利は安定しており、それが米ドル/円やクロス円の上昇要因
・中国恒大の利払い猶予期間は23日に終了、デフォルト認定の可能性あり
・原油高が一段と進めば、カナダドル/円やメキシコペソ/円はさらに上昇も
・トルコ中銀会合の結果次第では、トルコリラ安圧力がさらに強まりそう

市場では高インフレの長期化への懸念が高まっています。原油価格(WTI)は7年ぶりに80ドルを超え、国際商品市況の指標であるCRB指数(原油を含む)も同じく7年ぶりの高水準に達しています。現時点で、輸送網も含めてサプライチェーン障害の解消は見込み薄です。労働力の不足から賃金上昇圧力は強まっており、企業は上昇するコストを徐々に販売価格に転嫁している模様です。

そうした状況下で、主要中銀の多くは量的緩和の縮小・停止を模索し、一部では利上げも視野に入れ始めています(NZ中銀は10/6に利上げ)。金融緩和縮小の観測を反映して、市場金利には上昇圧力が加わっています。米国の長期金利(10年物国債利回り)は10月12日に1.63%をつけた後にやや軟化しましたが、上昇基調に変化はなさそうです。米国の短期金利(2年物国債利回り)は、当面の政策金利見通しをより強く反映することもあって、10月18日に昨春のコロナショック以来初となる0.40%超えとなりました。

今週の主要経済指標・イベント

一方で、日本の長期金利はコロナショック以降0.00~0.10%の狭いレンジで推移。短期金利も同じくマイナス0.15~マイナス0.10%のレンジです。日本の消費者物価が前年比マイナスに沈み、日銀の金融緩和姿勢に変化はみられないこと、そして長期金利ゼロ%近辺を目標にしていることが背景です。

今後も日本と外国との金利差(とくに長期金利差)が拡大するようであれば、米ドル/円やクロス円の上昇要因となりそうです。

今週(10/18- )は、英国、カナダ、南アフリカのCPI(消費者物価指数)が発表されます。また、米ベージュブック(地区連銀経済報告)では、景況に加えて物価動向の記述が注目されそうです。

中国の恒大集団やその他の不動産関連会社の動向にも注意が必要でしょう。恒大集団は資金捻出のために子会社や資産の売却を模索していますが、交渉は必ずしも上手くいっていないようです。23日には最初の米ドル債利払いの猶予期間が終わるため、恒大集団がデフォルト(債務不履行)認定される可能性があります。中国人民銀行(中銀)は恒大集団に関わるリスクの封じ込めに自信をみせていますが、果たして軟着陸(=秩序だった整理?)できるのか、大いに注目されます。<西田>

15日にカナダドル/円は15年12月以来、メキシコペソ/円は20年2月以来の高値をつけました。足もとのカナダドル/円やメキシコペソ/円の主な要因として、円が全般的に売られていることのほか、原油価格の上昇が挙げられます。原油価格の代表的な指標である米WTI原油先物の11月物は15日、1バレル=82ドル台へと上昇。中心限月としては2014年10月以来、7年ぶりの高値を記録しました。

カナダやメキシコは産油国のため、原油価格の上昇はカナダドルやメキシコペソにとってプラス材料です。原油高が一段と進めば、カナダドル/円やメキシコペソ/円はさらに上昇する可能性があります。

市場では、SARB(南アフリカ中銀)は11月にも利上げするとの観測が浮上しています。20日の南アフリカの9月CPI(消費者物価指数)が市場予想(本稿執筆時点で前年比5.0%)を上回る結果になれば、利上げ観測が高まって南アフリカランド/円の支援材料になる可能性があります。

NZの7-9月期CPIの強い結果を受け、RBNZ(NZ中銀)の11月利上げ観測が市場で一段と高まりそうです。利上げ観測に支えられてNZドルは堅調に推移しそうです。

TCMB(トルコ中銀)は21日に政策会合を開きます。その結果がトルコリラの今後の動向に影響を与える可能性があります。<八代>

今週の注目通貨ペア①:<米ドル/円 予想レンジ:112.000円~115.000円>
米ドル/円は15日に114円台に上昇。米国の9月小売売上高が予想外に増加し、株価が大幅に上昇したことが背景です。米ドル/円は先週一週間で約2円上昇しましたが、米ドル/円と相関の強かった米長期金利(10年物国債利回り)は小幅低下しました。長期金利に代わって米ドル/円の上昇を説明したのが短期金利(2年物国債利回り)でした。

9月1日~10月15日の米ドル/円と短期金利の関係を基にすれば、15日時点で0.40%だった短期金利が0.45%に向けて上昇すれば、115円は簡単に達成できそうです。ただし、米ドル/円と長期金利の関係に比べて米ドル/円と短期金利の関係は不安定で簡単に変化しうること、そして関係式(下図)における短期金利の係数が25.1と非常に大きいために予測のブレが大きくなりうること、などに注意は必要でしょう。<西田>

※米長期金利を用いた米ドル/円の推計は、先週号および先々週号をご覧ください。
米短期金利を用いた米ドル/円の推計式

今週の注目通貨ペア②:<ユーロ/英ポンド 予想レンジ:0.83000ポンド~0.85500ポンド>
ユーロ/英ポンドは15日に一時0.84189ポンドをつけ、今年8月につけたコロナショック後の安値(0.84486ポンド)を更新しました。市場がECBとBOE(英中銀)の金融政策の方向性の差を意識すれば、ユーロ/英ポンドが一段と下落する可能性があります。

BOEのベイリー総裁は17日のオンライン会合で、エネルギー価格の上昇がインフレ圧力の長期化につながるとして、「行動が必要になる」と述べました。BOE関係者は近々の利上げを示唆しており、早ければ11月4日のMPC(金融政策委員会)で利上げする可能性があります。

一方、ECBのラガルド総裁は16日の講演で、「インフレはほぼ一時的だ」として、恒常的なインフレ圧力となりうる賃金交渉など二次的な影響を注視しているとしました。ユーロ圏でも、インフレ率が上昇しており、ECB内部には金融緩和の縮小を求める声もあります。しかし、ラガルド総裁は「パンデミックの間、経済にとって好ましい金融状況の維持に取り組む」として金融緩和を継続する意向を表明しました。

BOEとECBの金融政策を基に判断すると、ユーロ/英ポンドは、リスクオフの強まりによってユーロが買われる状況を除けば、16年6月の英国民投票(ブレグジット決定)後の変動レンジ下限(0.83000ポンド近辺)が視野に入るかもしれません。<西田>

今週の注目通貨ペア③:<豪ドル/NZドル 予想レンジ:1.03000NZドル~1.06000NZドル>
18日にNZの7-9月期CPI(消費者物価指数)が発表され、結果は前年比4.9%でした。CPI上昇率は4-6月期の3.3%から加速し、2011年4-6月期以来の強い伸びを記録。RBNZ(NZ中銀)のインフレ目標(1~3%)を一段と上振れました。

RBNZは10月6日の会合で0.25%の利上げを行うことを決定。政策金利を0.25%から0.50%へと引き上げました。7-9月期のCPIでインフレ圧力の強さが再確認されたことを受け、RBNZは11月の次回会合で追加利上げに踏み切るとの観測が市場で一段と高まりそうです。

一方、RBA(豪中銀)は政策金利を当面据え置く(現在の政策金利は0.10%)とみられます。RBAとRBNZの金融政策の方向性の違いが市場で改めて意識されて、豪ドル/NZドルは軟調に推移する可能性があります。豪ドル/NZドルの目先のメドとして、下値が1.02806NZドル(9/16安値)、上値は1.06065NZドル(10/12&13高値)が挙げられます。<八代>

今週の注目通貨ペア④:<トルコリラ/円 予想レンジ:11.500円~13.000円>
トルコリラは先週(10/11-15)、対米ドルで過去最安値を更新し、対円(トルコリラ/円)では20年11月以来の安値をつけました。TCMB(トルコ中銀)の金融政策委員会のメンバー3人をエルドアン大統領が解任したことを受け、TCMBの独立性をめぐる懸念が高まったことが、トルコリラ安の主な要因です。

TCMBは9月の政策会合で1.00%の利下げを行うことを決定。10月21日の会合では、追加利下げに踏み切るとみられます。エルドアン大統領が求める利下げに反対する政策メンバーは、今回の解任によっていなくなったと考えられるためです。

21日のTCMB会合における焦点は、“利下げの有無”よりも“利下げ幅”になりそうです。市場予想の1.00%を上回る幅の利下げが決定されれば、トルコリラ/円は一段と下押しするとみられます。トルコリラ/円は11.998円(20年11月につけた過去最安値)を割り込む可能性があります。

TCMBが政策金利を据え置けばサプライズとなり、トルコリラ/円は上昇しそうです。ただし、エルドアン大統領の対応には要注意。カブジュオール総裁を解任する可能性もあり、その場合にはTCMBの独立性をめぐる懸念が一段と高まってトルコリラ/円は下落すると考えられます。<八代>

筆者プロフィール
西田 明弘(にしだ あきひろ)
チーフエコノミスト
日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガンスタンレー証券などを経て、2012年マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。
米国を中心とした各国のマクロ経済・金融政策・政治動向の分析に携わる。
「アナリスト、ストラテジスト、エコノミスト、研究員と呼び名は変われども、30年以上一貫してリサーチ業務を行ってきました。長い経験を通じて学んだことは、金融市場では何が起きても不思議ではないということ。その経験を少しでも皆さんと共有したいと思います。」

執筆者プロフィール
八代 和也(やしろ かずや)
シニアアナリスト
2001年ひまわり証券入社後、為替関連の市況ニュースの配信、レポートの執筆などFX業務に携わる。2011年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)に入社。豪ドル、NZドル、カナダドル、トルコリラ、南アフリカランド、メキシコペソを中心に分析し、レポート執筆のほか、M2TV出演、セミナー講師を務めている。
【プロフィール】広島県出身。
【趣味】野球・サッカー観戦。
【一言】より分かりやすくタイムリーなレポートを心掛けています。


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