ドルカナダの投資について

2022/05/16 08:17

特別レポート

5月14日にリリースされたドルカナダ(米ドル/カナダドルのこと、以下同じ)について、ご紹介します。

第1章 ドルカナダの歴史
第2章 ドルカナダの変動要因分析
第3章 ドルカナダ投資の考察

第1章 ドルカナダの歴史

カナダドルが変動相場制へ移行したのが1970年。それまでは50年代を除き固定相場制でした。変動相場制移行直前のレートは1カナダドル=0.925米ドル。

71年以降のドルカナダの歴史を振り返っておきましょう。

ドルカナダの高値は02年1月21日の1.6193(単位はカナダドル。レートはBloomberg、以下同じ)。安値は07年11月7日の0.9058。現行レートが1.30近辺なので、これら高安のほぼ中央の値です。

さて、ドルカナダの長期チャートをみると、比較的明確なトレンドを形成していることがわかります。それぞれの局面の背景要因は以下の通りです。あくまで筆者の判断によるもの。カナダ側の要因もあるはずですが、ここでは米国側の要因と原油価格を中心にして説明しています。

ドルカナダ 長期チャート

◆71年~85年:ドルカナダ上昇(米ドル高)
73年と79年の2度のオイル・ショックにより原油価格は急騰しました。しかし、米国がインフレ退治の高金利政策を採用したことで、ドルカナダは上昇しました。また、81年に誕生した米レーガン政権が「強いドル」政策を志向したことも、ドルカナダの上昇要因となりました。

◆86年~91年:ドルカナダ下落(カナダドル高)
85年9月プラザ合意で米ドル高是正が謳われ、ドルカナダは急落。87年2月ルーブル合意でも米ドル安は止まらず。90年湾岸危機(91年湾岸戦争)での原油急騰や、それを受けた米リセッション(景気後退)も、ドルカナダの下落要因になりました。

◆92年~01年:ドルカナダ上昇(米ドル高)
湾岸戦争の終了により原油価格が低迷、米景気が回復局面に入ったことでドルカナダが反発。94年に米FRBが利上げを開始したことがドルカナダをサポートしました。97年のアジア通貨危機や、98年のロシア・LTCM危機(※)も、強いリスクオフを通じてドルカナダを押し上げました。

(※)アジア通貨危機からの飛び火、原油安などから8月にロシアがデフォルト(債務不履行)、その関連で9月に米大手ヘッジファンドLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)が破たんし、金融市場が大きく動揺しました。

◆02年~07年:ドルカナダ下落(カナダドル高)
2000年の米IT株バブル崩壊、01年の米リセッションやFRBの積極的な利下げにより、ドルカナダは下落しました。さらに、FRBが利上げに転じた後も、原油価格の上昇や米株の高騰を背景にドルカナダの下落基調は続き、07年11月に0.9058ドルをつけました。

◆08年~09年:リーマン・ショックとその反動
08年9月に発生したリーマン・ショックにより、激しいリスクオフからドルカナダは急騰。しかし、米FRBの「ゼロ金利」政策に至る積極的な利下げ、09年3月をボトムとした米株の反発などから、ドルカナダは急落し、結局は壮大な「往って来い」に。

◆11年~19年:ドルカナダ上昇(米ドル高)
11年には欧州債務危機が発生。8月には米デフォルト懸念も生じ、リスクオフのなかでドルカナダが上昇。リーマン・ショック対応のFRBの強力な金融緩和が徐々に正常化され、15年末には利上げ開始。一方で、欧州景気が低迷するなか原油価格が下落し、ドルカナダの上昇が続きました。15年にはチャイナ・ショックが発生し、ドルカナダが急騰しました。

◆20年~  :コロナ・ショックとその反動、そして・・
20年3月のコロナ・ショックでドルカナダが急騰。しかし、その後はFRBの積極的な金融緩和や米株の反発からリスクオンの展開となり、ドルカナダが下落。21年後半ごろからはFRBの利上げ(観測)によりドルカナダが反発。22年に入るとロシアのウクライナ侵攻に伴って原油価格が上昇しているものの、足もとでは米金融政策要因が優ってドルカナダは堅調に推移しています。

この章のまとめ:
カナダドルは資源国通貨であり、とりわけ原油価格の影響を強く受けます。ただし、それ以上に米金融政策やリスクオン/オフの影響が大きいようです。カナダの金融政策や長期金利の動きは米国に連動する傾向が強く、それらが独自にドルカナダに与える影響は、とりわけ長期的にみた場合、限定的であるようにみえます(あくまでも筆者見解です)。


第2章 ドルカナダの変動要因分析

長期チャートを見るとドルカナダは一定期間に明確なトレンドを作る傾向があるようです。ただし、16年以降、ドルカナダは1.20000~1.40000(単位:カナダドル、以下同じ)を中心としたレンジ内で推移しているようにみえます。

チャイナ・ショックやコロナ・ショックを含めて、マーケットを動かす要因が世界規模で発生するなか、ファンダメンタルズが類似したり、あるいは連動性の高い経済を背後に持ったりする通貨が同じように反応するのかもしれません(あくまで後講釈です)。



そこで、①16年以降現在(5月第2週)まで、②16-19年(コロナ・ショック前まで)、③21年以降現在(同上)まで、の3つの期間について、週足データを用いてドルカナダと、相場材料となりうるデータとの相関係数を求めました。ドルカナダが影響を受けやすい変動要因を突き止めるためです。結果は以下の通り。




分析結果:
・ドルカナダは原油や株価と緩やかに相関。それらが上昇すると、ドルカナダは低下する傾向がある(カナダドル高)
・ドルカナダと金利差もある程度相関がある。21年以降では金融政策予想を反映する短期金利差との相関が比較的高い
・ただし、いずれも弾性値は小さいので、変動要因の変化に対するドルカナダの反応は限定的と言える
・米国とカナダの金利同士、株価同士の相関は非常に高い(≒それぞれの差の変化がドルカナダに与える影響は小さい)

分析の詳細:
全期間(①)を通せば、ドルカナダと連動性が高いのは、原油(WTI先物価格)と株価(トロント総合指数)。それらが上がれば、ドルカナダは下落する(カナダドル高)という傾向があります。言うまでもなく、カナダは産油国だからでしょう。また、株価はリスクオンで上昇するため、ドルカナダと逆相関になる点も理解できるところです(トロント総合指数の代わりに米S&P500指数を用いても相関はさほど変わりません)。ただし、いずれも相関係数は-0.60とさほど大きなマイナスではないので、緩い逆相関と言えます。

同じ期間について、ドルカナダと長期金利差や短期金利差との相関はもっと弱めです。ドルカナダと政策金利差とは0.13に過ぎず、ほぼ無相関です。金利差の説明力が弱いのは、米国の金利とカナダの金利が非常に強い正の相関にあることと無関係ではなさそうです。

当該期間のうち、コロナ前(②)については長期金利差、コロナが落ち着いた後(③)については短期金利差が、ドルカナダとの相関が比較的高くなっています。やはり金利差が為替相場に与える影響はそれなりにあるのでしょう。

そして、各変動要因に対するドルカナダの弾性値は非常に小さくなっています。これは各変動要因の変化1単位に対するドルカナダの反応が小さいことを意味します(※)。

※16年以降の原油価格(WTI先物)に対するドルカナダの弾性値は-0.0016です。例えば、WTI先物価格が10ドル変化すれば、ドルカナダは0.016カナダドル変化することが期待されるという意味です。

なお、分析期間において、米国とカナダの金利同士、あるいは株価同士は非常に高い相関関係にあります。



この章のまとめ:
最近の米ドル/円と米長期金利のように、ドルカナダと強い相関を持つ変動要因を見つけることはできませんでした。筆者が想定した変動要因との相関が低いということは、ドルカナダは比較的狭いレンジ相場が続くのかもしれません。また、それだけ他通貨ペアとの相関も低い可能性があります。ただし、本レポートの分析は週足データを用いているため、ドルカナダの細かな動き、例えば金利や原油価格に対する日々の反応をとらえ切れていない可能性はあります。


第3章 ドルカナダ投資の考察

ドルカナダはどのような投資に適しているのか。以下に考察したいと思います。

円リスクの回避・軽減
米ドル/円であれ、その他のクロス円であれ、買いのポジションを持つ投資家が一番気になるのは、円高のリスクでしょう。市場が強いリスクオフに傾いた時に急激な円高が起こってきた過去があります。
米ドル/カナダドルであれば、円に関わるリスクは基本的に存在しません。したがって、米ドル/カナダドルで円のリスクを回避する、あるいは米ドル/円や他のクロス円と合わせ持つことで円のリスクを軽減することはできそうです。

狭いレンジに仕掛けやすい!?
「ドルカナダの変動要因分析」でみたように、過去データの分析によると、金利差や原油、株価などの変動要因に対する感応度(弾性値といいます)は高くありません。相場変動が小さいとすれば、比較的狭いレンジに仕掛けることも可能かもしれません。5月12日時点での過去1カ月間の対米ドル変動率をみれば、当社取り扱い通貨の中でカナダドルはトルコリラ(※)に次いで低くなっています。また、同時点の1カ月先までの予想変動率は一番低くなっています。流動性が高く変動率が小さいとされる円やユーロと比べても、変動率は実績・予想とも低位で安定しているようにみえます。

※トルコリラは当局の防衛策もあり、自由な相場形成が行われているとは言えません。





分散投資に向いている!?
米ドル/円と他のクロス円を組み合わせても、あまり有効な分散投資を行うことはできません。米ドル/カナダドルを用いて効果的な分散投資が可能かどうかを調べるために、各通貨ペア間の相関係数を算出しました。期間は「変動要因分析」でも使った①16年以降、②16-19年、③21-22年(5月第2週)まで、の3つ。相関係数はマイナス1から1の値をとります。相関係数がマイナス1に近くても、1に近くても分散投資に向いていません(※)。無相関のゼロに近いのが理想でしょう。結果は以下の通りです。

(※)相関係数が1であれば、分散効果はなし。マイナス1であれば、常に相殺しあうのでプラスのリターンが期待できません。



本分析に基づく分散投資の観点からの結論:
・米ドル/カナダドルと米ドル/円の組み合わせは有効
・米ドル/カナダドルとカナダドル/円の組み合わせは有効でない(カナダドルの買いと売りを持つので、米ドル/円を持つことと大差がなくなる)。
・米ドル/カナダドルとユーロ/英ポンドや豪ドル/NZドルの組み合わせもある程度分散効果がありそう。当該期間を通して米ドル/カナダドルと豪ドル/NZドルの逆相関がやや強いのは、資源国通貨としてカナダドルと豪ドルの特性が似ているからかもしれません。

それ以外にも:
・ユーロ/英ポンドと豪ドル/NZドルの組み合わせは分散投資としてかなり有効
・米ドル/円とカナダドル/円は相関が強く、分散効果に乏しい
・米ドル/カナダドルや米ドル/円は米ドル指数(実効レート)との相関が比較的大きい。21-22年に米ドル/円と米ドル指数の相関が非常に大きいのは、「米ドル高」が相場をけん引していたからでしょう(足もとでは「円安」の色彩も濃くなっていると思われますが)。

執筆者プロフィール
西田 明弘(にしだ あきひろ)
チーフエコノミスト
日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガンスタンレー証券などを経て、2012年マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。
米国を中心とした各国のマクロ経済・金融政策・政治動向の分析に携わる。
「アナリスト、ストラテジスト、エコノミスト、研究員と呼び名は変われども、30年以上一貫してリサーチ業務を行ってきました。長い経験を通じて学んだことは、金融市場では何が起きても不思議ではないということ。その経験を少しでも皆さんと共有したいと思います。」


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