マネースクエア四季報:2022年3月までの為替相場展望

2021/09/27 13:34

特別レポート

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「マネースクエア四季報」では、3カ月ごとに向こう6カ月の為替相場見通しを提示。四季報配信月を除く月末のマンスリー・アウトルックで見通しをアップデート、ウィークリー・アウトルックやその他の市場調査レポートで見通しに関わる相場材料を分析・解説します。

現時点でやや楽観的過ぎるかもしれませんが、2022年3月末に向けて、3回目の接種、いわゆる「ブースタ―」を含むワクチンの普及によって、新型コロナが主要経済の制約要因にならない、「コロナ前(Pre-Corona)」に近い状況が訪れると想定します。

カギを握るのは、金融政策や財政政策の正常化の動き。それに対する市場の反応の差で、メインとサブを分けました。また、「コロナ前」からほど遠い状況が続くケースをサプライズシナリオとしました。

2022年末までの予想レンジ

◆2022年3月末までの3つのシナリオ◆
想定しているシナリオは以下の3つです。(< >は定性的な判断に基づく予想生起確率)。

◎メインシナリオ<50%>:底堅い景気回復と金融正常化の進展
コロナ・ショック後の強力な金融緩和と財政出動によってもたらされた景気回復はワクチンの普及を背景に、行動制限下で蓄積されたペントアップ・ディマンド(潜在需要、先送りされた需要)の発現を伴って自律的なものへとシフトします。米国ではバイデン政権が主導するインフラ投資や包括的な経済政策が実現し、景気押し上げに寄与します。

サプライチェーンの障害など一時的要因の解消が遅れていることもあって、各国のインフレ率は高止まりします。そのため、主要国の中央銀行は金融政策の正常化を進めます。QE(量的緩和)は終了し、あるいはテーパリング(段階的縮小)が進行します。英国やニュージーランドなど一部の国では利上げが実施され、政策金利の正常化も少しずつ進められます。

世界的な金融政策の正常化の動きは、株や新興国通貨などのリスク資産にとってネガティブな影響を及ぼす可能性があります。ただし、正常化の背景にある世界経済の順調な回復は、リスク資産の下支えになりそうです。

もっとも目先的には、中国恒大の破たん危機、米政府のシャットダウン(政府機能の一部停止)やデフォルト(債務不履行)のリスクがあります。そうしたリスクが表面化した場合には、市場が大きくリスクオフに振れる局面はあるかもしれません。

〇サブシナリオ<30%>:スタグフレーションと景気オーバーキルのリスク
ペントアップ・ディマンドや財政出動の効果が一巡して、景気回復の推進力が低下し、景気は低速へ移行し、停滞気味となります。一方で、サプライチェーン障害の解消が遅れ、原材料・部品のボトルネックが続きます。企業や家計のインフレ心理が経済行動にも反映されます。そして、スタグフレーション(景気停滞と高インフレの併存)が懸念されます。

中央銀行がインフレ抑制を重視して金融政策の正常化を進める結果、景気をオーバーキルする(過度な引き締めによって景気後退を招く)可能性が浮上します。強力な金融緩和によって支えられてきた株価などリスク資産はその支えを失い、また景気先行きに対する不安感から、価格水準の修正(=相場下落)が起こります。それがさらに景気を下押すことになります。

▲サプライズシナリオ<20%>:コロナの感染再拡大が経済活動を引き続き制約
次々と変異株が発生して新型コロナの感染拡大が止まらず、経済活動の制約要因となり続けます。状況によっては厳しいロックダウンや行動制限を導入する国や都市が出てきます。各国の財政状況がひどく悪化しているため、追加的な景気対策は限定的となります。そうしたなか、金融政策の正常化は中断、一部の中銀は金融緩和の強化に転換します。

◇2022年3月末までの主なイベント:
10月 1日     米2022年度開始 予算交渉決着は?(年末近くまで続く可能性も)
10月 4日     日本、臨時国会召集(首班指名選挙)は
10月15‐16日  G20財務相・中央銀行総裁会議
10月21日         日本、衆議院議員の任期満了
10月30‐31日  G20サミット(ローマ)
11月?日            日本総選挙

2月 5日               パウエルFRB議長の一期目満了

米ドル/円:107.000円~115.000円
市場が想定する米金融政策のメインシナリオは、11月にテーパリング(QEの段階的縮小)開始、22年半ばにQE終了、22年後半に利上げ(「ゼロ金利」解除)というものでしょう。景気回復が続き、雇用の改善が続くのが前提条件です。そうであれば、長期金利は上昇し、米ドル/円の強気材料となりそうです。逆に景気や雇用の改善が遅れるようであれば、上記シナリオが修正を迫られることで、米ドル/円の弱気材料となる場面がみられそうです。

重要なカギを握るのはバイデン大統領の経済政策かもしれません。インフラ投資法案(ネットで5,500億ドル)は超党派で成立する見込み。3.5兆ドルの包括法案も民主党単独で可決されそうです。ただし、規模が大幅に縮小したり、骨抜きにされた場合は市場がネガティブに反応するかもしれません。予算交渉が難航した場合、米政府のシャットダウン(政府機能の一部停止)やデフォルト(債務不履行)のリスクには注意が必要でしょう。

日本の新しい首相がどのような経済政策を目指し、どのような金融政策を求めるかといった点も相場材料になるかもしれません。<西田>

注目点・イベントなど
・米景気回復のペースやインフレの動向。金融政策の行方。
・バイデン政権の経済政策がどういった形で実現するか。
・日本の新政権下での経済・金融政策

米ドル/円(週足、2019/7- )

ユーロ/円:125.000円~134.000円
ユーロ/米ドル:1.12000米ドル~1.22000米ドル
ユーロ/英ポンド:0.82000ポンド~0.90000ポンド
ECBは9月の理事会でPEPPをペースダウンしましたが、ラガルド総裁は微調整であり、「テーパリングではない」と明言しました。ただし、ユーロ圏でも8月CPIが前年比3.0%に達するなど、ECB内でインフレ警戒は強まっている模様です。「少なくとも22年3月末まで続ける」としているPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)の終了を、12月の理事会で決定するかもしれません(ユーロ高材料)。一方で、PEPPの継続やAPP(通常の量的緩和)の増額が決まれば、ユーロ安材料となりそうです。もっとも、現在マイナス0.5%の政策金利(中銀預金金利)を引き上げるハードルは相当に高いとみられます。英米の中銀との金融政策の違いはユーロの弱気材料となりそうです。

9月26日のドイツ総選挙は大接戦。SPDが最大与党CDU/CSUをわずかに抑えて第1党になったようですが、いずれも過半数には届きません。今後、どちらの政党がどういった連立政権を樹立するのか、しばらくは不透明な状況が続きそうです。メルケル首相の下でユーロ圏を経済的・政治的にけん引してきたドイツの求心力低下は、ユーロの弱気材料となるかもしれません。<西田>

注目点・イベントなど
・PEPPの停止などECBは金融政策の正常化に踏み切るか。
・ドイツの政治情勢、連立政権の行方。

ユーロ/円(週足、2019/7- )

ユーロ/米ドル(週足、2019/7- )

ユーロ/英ポンド(週足、2019/7- )

英ポンド/円:145.000円~160.000円
英ポンド/米ドル:1.32000米ドル~1.45000米ドル
9月のBOE(英中銀)のMPC(金融政策委員会)では、インフレ率が21年終盤から22年初めにかけて4%を超えるとの見通しが示されました。そのうえで、「向こう3年間に金融政策の引き締めが必要になる公算が大きい」との8月時点の判断が強化されたとしました。また、最初の引き締めは政策金利の引き上げ(利上げ)であり、QE終了前に利上げが適切になる可能性があるとの認識が共有されていました。早ければ、金融政策報告が発表される21年11月4日のMPCで利上げが決定されるかもしれません。また、資産購入は計画通り21年末で終了するとみられます。BOEは金融政策の正常化の点で他の主要中銀に先行する可能性が高く、英ポンドの強気材料となりそうです。<西田>

注目点・イベントなど
・BOEの資産購入の終了や利上げのタイミング。
・ワクチン接種や行動制限の解除で先行した英国のコロナ感染状況。

英ポンド/円(週足、2019/7- )

英ポンド/米ドル(週足、2019/7- )

豪ドル/円:75.000円~87.000円
豪ドル/米ドル:0.65000米ドル~0.79000米ドル
豪ドル/NZドル:1.00000NZドル~1.10000NZドル
RBA(豪中銀)は「インフレ率が2~3%の目標レンジに持続的に収まるまでは、政策金利を据え置く」と表明し、「利上げの条件は2024まで満たされない」との見方を示しています。米FRBやBOE(英中銀)、BOC(カナダ中銀)よりもRBAの利上げは遅くなるとみられます。

また、シドニーなどでのロックダウン(都市封鎖)の影響によって豪経済は21年7-9月期に大幅なマイナス成長になると予想されます。ロックダウンの状況次第では、10-12月期の経済成長は弱くなる可能性があります。

RBAの金融政策見通しや豪景気をめぐる懸念が、豪ドル/円や豪ドル/米ドルの重石となりそうです。とりわけ、米FRBがテーパリング(量的緩和の縮小)を開始すると予想されることから、豪ドル/米ドルは上値が重くなるとみられます。

一方で、豪ドルは投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいという特徴があります。主要国の株価が堅調に推移するなどしてリスクオンが強まる場合、豪ドル/円や豪ドル/米ドルを下支えする可能性があります。

***
豪ドル/NZドルは、軟調に推移するかもしれません。RBAの利上げはかなり先と考えられる一方、RBNZ(NZ中銀)は年内(10月?)に利上げを開始するとみられます。RBAとRBNZの金融政策の方向性の違いが市場で意識されそうです。<八代>

注目点・イベントなど
・RBA(豪中銀)の金融政策。
・投資家のリスク意識の変化。
・米FRBの金融政策。
・資源(主に鉄鉱石)の価格動向。
・米中関係、豪中関係(中国は豪州の主要輸出先)。

豪ドル/円(週足、2019/7- )

豪ドル/米ドル(週足、2019/7- )

豪ドル/NZドル(週足、2019/7- )

NZドル/円:73.000円~82.000円
NZドル/米ドル:0.65000米ドル~0.75000米ドル
RBNZ(NZ中銀)は8月の金融政策報告で、年内に利上げを開始することを示唆。市場では、RBNZは10月6日の会合で利上げを開始し、政策金利(9/27時点で0.25%)は22年8月までに1.50%へと上昇するとの見方が有力です。

RBNZの利上げ観測に支えられ、NZドル/円は堅調に推移しそうです。一方でNZドル/米ドルは、米FRBがテーパリングを開始するとみられることから、伸び悩む可能性があります。

豪ドルと同様にNZドルは、投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいという特徴があります。リスクオンはNZドルにとってプラス材料です。主要国の株価が上昇するなどしてリスクオンが強まる場合、NZドル/円やNZドル/米ドルにとってさらなる追い風になりそうです。<八代>

注目点・イベントなど
・RBNZ(NZ中銀)の金融政策。
・投資家のリスク意識の変化。
・米FRBの金融政策。
・米中関係、(中国はNZの主要輸出先)。
・乳製品(NZ最大の輸出品)の価格動向。

NZドル/円(週足、2019/7- )

NZドル/米ドル(週足、2019/7- )

カナダドル/円:82.000円~90.000円
BOC(カナダ中銀)は21年4月と7月の会合で、量的緩和プログラムの縮小を決定。量的緩和プログラムは10月27日の次回会合で一段と縮小され、22年1-3月期にも終了する可能性があります。その場合、カナダドル/円の支援材料となりそうです。

BOCは早ければ22年下半期にも利上げを行うことを示唆しています。カナダの8月CPI(消費者物価指数)上昇率は前年比4.1%と、2003年3月以来、約18年ぶりの強い伸びを記録しました。BOCは最近のインフレ高進について「一時的なもの」との見方を示しているものの、CPI上昇率の高止まりが続く場合、BOCは利上げを検討し始める可能性があります。利上げ観測が市場で高まれば、カナダドル/円は上値を試す展開になりそうです。

カナダドル/円は、原油価格(米WTI原油先物など)の動向にも目を向ける必要があります。世界経済の回復が進めば、原油価格は堅調に推移するとみられます。原油高はカナダドル/円の上昇要因と考えられます。<八代>

注目点・イベントなど
・BOC(カナダ中銀)の金融政策。
・資源(特に原油)価格の動向。
・米FRBの金融政策。
・米国景気の動向。

カナダドル/円(週足、2019/7- )

トルコリラ/円:9.000円~14.000円
TCMB(トルコ中銀)は9月23日の政策会合で1.00%の利下げを行うことを決定。政策金利を19.00%から18.00%へと引き下げました。

今回の利下げによって、TCMBの金融政策への信頼性は低下したと考えられます。TCMBは8月の前回会合の声明まで「政策金利はインフレ率(総合CPI上昇率)を上回る水準に設定する」との方針を示してきました。しかし、総合CPI上昇率が政策金利を上回ると、インフレ指標として重視する指標を「コアCPI上昇率」へと変更。コアCPI上昇率の鈍化を挙げて利下げを行ったからです。

エルドアン・トルコ大統領は「金利を下げれば、インフレ率は下がる」と主張し、以前からTCMBに対して利下げを要求してきました。エルドアン大統領はTCMBの金融政策に介入しているとの懸念が市場で一段と高まりそうです。

さらにTCMBは今後追加利下げに踏み切る可能性があります。トルコリラ/円には下押し圧力が加わりやすいとみられます。

トルコと米国の関係には注意が必要です。エルドアン大統領は9月26日、「S400(ロシア製地対空ミサイルシステム)を追加購入する方針に変わりはない」と述べました。米国は以前からトルコのS400購入に強く反対しています。両国の関係が悪化した場合、トルコリラ/円の下落材料になりそうです。<八代>

注目点・イベントなど
・TCMB(トルコ中銀)の金融政策。
・トルコと米国、EUとの関係。
・トルコの地政学リスク。

トルコリラ/円(週足、2019/7- )

南アフリカランド/円:6.900円~8.200円
SARB(南アフリカ中銀)は、9月23日の会合で政策金利を3.50%に据え置きました。政策金利の据え置きは7会合連続です。

一方で、南アフリカの8月CPI(消費者物価指数)は前年比4.9%と、SARBのインフレ目標(3~6%)の範囲内に収まったものの、目標中央値である4.5%を4カ月連続で上回りました。CPI上昇率の高止まりが今後も続けば、SARBは利上げを検討し始めるかもしれません。

市場では、早ければ22年1月にも利上げを行うとの観測があります。SARBの利上げ観測が南アフリカランド/円の支援材料となりそうです。

クガニャゴSARB総裁は9月8日、インフレ目標について「現在の3~6%ではなく、3~4%程度かつ上下1%の誤差を認めることが有益だ」との見解を示しました。もしインフレ目標の数値がクガニャゴ総裁の言う通りに変更されれば、目標の上限が現在の6%から引き下げられることになります。足もとのCPI上昇率の動向をみると、SARBが利上げする可能性が高まると言えそうです。

南アフリカの景気動向には注意が必要かもしれません。南アフリカでは、国内電力の約9割を供給するエスコム(国営電力会社)の経営危機により、以前から計画停電がたびたび行われています。計画停電が行われるなどして、南アフリカ景気をめぐる懸念が強まる場合、南アフリカランド/円は下押しする可能性もあります。<八代>

注目点・イベントなど
・SARB(南アフリカ中銀)の金融政策。
・米FRBの金融政策。
・商品価格の動向。
・エスコム(南アフリカの国営電力会社)の経営危機問題。

南アフリカランド/円(週足、2019/7- )

メキシコペソ/円:5.000円~6.000円
BOM(メキシコ中銀)は6月と8月の2会合連続で利上げを実施しました。

メキシコの8月総合CPI(消費者物価指数)は前年比5.59%と、BOMのインフレ目標(3%)の許容レンジの上限である4%を、依然として大きく上回っています。また、8月のコアCPI上昇率は同4.78%と、2017年12月以来、3年8カ月ぶりの強い伸びを記録しました。インフレ圧力の強さをみると。9月30日の会合で追加利上げに踏み切り(本稿執筆時点で9月の会合の結果は発表されていません)、その後も利上げを継続しそうです。

米FRBなど主要国の中銀と比べてBOMの政策金利(9/27時点で4.50%)は高く、今後もその状況に変化はないと考えられます。BOMが利上げを続ければ、主要国中銀との政策金利の差は一段と拡大する可能性があり、メキシコペソ/円の支援材料となりそうです。

メキシコペソ/円は、原油価格(米WTI原油先物など)の影響を受けやすいという特徴もあります。世界経済が回復するなどして原油価格が堅調に推移すれば、メキシコペソ/円は底堅さを増すと考えられます。<八代>

注目点・イベントなど
・BOM(メキシコ中銀)の金融政策。
・資源(主に原油)価格の動向。
・米FRBの金融政策。

メキシコペソ/円(週足、2019/7- )

今週の主要経済指標・イベント

執筆者プロフィール
西田 明弘(にしだ あきひろ)
チーフエコノミスト
日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガンスタンレー証券などを経て、2012年マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。
米国を中心とした各国のマクロ経済・金融政策・政治動向の分析に携わる。
「アナリスト、ストラテジスト、エコノミスト、研究員と呼び名は変われども、30年以上一貫してリサーチ業務を行ってきました。長い経験を通じて学んだことは、金融市場では何が起きても不思議ではないということ。その経験を少しでも皆さんと共有したいと思います。」

執筆者プロフィール
八代 和也(やしろ かずや)
シニアアナリスト
2001年ひまわり証券入社後、為替関連の市況ニュースの配信、レポートの執筆などFX業務に携わる。2011年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)に入社。豪ドル、NZドル、カナダドル、トルコリラ、南アフリカランド、メキシコペソを中心に分析し、レポート執筆のほか、M2TV出演、セミナー講師を務めている。
【プロフィール】広島県出身。
【趣味】野球・サッカー観戦。
【一言】より分かりやすくタイムリーなレポートを心掛けています。


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