2021年末までの為替相場展望(アップデート2)

2021/08/30 13:26

マンスリー・アウトルック

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本レポートは、6月28 日配信の「マネースクエア四季報」で提示した2021年末までの為替相場見通しをアップデートしたものです。

「マネースクエア四季報」で紹介した見通し期間中(21年末まで)の3つのシナリオを再点検します。 < >は定性的な判断に基づく予想生起確率で、前回7月時点からメインシナリオの確率を5%引き上げました(サブシナリオを5%引き下げ)。

◎メインシナリオ   <60%>:力強い景気回復と金融正常化の進展
〇サブシナリオ    <35%>:景気回復のペースダウンと金融緩和の長期化
▲サプライズシナリオ< 5%>:コロナの感染再拡大でロックダウンへ逆戻り

コロナ変異株の感染拡大が目立ちますが、NZなど一部の国を除けて行動制限やロックダウン(都市封鎖)は回避されており、力強い景気回復が続いています。BOC(カナダ中銀)はすでにテーパリング(QE=量的緩和の段階的縮小)に踏み切り、22年後半の利上げを示唆。RBNZ(NZ中銀)もすでにQEを停止し、年内の利上げを示唆しています。米FRBは年内のテーパリング開始を強く示唆しています。

2021年末までの予想レンジ

今後の注目点は以下の通りです。

・金融政策正常化の動き
主要中央銀行の金融政策正常化の有無やタイミングの違いが相場材料になりそうです。BOCやRBNZ(NZ中銀)に続いて、FRBも年内にテーパリングを開始しそう。また、利上げ開始予想(6月時点で23年中)が前倒しされる可能性もあるでしょう。一方で、ECBは戦略レビューを発表し、ハト派傾向を強めました。日銀は現在の金融緩和を長期化する意向のようです。中央銀行が金融正常化を進める国の通貨は上昇しやすいと考えられます。

・バイデン政権の経済政策は実現するか
バイデン大統領の経済政策を具現化するインフラ投資法案と予算調整法案の審議が進みそうです。ただし民主党内部では進歩派(左派)と穏健派の足並みが揃わず、共和党の協力がない中でそれらの法案を成立させることができるかは不透明。少なくとも時間はかかりそうです。8月1日に復活したデットシーリング(債務上限)問題も絡んで、22年度が始まる10月1日前後に政府と議会の予算交渉が市場からも注目されそうです。

・ドイツやカナダの政局
9月26日のドイツの総選挙に向けて、メルケル首相の率いるCDU(キリスト教民主同盟)/CSU(キリスト教社会同盟)の支持が低迷しています。CDU/CSU単独での政権樹立は難しく、いずれかの政党と連立するのか。それとも、支持率で2位につける緑の党が他の政党と連立して政権奪取を果たすのか、予断を許さないところです。ドイツの政治が不安定になれば、EU(欧州連合)やユーロ圏での求心力にも影響が出そうです。

カナダではトルドー首相の自由党と野党保守党が支持率で拮抗しています。両党とも、企業への増税や規制強化などポピュリスト(大衆主義)的政策を提唱しており、選挙戦の情勢変化や結果次第では金融市場で嫌気される可能性があります。

◇2021年末までの主なイベント:
8月24日   東京パラリンピック開会式(9月5日まで)
9月1日   OPECプラス閣僚級会合
9月20日   カナダ総選挙
9月26日   ドイツ総選挙
9月29日   自民党総裁選(総裁任期満了は9月30日)
10月1日   米2022年度開始 予算交渉決着は?(年末まで交渉が続く可能性も)
10月?        日本総選挙(衆議院議員任期満了は10月21日、遅くとも11月30日までに実施)

米ドル/円:105.000円~115.000円
米FRBは、テーパリング開始の条件である「雇用と物価の目標に向けた顕著な前進」に関して、物価については満たされたと判断。雇用についてもかなり前進してきたと判断しています。早ければ、8月の雇用統計(9/3発表)を確認したうえで、9月21-22日のFOMCで開始を決定するかもしれません。9月のFOMCでは、各参加者の政策金利見通し、いわゆる「ドット・プロット」にも要注目です。利上げ開始時期について6月時点の中央値は「23年中」でした。ただし、18人中7人が「22年中」を予想しており、それが中央値になる(=利上げ開始予想の前倒し)可能性もあるでしょう。

米長期金利(10年物国債利回り)は3月末をピークに低下基調でしたが、7月中旬と8月初めにダブルボトムをつけて上昇に転じた可能性があります。テーパリングや利上げ前倒しの観測が強まれば、長期金利が一段と上昇して、米ドルをサポートしそうです。ただし、予算交渉やデットシーリングに絡んで、変動が大きくなる、あるいはリスクオフで低下圧力が加わるなどの場面も想定されるため、注意は必要でしょう。<西田>

注目点・イベントなど
・新型コロナの感染は収束に向かうか。
・FRBがテーパリングや利上げを開始するのはいつか。
・バイデン大統領の経済政策は実現するか。

米ドル/円(週足、2019/7- )

ユーロ/円:125.000円~135.000円
ユーロ/米ドル:1.14000米ドル~1.23000米ドル
ユーロ/英ポンド:0.80000ポンド~0.92000ポンド
ユーロ圏はワクチン接種で英米にキャッチアップしており(※)、新規感染者数は比較的抑制されています。もっとも、4-6月期のGDPは前期比2.0%と、2期連続マイナスの後にようやくプラスに転じたばかり。消費者物価は7月に2.2%と、英米ほど上振れしていません。ECBは戦略レビューによって物価目標を従来の「2%より下だが、2%に近い」から「(対称的な)2%」へと修正、ややハト派色を強めました。ECBは9月9日の理事会で10-12月期のPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)による資産購入ペースを決定します。そこで現行ペースの継続が決定されれば、ユーロ/米ドルやユーロ/英ポンドの弱気材料となりそうです。

(※)Our World in Dataによれば、8月ワクチン接種を完了した人が人口に占める割合は、英国62.3%、米国51.5%、EU57.1%、日本43.9%、世界平均26.6%(8月26-28日時点)。

9月26日に予定されるドイツの総選挙で、政権が交代する可能性があります。ユーロ圏をまとめてきたドイツでの政権交代(の観測)は一時的にせよ通貨ユーロのマイナス材料となりそうです。<西田>

注目点・イベントなど
・PEPPなどECBの金融政策の行方。
・ドイツの政治情勢、9月連邦議会選挙での政権交代の可能性。

ユーロ/円(週足、2019/7- )


ユーロ/米ドル(週足、2019/7- )

ユーロ/英ポンド(週足、2019/7- )

英ポンド/円:145.000円~160.000円
英ポンド/米ドル:1.30000米ドル~1.45000米ドル
英国のGDPは今年1-3月期の前期比マイナス1.6%から4-6月期に4.8%へと加速しました。3月から7月にかけて実施された行動制限の段階的解除による追い風がありました。ただし、行動制限解除の効果は7-9月期にはピークアウトするでしょう。7月の小売売上高が前月比マイナス2.3%となったのはその証左の1つでしょう。また、労働者に対する政府の休業補償が9月末で期限切れとなるため、失業者の増加が予想されます。

BOE(英中銀)は、今年末の消費者物価が4%近辺に高止まりすると予想しています。ただし、インフレ率の上振れは一時的な要因が大きいと判断しており、上述したように景気減速予想されるなかで、慎重に金融緩和を継続するでしょう。ただし、現行の債券購入額8,950億ポンドが維持されるのであれば、同プログラムは今年末までに終了する予定です。一方、利上げ開始は早くても22年後半になるものとみられます。<西田>

注目点・イベントなど
・7-9月期以降の経済成長や労働市場、物価動向。
・BOEの金融政策(債券購入枠の拡大はあるか、利上げ観測は高まるか)。

英ポンド/円(週足、2019/7- )

英ポンド/米ドル(週足、2019/7- )

豪ドル/円:75.000円~85.000円
豪ドル/米ドル:0.68000米ドル~0.76000米ドル
豪ドル/NZドル:1.00000NZドル~1.08000NZドル
豪州では、新型コロナのデルタ株の感染拡大を受けてシドニーなど主要都市でロックダウン(都市封鎖)が実施されています。シドニーのロックダウンは9月30日までの予定です。

ロックダウンの影響によって豪経済は今年7-9月期にマイナス成長になるかもしれません。また、RBA(豪中銀)は9月上旬以降、債券購入額を週50億豪ドルから週40億豪ドル(少なくとも11月半ばまで)へと減額する方針を示しているものの、その方針を再考する可能性があります。豪ドル/円や豪ドル/米ドルは上値の重い展開が想定されます。

一方で、豪ドルは投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいという特徴があります。主要国の株価が堅調に推移するなどしてリスクオンが強まる場合、豪ドル/米ドルや豪ドル/円の支援材料となりそうです。

豪ドル/NZドルは、軟調に推移する可能性があります。RBAの利上げはかなり先と考えられる一方、RBNZ(NZ中銀)は年内の利上げ開始を示唆しており、両者の金融政策の方向性の違いが市場で意識されそうです。<八代>

注目点・イベントなど
・RBA(豪中銀)の金融政策。
・投資家のリスク意識の変化。
・米FRBの金融政策。
・資源(主に鉄鉱石)の価格動向。
・米中関係、豪中関係(中国は豪州の主要輸出先)。

豪ドル/円(週足、2019/7- )

豪ドル/米ドル(週足、2019/7- )

豪ドル/NZドル(週足、2019/7- )

NZドル/円:73.000円~82.000円
NZドル/米ドル:0.65000米ドル~0.75000米ドル
RBNZ(NZ中銀)は8月18日の会合で、政策金利を0.25%に据え置きました。会合前日の17日にオークランドで新型コロナの感染者が確認されたことを受け、NZ全土でロックダウン(都市封鎖)が導入されたことが、政策金利を据え置いた理由とみられます。

RBNZは会合の結果と同時に公表した金融政策報告で、21年中の利上げ開始を示唆。政策金利は23年9月には2.0%に達するとの見通しを示しました。

市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)をみると、本稿執筆時点で政策金利は年内に0.75%へと上昇し、22年10月には1.50%へと上昇するとの見方が有力。RBNZの利上げ観測に支えられて、NZドル/円やNZドル/米ドルは堅調に推移しそうです

NZドルは豪ドルと同様に投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいという特徴があります。主要国株価が上昇するなどしてリスクオンが強まる場合、NZドル/米ドルやNZドル/円は堅調さを増すとみられます。<八代>

注目点・イベントなど
・RBNZ(NZ中銀)の金融政策。
・投資家のリスク意識の変化。
・米FRBの金融政策。
・米中関係、(中国はNZの主要輸出先)。
・乳製品(NZ最大の輸出品)の価格動向。

NZドル/円(週足、2019/7- )

NZドル/米ドル(週足、2019/7- )

カナダドル/円:83.000円~93.000円
BOC(カナダ中銀)は21年7月の会合で、量的緩和プログラムの縮小を決定。カナダ国債の買い入れ目標を週30億カナダドルから20億カナダドルへと減額しました。

量的緩和プログラムは年内にさらに減額されるとの観測が市場にはあります。BOCが実際に減額すれば、カナダドル/円の支援材料となりそうです。

BOCは22年下半期の利上げを示唆しているものの、利上げの時期はそれよりも早まるかもしれません。カナダの7月CPI(消費者物価指数)は前年比3.7%と、BOCのインフレ目標(1~3%)を4カ月連続で上回り、2011年5月以来の強い伸びを記録しました。CPI上昇率の高止まりが続く場合、BOCは利上げを検討し始める可能性があり、カナダドル/円の上昇要因となり得ます。

カナダドル/円については、原油価格(米WTI原油先物など)の動向にも目を向ける必要があります。世界経済の回復が進めば、原油価格は堅調に推移するとみられます。原油高はカナダドル/円の支援材料です。

カナダの下院選挙(定数338議席)が9月20日に行われます。下院選では、トルドー首相率いる自由党が単独過半数を獲得できるかどうかが焦点になりそうです。自由党が単独過半数を獲得できれば、政権運営が安定するとの見方ができるため、カナダドルにとってプラスと考えられます。<八代>

注目点・イベントなど
・BOC(カナダ中銀)の金融政策。
・資源(特に原油)価格の動向。
・カナダ下院選挙(9/20)。
・米国景気の動向。

カナダドル/円(週足、2019/7- )

トルコリラ/円:9.000円~16.000円
TCMB(トルコ中銀)は「インフレ率の大幅な低下が達成されるまで、現在の引き締め的な金融政策スタンスを断固維持する」、「政策金利は引き続きインフレ率を上回る水準に設定する」との方針を示しています。

TCMBは一方で「インフレ率(CPI上昇率)は21年10-12月期に著しく鈍化する」予測しており、市場では21年10-12月期に利下げを開始するとの見方が有力です。今後、CPI(消費者物価指数)上昇率が鈍化して利下げ観測が高まれば、トルコリラ/円は上値が重い展開になりそうです。

エルドアン大統領の言動には注意が必要です。エルドアン大統領は「金利が下がればインフレ率は下がる」が持論であり、TCMBが政策金利の据え置きを続ける(利下げしない)状況にいつまで我慢できるのか。エルドアン大統領はTCMB総裁を2019年7月以降3人解任しています。TCMBの独立性をめぐる懸念が強まる場合、トルコリラ/円には下押し圧力が加わるとみられます。<八代>

注目点・イベントなど
・TCMB(トルコ中銀)の金融政策。
・トルコと米国、EUとの関係。
・トルコの地政学リスク。

トルコリラ/円(週足、2019/7- )

南アフリカランド/円:7.000円~8.000円
南アフリカの7月CPI(消費者物価指数)は前年比4.9%と、上昇率は6月の4.9%から鈍化したものの、SARB(南アフリカ中銀)のインフレ目標(3~6%)の中央値である4.5%を3カ月連続で上回りました。

市場では、「SARBは政策金利を当面据え置いて、22年に利上げを開始する」との見方が有力です。今後、CPI上昇率が4.5%を上回る状態が続く場合、SARBの利上げ観測が市場で高まって南アフリカランド/円を下支えする可能性があります。

一方で南アフリカの国内情勢には注意が必要かもしれません。南アフリカでは、7月にズマ前大統領が収監されたことで暴動が発生しました。また、発電設備の老朽化や国内電力の約9割を供給するエスコム(国営電力会社)の経営危機により、以前から計画停電がたびたび行われています。国内情勢をめぐる懸念が強まる場合、南アフリカランド/円は下押しする可能性があります。<八代>

注目点・イベントなど
・SARB(南アフリカ中銀)の金融政策。
・米FRBの金融政策。
・商品価格の動向。
・エスコム(南アフリカの国営電力会社)の経営危機問題。

南アフリカランド/円(週足、2019/7- )

メキシコペソ/円:5.000円~6.000円
BOM(メキシコ中銀)は8月12日の会合で利上げすることを決定。政策金利を4.25%から4.50%へと引き上げました。利上げは2会合連続です。

BOMは声明で「インフレのリスクバランスは上向きに傾いている」との見方を示し、インフレ見通しを以下のように6月時点から上方修正しました。BOMは今後追加利上げに踏み切る可能性があります。

<インフレ見通し>
いずれも前年比、( )は6月時点の見通し
・総合CPI(消費者物価指数)
 2021年10-12月期:5.7%(4.8%)
 2022年10-12月期:3.4%(3.1%)
・コアCPI
 2021年10-12月期:5.0%(3.9%)
 2022年10-12月期:3.3%(3.2%)

米FRBなど主要国の中銀は政策金利を当面据え置くとみられる一方、BOMは利上げを継続しそうです。こうした金融政策見通しの違いがメキシコペソ/円を下支えすると考えられます。

メキシコペソ/円は、原油価格(米WTI原油先物など)の影響を受けやすいという特徴があります。原油価格が堅調に推移すれば、メキシコペソ/円は上昇する可能性があります。<八代>

注目点・イベントなど
・BOM(メキシコ中銀)の金融政策。
・資源(主に原油)価格の動向。
・米FRBの金融政策。

メキシコペソ/円(週足、2019/7- )

今週の主要経済指標・イベント

執筆者プロフィール
西田 明弘(にしだ あきひろ)
チーフエコノミスト
日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガンスタンレー証券などを経て、2012年マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。
米国を中心とした各国のマクロ経済・金融政策・政治動向の分析に携わる。
「アナリスト、ストラテジスト、エコノミスト、研究員と呼び名は変われども、30年以上一貫してリサーチ業務を行ってきました。長い経験を通じて学んだことは、金融市場では何が起きても不思議ではないということ。その経験を少しでも皆さんと共有したいと思います。」

執筆者プロフィール
八代 和也(やしろ かずや)
シニアアナリスト
2001年ひまわり証券入社後、為替関連の市況ニュースの配信、レポートの執筆などFX業務に携わる。2011年、マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)に入社。豪ドル、NZドル、カナダドル、トルコリラ、南アフリカランド、メキシコペソを中心に分析し、レポート執筆のほか、M2TV出演、セミナー講師を務めている。
【プロフィール】広島県出身。
【趣味】野球・サッカー観戦。
【一言】より分かりやすくタイムリーなレポートを心掛けています。


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