原油市場のレビューと展望(5月26日)

2022/05/26 20:05

金・原油マーケット特別レポート

WTI原油先物・日足・単純移動平均 5・10・20 一目均衡表 MACD
期間:2021/01/18~2022/05/24

WTI原油先物(日足)
チャート(時事通信社データより作成)

原油市況 ~EUのロシア産原油の禁輸への取り組みと、
製品在庫の減少から続伸、インフレ高進を背景に
米株価が大幅安となったことなどから急落、その後もみ合いに~


新型コロナウイルス感染拡大抑制に向けた中国のロックダウン、ドル高、景気後退リスクの高まりを背景に、世界の需要見通しに対する懸念が浮上して、100ドルを割れていたWTI原油は、EUがロシア産原油や石油製品の禁輸を目指した取り組みを続けていることや、米国での製品在庫の減少傾向が続いていることから115ドルまで上昇した。しかし、米国が対ベネズエラ制裁を一部解除する可能性があるという報道で下落。FRB(米連邦準備理事会)が金融政策引き締めを続けると表明したことも下落に拍車をかけ、105ドル手前までの下落となった。その後は、中国のロックダウンが緩和され、石油需要が回復すると期待されていることや、米国でガソリンの需要期が迫っていることなどから反転し、一時は114ドルまで上昇したものの、金利高・物価高を背景に景気後退懸念が台頭していることが重しとなり110ドルを挟んだ展開となっている。

11日、ロシア産ガスの欧州向け輸送量が減少したほか、ロシアが国営ガス大手ガスプロムのドイツ子会社などに制裁を導入すると発表し、世界のエネルギー市場を巡る不透明感が強まったことから上昇。WTI原油は前日比5.95ドル(6%)高の105.71ドルと急伸した。

12日~16日、株式市場の上昇と、ロシア産のガス、原油の供給の引き締まりから続伸して、一時高値が115ドルに迫る続伸となった。12日にフィンランドはNATO加盟を表明した。

13日、米ガソリン先物が過去最高値を更新した。

17日~19日、EIA(米エネルギー情報局)が発表した週間在庫統計で精製業者が生産を拡大させたことが明らかになり、供給懸念が後退したことから急落。また、米株相場の急落で投資家心理が悪化し、株と同様にリスク資産に位置付けられる原油先物も売られた。19日は一時105.13ドルまで売られることとなった。

20日、中国が新型コロナウイルスの感染拡大に伴うロックダウンを6月に解除する方針を示し、中国の経済活動の正常化で、原油需要が回復するとの観測から上昇。また、米国でガソリンの需要期が迫っているなかで、低調に推移しているガソリン需要の上振れが想定されていることが相場を押し上げ、終値ベースで113ドルを回復した。


今後の展望 ~精製品の供給不足とEUによるロシア産原油の段階的禁輸に対する取り組みから下支えされる展開が想定される。一方、依然、金利上昇による景気後退懸念がくすぶり、下値への警戒も必要~

中国がロックダウンを6月に解除する方針を示していて、石油需要が回復すると期待されている。また、ドライブシーズンを迎える米国のガソリン在庫が5年ぶりの低水準に落ち込んでいて、在庫の取り崩しが続いていること、留出油の在庫は2005年5月以来の低水準を更新していることなど、精製品の世界的な供給不足が燃料価格を押し上げる状況が続いている。

EUのロシア産原油の段階的禁輸に関しては依然協議がつついて、移行期間の延長や代替手段の確保や長期的な経済の転換に必要な投資が支援について議論されている。また、新たにロシア産原油に関税を課せる案も出てきている。禁輸の合意に至れば、供給の逼迫から上昇圧力になるであろうが、簡単には合意に至らない模様。

一方で金利高・物価高、利上げ観測の背景から、景気後退懸念によるリスクオフで、金融市場を中心にリスク資産が売られることも想定される。米金融当局者は米経済のソフトランディングが可能との認識を示しているが、不透明感が強いため、注意が必要であろう。現状の105ドル~115ドルのレンジを上抜けるかどうかがポイントになる。


OPEC月報
2022年の世界石油需要の増加を日量336万バレルとし、前回予想から31万バレル下方修正した。引き下げは2カ月連続となる。
世界消費量は22年第3・四半期に日量1億バレルを超え、22年平均はパンデミック前の19年をやや上回ると予想している。
22年のOPEC以外の供給は日量240万バレル増加になると予想し、従来予想より30万バレル下方修正した。また、ロシアの生産量見通しを日量36万バレル引き下げた。
米国の22年の石油供給量は日量88万バレル増えると予想。前月予想を据え置いたが、今年後半に引き上げる可能性があると指摘した。

IEA(国際エネルギー機関)月報
ロシアの産油量は制裁によって購入が手控えられれば、減少幅は5月に日量160万バレル、6月は日量200万バレル、7月以降は日量300万バレル近くに拡大するとの見方を示した。ただ4月のロシアの石油輸出は前月比日量62万バレル増の日量810万バレルとなり、1-2月の平均に戻ったとしている。これは米欧向け供給が主にインドに向かったことが理由と説明した。
世界の石油需要の伸びは4-6月期に前年比・日量190万バレル増に鈍化、1-3月期の世界の石油需要の伸びは前年比・日量440万バレル増、世界的に精油マージンが前例のない水準へ急拡大、製品市場のタイト感は継続へとしている。


今後注目の動き

生産国、消費国の動き

・ロシア
ロシア政府系のガスプロムは、ロシア産天然ガスをドイツに送るパイプラインを通じたガス輸送の停止を表明した。また、ロシア政府系電力大手インテルRAOは当面の間、フィンランドへの電力供給を停止した。
ロシアからのディーゼル油輸出がウクライナ侵攻前の水準から急減している。

ロシアの4月の原油生産量は前月比約9%減の日量916万バレルとなった。OPECプラスの減産合意で要求された水準を日量128万バレル下回った。ロシアからのエネルギー供給は、明らかに減少している。

ロシアのノバク副首相は欧州が受け入れを拒否した石油は全てアジアなどに輸出すると発言。欧州は日量400万バレル前後のロシア産原油を輸入していると指摘。4月のロシアの石油生産は日量100万バレル前後減少したが、5月は日量20万-30万バレル増加し6月はさらに生産が回復する見通しという。また、ロシアの石油輸出は段階的に回復しており、ロシア産エネルギー資源は競争力があり、輸出市場を探すことができるとの見方を示した。

・米国
米ガソリン先物相場は初めて1ガロン=4ドルを超え、ガソリン小売価格の全米平均も最高値を更新した。
EIA週報で製油所稼働率は91.08%まで上昇。ガソリンの需要期を控えて生産が拡大。ガソリン在庫は2億2108万9000バレルまで減少し、過去5年のレンジ下限を下回っている。

イエレン氏は、17日にフォンデアライエン欧州委員長と欧州のロシア産エネルギーへの依存を低下させるための幅広い選択肢について協議したと説明。その上で関税と禁輸の2つの選択肢は「組み合わせることが可能」と語った。
3-4月の中南米からの燃料油の輸入は平均で日量20万バレルと、過去12カ月と比べると49%増加。3-4月のメキシコ産の燃料油の輸入シェアは27%で、前年同期の19%から増加。

4月の中南米からの原油輸入も日量134万バレルと、6カ月ぶりの高水準。アルゼンチンから輸入は4カ月ぶり高水準、コロンビアからの輸入は2020年年9月以降で最高となった。
米石油掘削リグの稼働数は前週比13基増の576基(米ベーカー・ヒューズ)

・OPECプラス
OPECプラス全体では、4月の生産量は目標を日量260万バレル下回った。

・サウジアラビア
サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコの第1・四半期決算は、原油高を背景に約82%の増益。純利益は395億ドルで前年同期の2177億ドルから増加。

サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は、2026年末または27年初頭までに石油生産能力を日量100万バレル以上引き上げ、日量1300万バレル強にする予定だとした上で、市場の需要が必要とするなら、その水準で維持する可能性があると述べた。

サウジアラビアのイブラヒム経済企画相は、ウクライナへの軍事侵攻でロシアへの非難が高まる中でも「両国との強い2国間関係を維持する」と語った。価格の高騰により欧米諸国が求めている原油の増産については否定的な見解を示した。

・ベネズエラ
米政府はロシア産原油の禁輸による供給の落ち込みを穴埋めするため、ベネズエラからの原油輸入再開を模索していたが、米国が対ベネズエラ制裁を一部解除する可能性がある。バイデン政権が石油大手シェブロンに対し、ベネズエラでの操業ライセンスについて同国の国営石油企業との交渉を認めるとしている。

・カナダ
カナダは今後2年間で米国への石油輸出能力を日量100万バレル以上拡大できると述べたほか、国境を越えた新しい石油パイプラインの建設を求めた。

・EU
5月30-31日のEU首脳会談で、ハンガリーやスロバキア、チェコにより長い移行期間を設けることで、ロシア産石油の段階的禁止で合意することを目指している。しかし、東欧の一部の国が反対の姿勢を崩していない。ハンガリー(同国の石油輸入に対するロシアの占有率は58%)はロシア産石油を失う代償を軽減するため、数億ユーロの支援を求めている。ハンガリーは、このエネルギー投資に関する要求が満たされるまで、同意できないとの姿勢を崩していない。

・ポーランド
ポーランドはヤマル・パイプライン経由で輸入していたロシア産天然ガスについて、ロシアとの供給契約を打ち切った。ポーランドがルーブル建てでのガス代金支払いを拒否したことを受け、ロシア側は4月にガス供給を停止した。

・イタリア
イタリアのロシア産原油の輸入は4月に40%も増えた。日量45万バレルの原油を輸入しており、2月の4倍超の水準となった。

・中国
ロシア産原油の中国向けは10%増、日量78万1000バレルだった。
中国のロシア産原油の海上輸入は5月に過去最高に近い日量110万バレルに急増する見込み。第1・四半期は同75万バレル、2021年は同80万バレル。

・インド
ロシアのウクライナ侵攻以来、記録的なスピードでロシアの代表的な油種ウラル原油を買い進めた。4月のインド向け出荷量は日量67万4000バレルと、前月から倍増。

*フィンランドとスウェーデンはNATO加盟を表明した。
トルコのエルドアン大統領は、フィンランドとスウェーデンが「多くのテロ組織の本拠地」になっているため、NATO加盟を支持できないとした。


CFTC建玉明細 
CFTC建玉明細 WTI 



出所:CFTC(米商品先物取引委員会)

CFTC建玉明細(5/17現在)
ファンド玉は、325,637枚の買い越し(先週比 14,834枚)
買い越しは、先週減少、今週増加。
当業者玉は、 363,869枚の売り越し(先週比 9,390枚)
売り越しは、先週減少、今週増加。
総取組は、 2週連続して減少。


コーヒーブレイク
WTI原油、2年ぶりにブレント上回る 米欧需給格差映す

日経新聞にこのような記事がありました。前々回、マーカー原油の違いによる格差について、記しましたが、その構図の変化により、価格差の高低が入れ替わった状況を説明しています。実際の値動きを改めて確認してください。

2022年5月18日 20:30
米国の原油の国際指標であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)が欧州の北海ブレントの価格を2020年5月以来2年ぶりに上回った。2000年代後半に始まったシェール革命で米国の原油生産が増加したことなどを背景に、近年WTIの価格はブレントを下回ることがほとんどで、逆転は異例だ。欧米の経済環境などを映した原油需給の格差が指標原油の値差として反映されたようだ。

米ニューヨーク市場のWTI先物は17日、終値で1バレル112.4ドルとなる一方、欧州の北海ブレント先物は111.93ドルとなり、47セントのWTI高・ブレント安となった。3月頃にはウクライナ侵攻に伴うロシア産原油の供給寸断懸念から、依存度が高い欧州で逼迫感が強まり、ブレントがWTIよりも7㌦程度高くなっていた。

欧州ではその後に極端な供給懸念が後退。一方、米国では夏の需要期に向かい需給が逼迫している。戦争の長期化で減速懸念の生じる欧州に対して、米経済が相対的に堅調なことも原油の需給差につながる要因だ。みずほ銀行の能見真行調査役は「足元の両者の逆転は限月交代の時期の違いなど、テクニカル要因も影響したとみられるが、傾向そのものはしばらく前から続いており一時的には終わらない可能性がある」とみる。


(出所;日経新聞)

ウクライナ侵攻後の値動きを確認してください。
BrentがWTIに比べ大幅に上鞘だったのが4月以降転換して、5月からは急激に鞘寄せ、逆転していく経過がわかると思います。


(出所;Bloombergデータより作成)

また、直近ではBrentの上鞘となっていることも確認しておきます。
直近では、米エネルギー省のグランホルム長官が、バイデン米大統領は国内の燃料価格高騰を抑制するために輸出を制限することを排除していないと述べたことがWTI原油の重しとなっています。

米国は日量600万バレル程度の石油製品を輸出しており、輸出が制限された当初に米国内の価格は下落するとみられています。

世界最大の石油消費国であり、輸入国であり輸出国の米国が輸出を管理した場合、これまで減少するロシア産エネルギーの一部補完を期待されている状況であったことからも、混乱も大きいと見られます。

EIA(エネルギー情報局)の週報では、米国は日量856万3000バレルの原油と石油製品を輸入し、同956万4000バレルを輸出しています。


■筆者プロフィール
原 悠(はら はるか)

2000年より原油及び石油製品全般のトレードに携わる。 
ファンダメンタルズをベースに市況を分析していく。


【お知らせ】
次回の「金レポート」は都合により6月17日(金)更新予定となっております。
ご了承の程よろしくお願いいたします。
  • 本レポートは、執筆者が信頼に値すると判断した情報に基づいて作成されたものです。あくまで情報提供が目的であり、投資に関しましては、投資家ご自身の判断に基づき決定してください。
  • 本レポート内の予想やその他の見解は、出所を明記しているものを除き、執筆者個人のものであり、当社のものではありません。したがって、その内容等について当社は責任を負いかねます。また、当社はこれに関するお問い合わせにはお応えいたしかねますのでご了承ください。
  • 相場の状況により、当社のレートとレポート内のレートが異なる場合があります。
  • 本レポートの内容は予告なく変更される場合があります。
  • 本サイトに掲載された内容の著作権は、当社または執筆者(またはその提供元)に帰属します。したがって、無断で使用、複製、改変することを禁じます。

topへ