米国インフレ圧力は「一時的か?」「長期化するか?」

2021/11/12 17:05

金・原油マーケット特別レポート

~利上げのタイミングが金相場のトレンドを決める展開に~

出所:ブルームバーグ
期間:1984/01~2021/10

米商務省が今月10日に発表した10月の米消費者物価指数(CPI)は、市場予想を上回る前年同月比6.2%増で、1990年11月以来31年ぶりの大幅な伸びを記録した。今回の発表で米CPIは6カ月連続で5%増となり、これまでもインフレは「一時的」との見方を堅持している米FRBの利上げ開始時期の判断にも大きな影響を及ぼす議論が高まっている。

前日の10月卸売物価指数(PPI)に続きさらにインフレ懸念を強める今回の発表は、夏場以降やや頭の重い値動きであったドル建て金相場の1,830ドルのレジスタンスを一挙に上抜くトリガーとなったが、今後FRBが利上げへの姿勢を強めることがなければ、1,900ドル水準を伺う動きも想定される。



出所:ブルームバーグ
期間:1984/01~2021/10

 

◆FRBの利上げ開始時期を左右する4つのインフレ要因

 

コロナワクチン接種の普及により感染者数の急拡大が収まったことを受け、コロナ禍で抑えられていた需要の反動的な回復が、欧米など各国においてサプライチェーンのボトルネック現象やエネルギー価格上昇、さらには労働市場の需給逼迫を招いており、物価急騰による副作用的なインフレのリスクが高まっている。

 

  • サプライチェーンのボトルネック現象

米中の貿易摩擦、コロナに伴う物流の混乱は、特に欧米ではハロウィンからクリスマス・年末商戦を控え深刻なIT関連製品や消費財等の供給不足を招き価格急騰に拍車をかけている。現在物流等に関しては各国が連携し24時間のフル稼働で改善を進めているため、ある程度の価格鎮静化にはつながるものと思われる。

 

  • エネルギー価格上昇

石炭及び天然ガスの価格高騰は、「中国-豪州」「EU-ロシア」等の政治的混乱が大きな要因となっており、また代替的石油へのシフトもOPEC等のやはり政治的判断(追加増産の先送り)も絡み進展していないことから、冬季需要期を控え「供給の安定化⇒価格低下」への道筋は困難な状況にある。いずれも政治相場によるだけに当面高止まり傾向が続く可能性が高く、需給改善にはやや時間がかかる気配である。

出所:ブルームバーグ
期間:1984/01~2021/10

 

  • 労働市場の需給逼迫

   米労働省が5日発表した10月の雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比53万1,000人増、失業率も4.6%と好調さを示す数値が出ているが、労働参加率がコロナ禍前の水準に比べると1%以上低い水準にある等、雇用環境は依然ひっ迫しており、また雇用賃金の上昇率も高水準にあることからインフレを引き起こす大きな要因として考えられる。

 

  • コロナ禍によるインフレ懸念につながるもう一つの副作用

世界各国ともにコロナ対策として大規模な現金給付を実施している。特に米国では昨年来3回合計で1人最大3,200ドルの現金給付を行っており、失業給付や子育て世帯への大規模な税優遇等、家計支援は総額で1兆ドル規模のバラマキ政策を実施している。一方今回多くの世帯で給付金などが生活費ではなく貯蓄等に充てる傾向も見られ、現在米国の家計部門における預金資産残高はコロナショック以降急増(約350兆円以上の増加)し、前年同期での増加率は過去最高を記録している。年末に向け預金に回された現金給付等が個人消費へと一挙に出回る可能性も高く、物価急騰につながる懸念要素となっている。

 

出所:FRB公開データより筆者作成
期間:1970/01~2021/01

米FRB内では、物価上昇局面が長期化した場合、利上げ時期の早期前倒しを発現する声もあるが、利上げによる景気回復期待が冷え込むリスクを考え、早期利上げ観測はやや後退しているようである。また来年の中間選挙をにらみパウエル議長は、米与党寄りの政策を支援するスタンスを維持することが考えられることから、労働市場(雇用状況)の回復が鮮明となるまでは前倒し的な利上げは実施しないのではないだろうか。

 

◆今後の金相場は「物価」と「雇用」の指標の両にらみによる判断が勝負!

 

 11月に入り金相場は「米CPI」発表がトリガーとなり1,830ドルのレジスタンスを一挙に抜け、強気展開であれば、今後は1,830ドルが新たなサポートとなり(FRBの早期利上げ観測が後退した場合は)2021年初頭からのトップラインをも上抜き1,900ドルが視野に入る値動きとなるのか、(インフレ抑制のための利上げ前倒し観測が強まった場合)再度1,830ドルを割り込み1,700ドルを目指す弱気展開となるのかは、前項の①~④の要素の動きを注視する必要がある。また同要素の動きを反映した指標としては、金相場と逆相関で動く米10年物債利回りと期待インフレ率から試算した実質金利の動きに注目したい。

 



出所:ブルームバーグ
期間:2021/01/01~2021/11/11

★参考情報①

~新たな投資対象への投資資金の移動~

2021年年初米国債利回りが上昇する中、ドル建て金価格は軟調な地合いであったが、ビットコイン(暗号資産)は急騰しており、本来はインフレヘッジ等(対ドル、対米債)の目的で金市場に参入する投資家の多くが最近の新たな傾向として、大きな値動きが最大の魅力であるビットコイン取引へと金市場から資金シフトするケースが多かったものと推測される。一方で、今後ビットコイン相場が下落基調になった際に、金市場への資金回帰への可能性も十分あり得よう。

出所:ブルームバーグ
期間:2019/01/01~2021/11/11

★参考情報②

くりっく株365に上場されている金ETFは、原市場となる取引対象が東証上場の「SPDRゴールド・シェア」であるため、同銘柄を参考チャートとして掲載する。

今年に入りSPDRゴールド・シェアETFの値動きは、ドル建て金相場の値動きと異なり円安メリットの影響からトップラインは上昇トレンドを示唆しており、移動平均線から見ても上昇傾向にある。ただ基本的にはドル建て金価格を基本にトレンド方向は判断していくほうが望ましい。

 

出所:東京金融取引所
日足:2021/09/13~2021/11/11

 

出所:ブルームバーグ
日足:2020/01/01~2021/11/11

 

出所:ブルームバーグ
日足:2020/01/01~2021/11/11


■筆者プロフィール
藤原 貴一(ふじわら きいち)

相場歴20年以上。熟練の視点で金相場を読み解く。


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