原油市場のレビューと展望

2021/12/01 17:44

金・原油マーケット特別レポート

原油市況:オミクロン株で暴落

WTI原油先物・日足・一目均衡表MACD
期間:2021/07/28~11/30

WTI原油先物チャート

チャート(時事通信社データより作成)

 

月初は80ドル割れの割安感から買いが入る場面も・・・SPR(戦略石油備蓄)の放出の報道が相場を押し下げ。

 

〇11月19日(材料:SPR放出報道・欧州コロナ懸念)

欧州で新型コロナウイルスの感染拡大により景気回復の遅れが懸念されたことや、米政府がSPRの放出を行い、各国協調で1億バレルを上回る放出になることなどの報道から急落。
WTI原油は、2.91ドル安の76.10ドルで引けることとなった。

〇11月23日(材料:SPR放出の発表)

米政府は、日本、中国、インド、韓国、英国と協調してSPRの放出を発表した。
しかし、戦略石油備蓄の放出の効果は一時的で、供給不足の見通しは変わらないとの見方も強く、先行きに警戒感が根強かった。
この備蓄放出に対応して、「OPECプラスは、現状の市場環境では正当化できないと、反発を強めて1月以降の緩やかな増産計画を予定通りに行わないのではないか」という観測が広がったため、WTI原油は終値ベースで1ドル78.50ドルと、78ドル台を回復する展開となった。OPECのバルキンド事務局長は「早ければ12月にも供給過剰となる可能性がある」と指摘。
放出の規模が市場の予想よりも小さく、その大部分が将来返還される形をとっていたため、先行きの需給見通しを厳しくさせると判断されたことが支援材料となった。

〇11月25日(材料:コロナ変異種確認)

南アフリカで新型コロナウイルスの異種株が確認されたとの報道が流れると、一転、ダウ平均株価が一時1,000ドルを超える下げとなるなど金融市場、商品市場全般にリスクオフの動きとなって、原油市場も大きく売られる展開となった。米感謝祭明けのアジア時間帯から一気に下落していった。
世界保健機関(WHO)が南アフリカで確認された新型コロナウイルスの変異株は、「懸念すべき変異株」に分類すると発表したことも売りを加速させた。WTI原油は一気に安値1バレル67.40ドルまで下落、終値ベースでも68.15ドルと暴落となった。この日の下げ幅は10.24ドル(13.1%)となり、1日の下げ幅としては今年最大となった。
各国が渡航制限やロックダウンを計画するなど、経済成長や燃料需要が落ち込むとの見方が強まった。

〇11月29日(材料:OPECプラス)

週末の暴落に対する反動と、サウジアラビアやロシアなどのOPECプラスの主要国が早急に生産量を調節する必要はないとの認識を示したことなどが支援材料となり、一旦の下げ止まりを見せた。

〇11月30日(材料:ワクチンの有効性、テーパリングに関する報道)

モデルナのバンセル最高経営責任者(CEO)が「モデルナ社の既存のワクチンがオミクロン株に対して、デルタ株の時と比べ効果が低下する恐れがある」と指摘したとの報道が流れると、アジア時間帯から下げを加速させた。WTI原油は一時1バレル65ドル割れの64.43ドルとなり、終値ベースでは前日比3.77ドル安の66.18ドルとなっている。
また、パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長が債券購入のテーパリングの早期終了を検討していると伝わると、VIX(CBOEボラティリティー)指数が敏感に反応し、株価も大幅安となった。
この影響を受けてWTI原油は月間で約20%の下落となり、2020年3月以来最大の月間下げ率となった。

 

今後の展望:オミクロン株の感染拡大で視界不良

アラブ首長国連邦(UAE)のマズルーイ・エネルギー相は来年の第1四半期には供給過多になるとの見通しを示していて、年末から来年にかけて供給不足から供給過剰へ需給が転換するとしている。
また、第2四半期に関しては、供給を巡る懸念は解消すると指摘しており、オミクロン株の報道から原油市場が急落している中、12月2日のOPECプラスで、1月以降の毎月日量40万バレルの増産に関してどのような調整を決定するのかが注目される

 

24日に発表されたベーカー・フューズの稼働中の原油掘削装置(リグ)数は前週比6基増の467基となったが、シェール企業による増産に向けた再投資の動きは依然、鈍化している模様。

API(米国石油協会)も、バイデン大統領が新規パイプライン設置を認めず、連邦用地のリースを停止していることが業界の投資抑制の原因だと批判していて、政府と米石油業界の溝が深まっている。
また、OPECプラスの減産順守率は116%と9月の115%から上昇しており、計画通りに増産が進んでいないことも示されていて、生産量が合意の水準を下回っている。
生産サイドの動向では、これまでの経済活動が継続されれば目先の供給不足に繋がる要因は多いものの、オミクロン変異株に関しては、感染力や重症化リスクなど明らかになっていないことも多く、経済活動に対する影響度合いが予測できないため、需要サイドの動向が読めない状況となっている。OPECプラスの動向とともにオミクロン株に関する報道を注視していきたい。

 

 

注目の動き

オミクロン株の分析状況             OPECプラスの動向                            

テーパリングの動向                             欧州の天候とガス価格


CFTC建玉明細 

[出所:CFTC(米商品先物取引委員会)]

CFTC建玉明細 グラフ

 

WTI当業者ポジション

 

WTIポジション ファンド ヘッジャー 小口投資家

 

CFTC建玉明細(11/ 23現在)ファンド玉は、407,657枚の買い越し(先週比-11,636枚)
ファンドの買い越し玉は、先々週は減少。
*今回の原油上昇はファンドの買い越しよりも当業者のヘッジ売りが増加しないことが主因といえるので、参考までに当業者の売り越し玉もチャートに作成。


コーヒーブレイク

前回、OPEC OAPECに触れたので、OPECと価格決定権について。

原油価格の決定権の変遷(1)

メジャーの支配 ~1950年代

セブンシスターズ」と呼ばれる欧米の国際石油資本(メジャー)が世界の石油資源や石油市場を独占していました。当時は、メジャーが原油の公示価格を設定して原油収入を産油国と折半していました。1950年代末には大油田の発見などで需給が緩み、原油の実勢価格が公示価格を下回るようになると、この実勢価格の下落分を被るメジャーは、1959年と1960年の2度にわたって一方的に公示価格を引き下げました。
これに対し産油国であるイランやイラクなどは、メジャーに対抗するため、1960年9月にOPEC(石油輸出国機構)を設立しました。

 

オイルショックとOPEC(石油輸出国機構)の台頭

第四次中東戦争勃発で緊張が高まる中、1973年10月17日、緊急会議を開いたアラブ石油輸出国機構(OAPEC)は、イスラエルを支援するアメリカとオランダへの原油輸出停止と、非友好国に対する輸出制限を発表しました。これにより、アメリカは国連安保理で停戦決議を急ぎました。これがオイルショックです。これに前後して、OPECも原油価格の引き上げを決定し、74年1月までに原油価格は4倍になりました。
これまで安価な石油で工業化を進めてきた西側先進諸国の経済は大打撃を受け、各国は戦後初のマイナス成長を記録しました。その結果、OPECは世界の石油市場における地位を確立することとなりました。
この石油危機により、原油価格の決定権がメジャーからOPECに移りました。
ただし、当時の石油市場は供給過剰状態であり、たとえOPECが原油価格を引き上げてもOPEC以外からの供給で需要が賄えた為、あまり成果を上げられませんでした。
しかし、70年代に入ると状況は一変します。西欧や日本が高度経済成長を遂げると共に石油需要は急増し、需給が逼迫しつつありました。

 

逆オイルショック 1985年

こうして石油価格の決定権を握ったOPECは、加盟各国に生産枠を割り当て、最大の生産能力を持つサウジアラビアが「スイングプロデューサー」という需給調整役を務める事で、価格を維持しました。
ところが、OPEC加盟国には生産枠を守らずに密かに増産する国も多く、サウジアラビアだけが減収を余儀なくされました。これに耐えられなくなったサウジアラビアが「ネットバック価格」による原油販売を開始して増産に転じました。サウジアラビアの政策転換は、1986年に入って、競争力を回復した同国の原油が市場を拡大するとともに、歯止めを失った原油価格は全面安の状況となりました。消費地における石油製品販売価格から逆算して原油価格を定めるネットバック方式の採用は、政治的に決定されていた原油価格に市場原理を導入するという画期的な意味をもっていました。また、原油供給過剰下において石油製品市況は低迷していたので、ネットバック価格はそれまでの公式販売価格を下回りました。

世界的に石油需要が減少した中で、それまで価格維持のために単独でも「スイングプロデューサー」として生産調整を行ってきたサウジアラビアが、その役割を放棄し、増産したことで原油価格の暴落を招いたのです。さらに1988年当初から、特定原油のスポット価格の動きに期間契約価格を連動させる、「スポット価格連動方式」が採用され始めました。

この逆オイルショック以後、原油価格の決定権は市場に移っていきました。

原油価格の推移

出所:石油連盟編「今日の石油産業2018」



【筆者】
原 悠(はら はるか)

2000年より原油及び石油製品全般のトレードに携わる。 
ファンダメンタルズをベースに市況を分析してく。


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