米雇用統計は悪くない!? 長期金利の低下は思惑的な動き?

2021/12/04 10:05

ファンダメ・ポイント

【ポイント】
・11月雇用統計はNFPが前月比21.0万人増と弱め
・賃金や失業率などからみて、労働市場は良好
・14-15日のFOMCでテーパリング前倒しも
・米長短金利差は一段と縮小、米ドル/円の重石に

米国の11月雇用統計はNFPが市場予想を大きく下回るなど軟調でした。しかし、賃金や総所得、失業率などからみて、労働市場の状況は比較的良好と言えそうです(後述)。そのため、オミクロン株によって先行きの不透明感は増しているものの、12月14-15日のFOMCでテーパリングの前倒しが決定される可能性が高そうです。

雇用統計を受けて米長期金利は低下、長短金利差は縮小しました(イールドカーブはフラットニング)。それも手伝って、米ドル/円は112円台に下落。株価も総じて軟調でした。

11月雇用統計は労働市場の良好を示唆
11月の米雇用統計は、NFP(非農業部門雇用者数)が前月比21.0万人増と、市場予想(55.0万人増)を大きく下回りました。NFPの過去3カ月平均は37.8万人増となり、これは筆者が独自に算出した、22年半ばに最大雇用を達成するペース(42.0万人/月)を今年2月以来初めて下回りました。

10月15日付け「米FRB利上げの条件、最大雇用とは?」をご覧ください。

米雇用統計 NFP

ただし、その他の中身は比較的良好でした。時間当たり賃金は10月から0.3%上昇、前年比では4.9%上昇と、10月と同じ伸びでした。1日に発表されたベージュブック(地区連銀経済報告)でも、ほぼ全ての地区で賃金の大幅上昇が報告されました。

米雇用統計 時間当たり賃金

<雇用者数×週平均労働時間×時間当たり賃金>で求められる総賃金指数は、前月比0.7%増。前年比では9.5%増で10月と同じ。高いインフレ率(10月PCEは前年比5.1%)を勘案しても、引き続き力強い消費を支えることが可能なペースでしょう。

米雇用統計 総賃金指数

以上が事業所調査の結果です。家計調査の結果は以下(事業所調査と家計調査については◆キーワード)。

失業率は4.2%と、10月の4.6%から低下。今年1月の6.3%と比べても大きく低下しています。失業率は、労働力人口[=雇用者+失業者]が前月比59.4万人増、雇用者が同113.6万人増、失業者が同54.2減の結果でした。失業率はほぼ最大雇用とみなせる4.0%(FOMC参加者の長期見通しの中央値)に急速に接近しています。

労働参加率[=(雇用者+失業者)/生産年齢人口]は61.8%と10月の61.6%から小幅上昇。ただし、コロナショック前の63%台には及びません。このため、労働市場の改善の余地は大きい(より多くの人が労働市場に参入できるはず)との声はあります。ただし、労働参加率の低下は、保育サービスの減少や健康被害への懸念だけでなく、高齢者の引退や労働スタイルの変化などを反映している可能性もあり、コロナ前の水準には戻らないかもしれません。

FOMCではテーパリングを前倒しへ?
ここもとFOMC関係者は、テーパリングをスピードアップしてQE(量的緩和)の終了を当初想定の「22年半ば」から前倒しすることを強く示唆してきました。これは早い段階で利上げするための準備というより、早期利上げが必要になった場合に備えてフリーハンド(自由裁量)を確保するためだと考えられます(FOMCの共通認識は、利上げ開始にはQE終了が前提)。

そのため、雇用統計を受けてもフリーハンドを確保したいとのFOMCの考えに大きな変化はないかもしれません。事実、雇用統計発表後に、セントルイス連銀のブラード総裁は「ヘッドラインの数字(NFPのこと)を除けば、雇用統計は非常に強い」「失業率は近いうちに4%を下回るだろう」などと述べ、引き続きテーパリングの前倒しを示唆しています。

イールドカーブはフラットニング
雇用統計の発表を受けて、米長期金利(10年物国債利回り)はNFPに反応して一瞬低下しましたが、すぐに反発。しかし、その後に下げに転じて1.3%台半ばまで低下しました。これは9月22日のFOMCの結果や翌日のBOE(英中銀)の結果を受けてテーパリングや利上げ観測が強まる前の水準です。感謝祭以降、オミクロン株の出現もあって、流動性の低いなかで思惑的な動きが強まっている可能性があります。

一方、短期金利(2年物国債利回り)も類似の動きでしたが、長期金利ほど低下しなかったため、長短金利差は縮小(イールドカーブはフラットニング)して過去1年間で最小となりました。FRBが利上げを続ける一方で、景気は減速してインフレは落ち着くとの予想を反映するような動きです。

米国長短金利差

もっとも、早い段階でオミクロン株の弱毒性が判明するなど、米経済への悪影響が限定的との見方が強まるかもしれません。その場合、景気堅調・インフレ高止まりのなかでFRBが慎重に利上げを続けるとのシナリオのもとで、長期金利が上昇(イールドカーブがスティープニング)して米ドルのポジティブ材料となる可能性がありそうです。

※イールドカーブについては、3日のM2TVグローバルView[米ドル/円の見通し~米金融政策とイールドカーブ~]をご覧ください。

◆キーワード
事業所調査と家計調査:
事業所調査(establishment survey)は約40万カ所の事業所を対象とした調査。給料のデータをもとに、雇用者数、労働時間、賃金などが発表される。NFP(non-farm payroll)のPayrollは給与支払い簿のこと。家計調査(household survey)は、約6万世帯の家計を対象にしたアンケート調査。当該月の一定期間に「仕事をしたか」「(しなかった場合に)職探しをしたか」、回答者の属性(年齢や人種など)を尋ねるもの。失業率や労働参加率などが発表される。
いずれの調査も、対象期間は当該月の12日を含む1週間。事業所調査は支払った給料の数を雇用としてカウントするため、重複を避ける目的がある(週給制が多いから)。

事業所調査と家計調査は全く異なる調査なので月々の結果が違った方向を示す場合もあるが、やや長い期間を通してみれば同じ方向を指す。

【追記】
21年11月の事業所調査のNFPと家計調査の雇用者数は大きくかい離しました。21年6月には逆方向のかい離もありました。ただし、21年1-11月の平均をみれば、前者は55.5万人増/月、後者は48.6万人増/月。19年1月-21年11月の平均は、前者が3.6万人減/月、後者が4.5万人減/月とかなり接近します。
NFP非農業部門雇用者数と家計調査の雇用

執筆者プロフィール
西田 明弘(にしだ あきひろ)
チーフエコノミスト
日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガンスタンレー証券などを経て、2012年マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。
米国を中心とした各国のマクロ経済・金融政策・政治動向の分析に携わる。
「アナリスト、ストラテジスト、エコノミスト、研究員と呼び名は変われども、30年以上一貫してリサーチ業務を行ってきました。長い経験を通じて学んだことは、金融市場では何が起きても不思議ではないということ。その経験を少しでも皆さんと共有したいと思います。


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