米ベージュブック、サプライチェーン障害と労働力不足が継続

2021/12/02 07:27

ファンダメ・ポイント

【ポイント】
・供給側の要因が経済成長を抑制し、インフレ圧力を高めている
・パウエルFRB議長は「政策調整」を実施する意向を表明
・イールドカーブはインフレの落ち着きを示唆!?

1日公表のベージュブック(地区連銀経済報告、◆キーワード)では、サプライチェーン障害や労働力不足など供給側の要因が経済成長を抑制する一方で、インフレ圧力を高めていることが引き続き指摘されました(後述)。

FRBのパウエル議長は30日、前日の上院銀行委員会に続いて下院金融サービス委員会で証言を行いました。議長は、「足もとの高インフレはコロナに関連した要因が関係している」と指摘しつつ、「ただし、経済のより多くの分野に広がっており、高インフレが長期化するリスクは明らかに高まった」との判断を示しました。そのうえで、「金融政策はそうした状況に適応してきたし、今後も適応する」と述べ、金融政策を調整する意向を表明しました。直接的に利上げを意味したわけではないでしょうが、少なくとも次回12月14-15日のFOMCではテーパリング(量的緩和の段階的縮小・終了)の前倒しが真剣に議論されそうです。

FRBは市場からの信任を維持!?
先週25日以降、イールドカーブ(利回り曲線)の平たん化(=長短金利差の縮小)が目立っています。パウエル議長を含めFRB関係者がテーパリングのスピードアップを示唆したことで、市場では利上げ前倒しの観測が強まり短期金利(2年物国債利回り)に上昇圧力が加わる一方で、オミクロン株の出現によって景気先行きの不透明感が強まったことが長期金利(10年物国債利回り)を押し下げているようです。また、インフレが先行き落ち着く、とりわけFRBが躊躇せずにテーパリングや利上げを行うことでそれが実現すると市場が期待しているとの見方もできるでしょう。

米長短金利差 イールドカーブ

イールドカーブ変化の意味
もっとも、FRBがかなり難しい舵取りを求められるのは間違いなく、市場からの信任を保ち続けることができるのか、要注目です。FRBがインフレ抑制に失敗すると市場に判断されれば、長期金利上昇してイールドカーブはスティープニングする(=右上がりの傾きが急になる)でしょう。逆に、FRBが景気を締めすぎると判断されれば、イールドカーブは過度にフラットニング(平たん化)し、さらには逆イールド(右下がり=長短金利の逆転)になるでしょう。

◆ベージュブック
総括:
米ベージュブックによれば、「10月から11月上旬にかけて経済活動は緩やか、あるいはわずかに成長」した。いくつかの地区では、需要は強いものの、サプライチェーン障害や労働力不足が経済成長を抑制した。個人消費に関しては在庫不足、とりわけ自動車の不足により一部の商品の売り上げが抑制された。建設業や製造業でも、サプライチェーン障害、原材料や労働力の不足が見受けられた。先行きについて多くの地区で楽観視されていたが、サプライチェーン障害や労働力不足がいつ緩和されるか不透明だとの指摘があった。

米ベージュブック

雇用と賃金:
雇用は、わずか~力強く増加。労働力に対する強い需要があったが、新規採用や従業員の引き留めが困難な状況が続いた。主に、育児、引退、コロナが制約要因となっていた。ワクチン接種の義務化が状況をさらに難しくするとの懸念もあった。ほぼ全ての地区で賃金は大幅に上昇した。

物価:
幅広い業種で緩やか~強い価格上昇がみられた。様々な投入価格が上昇、一方で強い需要を背景に企業はあまり抵抗なく値上げをすることができている。半導体や鋼材など一部の投入財は供給が増加しており、価格上昇圧力の低下につながっている。

◆キーワード
ベージュブック(地区連銀経済報告):
FRBの傘下にあり、全米を12地区に分けて管轄する連邦準備銀行(地区連銀)が、管轄地区の経済情勢について企業や小売店などに聞き取り調査を行ったもの。年8回、FOMCの約2週間前に公表され、FOMCで金融政策を検討する際の参考にされる。地区連銀が持ち回りでとりまとめを行う。日銀のさくらレポートはこれに類似している。

執筆者プロフィール
西田 明弘(にしだ あきひろ)
チーフエコノミスト
日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガンスタンレー証券などを経て、2012年マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。
米国を中心とした各国のマクロ経済・金融政策・政治動向の分析に携わる。
「アナリスト、ストラテジスト、エコノミスト、研究員と呼び名は変われども、30年以上一貫してリサーチ業務を行ってきました。長い経験を通じて学んだことは、金融市場では何が起きても不思議ではないということ。その経験を少しでも皆さんと共有したいと思います。


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