トルコリラ安に思う、全ては中銀総裁解任から始まった

2021/11/24 07:30

ファンダメ・ポイント

【ポイント】
・リラは23日に一時15%超下落
・中銀声明もリラ安の歯止めにならず?
・金融政策は大統領の意のまま
・中銀が市場の信用を取り戻す日は来るのか

トルコリラ安に歯止めがかかりません。エルドアン大統領は22日の閣議終了後に、インフレ抑制の名の下での高金利や通貨高の政策を放棄し、投資、輸出、雇用創出を優先目標とする旨の発言を行いました。

大統領発言を受けて、23日の欧米市場でトルコリラは下げ足を速め、一時対米ドルで13.4539リラ、対円で8.401円の最安値をつけました。いずれも前日終値比15%超の下落でした。

◆トルコリラ/円のテクニカル分析については、本日の『テクニカル・ポイント』[トルコリラ/円、一時9円台割れを示現!]をご覧ください。

トルコリラが急落するなか、エルドアン大統領とカブジュオールTCMB(トルコ中銀)総裁が会談したとの報道がありました。また、TCMBはリラの過大な変動を警告する声明を発表しました(下記)。ただし、声明はリラ安を阻止しようとの強い意志が感じられない内容でした。リラはいったん下げ止まっているものの、引き続き安値圏で推移しており、先行きの予断を許さない状況です。

TCMBの声明:
「TCMBは変動相場制を採用しており、特定の為替レートの水準にはコミットしていない。為替レートは自由市場における需要と供給によって決定される。特定の条件の下でTCMBは過度な変動に対して市場介入する可能性はあるが、それは相場の方向性を目標にするものではない。外為市場におけて、不健全な相場形成が観測されており、それは非現実的であり、経済ファンダメンタルズから完全にかい離している。

TCMBはトルコ企業や市民に対して、非常に変動の大きい状況下で経済ファンダメンタルズから完全にかい離した価格で取引を行うことで損失が発生する可能性について警告する必要があると判断した」

発端は中銀総裁の解任
トルコリラは対米ドルで年初来42%下落しており、主な新興国通貨の中でも飛び抜けて下げ幅が大きくなっています(下げ幅2番目はアルゼンチンペソで16%の下落)。そして、リラの下落の全てが3月22日以降に起こっており、アーバル総裁の解任に端を発しています。アーバル総裁は20年11月の就任後に大幅な利上げを敢行してそれまでのトルコリラ安を反転させましたが、3度目の利上げ直後に在任4カ月で解任されました。そして、利上げに対して批判的だったカブジュオール氏(元与党議員、エコノミスト、コラムニスト)が後任に指名されました。

※詳細は3月21日付け「【緊急版】トルコ中銀総裁解任! 週明けのトルコリラは乱高下も!?」をご覧ください。

カブジュオール総裁が最初の利下げを行ったのが9月23日。以降、3会合連続で計400bp(ベーシスポイント=1/100%)の利下げを実施しました。就任から最初の6カ月間は政策金利を据え置きましたが、その間にエルドアン大統領から強い利下げ圧力があったことは想像に難くありません。

トルコリラ反転の条件
トルコリラの下落が急スピードだったことで、自律的な反発やそれに伴うポジション調整が起こる可能性はあるでしょう。もっとも、リラ安の根本原因はTCMBに対する市場の信用失墜です。一度傷ついた信用を取り戻すのは容易ではないでしょう。現在のTCMBにリラを反転させようとの強い意志や能力があるようには見えません。

だとすれば、インフレ率が19.89%(10月CPI前年比)から大幅に低下して、現在の政策金利の水準や追加利下げを正当化するまで待つ必要があるのかもしれません。しかし、足もとのリラ安がインフレ率を押し上げる可能性が高く、そうした状況が実現するとしてもかなり長い時間がかかりそうです。

トルコリラのインプライド・ボラティリティ(予想変動率、対米ドル、1カ月)は今年3月を超えており、引き続き大きな相場変動に備える必要がありそうです。

トルコリラのインプライド・ボラティリティ 対米ドル 1カ月

執筆者プロフィール
西田 明弘(にしだ あきひろ)
チーフエコノミスト
日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガンスタンレー証券などを経て、2012年マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。
米国を中心とした各国のマクロ経済・金融政策・政治動向の分析に携わる。
「アナリスト、ストラテジスト、エコノミスト、研究員と呼び名は変われども、30年以上一貫してリサーチ業務を行ってきました。長い経験を通じて学んだことは、金融市場では何が起きても不思議ではないということ。その経験を少しでも皆さんと共有したいと思います。


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