円、一人負けの様相!?

2021/10/12 08:35

ファンダメ・ポイント

【ポイント】
・足もとでは「米ドル高」というより「円安」
・背景の1つは日本政治の不透明感か
・多くの中央銀行が正常化を模索、日銀は置いてけぼり
・金融政策の差から円に下押し圧力が加わりやすそう

週明け11日の外国為替市場で、米ドル/円が大きく上昇、18年12月以来となる一時113.369円をつけました。8日の米雇用統計の発表後も「11月FOMCでテーパリング」との見方が優勢で米長期金利の先高感が強まったこと、11日が米国の祝日(コロンブスデー、株式市場はオープン)で薄商いのため動きを増幅されたこと、などが背景として考えられます。

11日配信のウィークリー・アウトルック「米デフォルト回避へ、中国恒大は心理悪化要因」で、「今週の米ドル/円は、上下双方向にやや変動の大きい展開を予想」し、レンジを「110.000円~113.500円」としました。米ドル/円はわずか1日で予想レンジ上限に届きそうな勢いです。ただし、「上下双方向」に変動が大きいと予想しました。急ピッチな上昇の反動や、中国発(※)のリスクオフの可能性にも引き続き注意は必要でしょう。
(※)恒大集団は11日の米ドル建て債利払い1.48億ドルも履行しなかった模様です。


「米ドル高」でなく「円安」!?
もっとも、11日は「米ドル高」というより「円安」でした。円は主要通貨に対して全面安でした。実は10月に入って円は「一人負け」の様相を呈しています。Bloombergが集計する主要17通貨(米ドルを含む)の中で、円は9月30日-10月11日の騰落率が最下位でした(※)。上位(米ドルより上)に豪ドルやカナダドル、NZドルが並んでいるので、相応のリスクオン相場だと言えそうです。
(※)トルコリラを含む拡大主要32通貨の中でも、同期間に円は最下位。

主要通貨の対米ドル騰落率   

足もとの「円安」の背景の1つは、タイミングからすると日本の政治の不透明感でしょう。岸田政権の金融所得税に関する迷走ぶりや、数十兆円の財政出動を公約しながらも財政緊縮派に主導権を握られるとの懸念、加えて衆議院選挙後に求心力が一気に低下する可能性(政権交代はさすがにないでしょうが)などが指摘できそうです。

より大きいのは金融政策の方向性の違いかもしれません。主要な中央銀行がコロナ対応の強力な金融緩和からの正常化を模索するなかで、日銀の姿勢に大きな変化はみられないからです。

置いてけぼりの日銀!?
9月29日に開催されたECBフォーラムでは、パウエルFRB議長やラガルドECB総裁がインフレは一時的としつつも、その長期化に懸念を表明しました。また、ベイリーBOE(英中銀)総裁は近々利上げが必要になる可能性に言及しました。そうしたなか、黒田日銀総裁は自身の任期中(23年4月まで)に2%の物価目標は達成できないとの見通しを示して極端な金融緩和を継続する意向を表明、他の中銀との立場の違いを浮き彫りにしました。

実は、4年前にも類似のケースがありました。17年6月のECBフォーラムでも、金融政策の正常化がテーマになるなか、黒田総裁は「出口の議論は時期尚早」との姿勢を堅持しました。

17年6月30日のマイナビニュースへの寄稿「ECBフォーラムで浮き彫りになった、日銀の『置いてけぼり』感」で結論は以下の通りでした。今回もほぼ同じです。

以上の状況をレースに例えると、先頭を走るFRBに対して、BOEやBOC(カナダ中銀)が追いかける展開であり、ECBは周回遅れ、日銀はさらに1周、あるいは数周の周回遅れと言えるかもしれない。

ECBフォーラムで浮き彫りになったのは、他の中央銀行の利上げ(金融緩和の解除)の観測が高まる局面では、日銀の「置いてけぼり感」が強まるということだろう。これはすなわち、為替市場においては円安圧力が強まり易い局面と言えるかもしれない。

執筆者プロフィール
西田 明弘(にしだ あきひろ)
チーフエコノミスト
日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガンスタンレー証券などを経て、2012年マネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。
米国を中心とした各国のマクロ経済・金融政策・政治動向の分析に携わる。
「アナリスト、ストラテジスト、エコノミスト、研究員と呼び名は変われども、30年以上一貫してリサーチ業務を行ってきました。長い経験を通じて学んだことは、金融市場では何が起きても不思議ではないということ。その経験を少しでも皆さんと共有したいと思います。


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