FX投資判断インディケーター」の使い方・前編


M2JFX アカデミア学長
吉田 恒

今回から前後編の2回にわたり、先週リリースした「FX投資判断インディケーター」の使い方解説をレポートします。

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前編の今回は、(1)90日移動平均線からの乖離率(2)5年移動平均線からの乖離率(3)120日移動平均線 について解説します。

(1)90日移動平均線からの乖離率=短期的な割高、割安を確認する

90日移動平均線からの乖離率は、主な相場の短期的な行き過ぎを点検する上で役に立ちます。今年それが大活躍するところとなったのは、いわゆる「アベクロ円安、株高」が反転するきっかけとなった円金利の急騰と株の急落について、予め警鐘が得られたことでした。

4月、黒田日銀総裁による異次元の緩和、「黒田緩和」決定を受け、日本の金利、長期金利である10年債利回りは一時過去最低を更新し0.4%割れとなりました。ところが、この段階で、この日本の10年債利回りの90日線からの乖離率はマイナス30%近くまで急拡大したのです≪資料1参照≫。

≪資料1≫日本の10年債の90日線からの乖離率(1990/1~)

(Bloombergより作成)

過去、この乖離率がマイナス30%前後まで拡大したのは、1998年10月、2003年6月の2回しかありませんでしたが、ともにその後は金利の急反騰が起こりました。要するに、同乖離率のマイナス30%前後までの拡大は、金利の異常な下がり過ぎの可能性を示しており、その行き過ぎが一巡した後は、反動から金利急反騰が起こる可能性が予測できたわけです。

実際、その後「黒田緩和」にもかかわらず、日本の長期金利は急騰に向かい、それが「アベクロ円安、株高」にブレーキをかける一因となったわけです。

ところで「アベクロ株高」については、それ自体が行き過ぎの限界を超えて、いつ反転してもおかしくないことを、やはりこの90日線からの乖離率で予め認識することができました。

日経平均の90日線からの乖離率は、5月にかけてプラス20%を大きく上回りました≪資料2参照≫。これは過去最大のプラス乖離率拡大でしたから、短期的に株高が異常なほど行き過ぎた動きになっている可能性を示していたわけです。実際、その後日経平均株価は約2割もの暴落となりました。

≪資料2≫日経平均の90日線からの乖離率(1990/1~)

(Bloombergより作成)

こんなふうに、株や金利についても、短期的な行き過ぎを点検する上で参考になるのがこの90日移動平均線からの乖離率です≪資料3参照≫。為替の場合は、ほとんどの通貨ペアにおいて、この乖離率は±10%の範囲内で動くのが基本です。逆にいえば、それを超えると、短期的な上がり過ぎ、下がり過ぎ警戒域に入っている可能性を確認することができます。

相場は行き過ぎることがしょっちゅうあります。だから為替の場合でも、乖離率が±10%以上に拡大し、経験的には行き過ぎ圏に入ってもすぐに相場が反転せず、しばらく続くこともあります。その極端な例が「バブル」です。

今回は、このWEBサイト上でカーソルを当てると、過去において極端に乖離率が拡大したケースがいつだったかが確認できるように作りました。これによって、その「異常値」が発生したのがどのような局面だったかを調べることが可能になります。

そしてその局面と現在では何が同じで何が違うのかを考えるようになると、この90日線からの乖離率が単なる機械的なツールではなく、一歩踏み込んだ分析、予測を可能にする力強い味方になるでしょう。

もちろん単に機械的なシグナルとしてもある程度は活用できます。たとえば、乖離率が±10%以上に拡大した行き過ぎた相場が一巡した後の修正局面は、「振り子の原理」が働くように、最低でも90日線まで戻るのが基本です。これを参考にすると、行き過ぎた相場の修正の動きについてある程度のシナリオを想定することが可能になります。

≪資料3≫ドル円の90日線からの乖離率(1990/1~)

(Bloombergより作成)

また、中期のトレンドに対し、90日線からの乖離率は行き過ぎが発生しやすいし、逆に中期のトレンドに逆行する動きで、為替の場合ならこの乖離率が±10%以上に拡大することは少ないということも、覚えておけば参考になるでしょう。

何よりも、一方向に大きく動く相場は、市場参加者も興奮し、現状の位置確認ができなくなりがちでしょう。ただ冷静に考えれば、無限に永遠に続く相場などないわけですから、一方向への動きが広がるほど、それは行き過ぎた動きの限界に近付いているということになります。その客観的な状況確認をすることこそ、この90日線からの乖離率の最大の特徴なのです。

(2)5年移動平均線からの乖離率=中長期的な割高、割安を確認する

90日移動平均線からの乖離率が短期的な相場の行き過ぎを点検する上で参考になるのに対し、5年移動平均線からの乖離率は、中長期的な相場の行き過ぎを確認する上で参考になります

それが今年大活躍したのは豪ドルの対円での急反転に際してでしょう。豪ドルは今年に入り、一時2008年以来の100円の大台突破となりました。ただこの局面で、この5年線からの乖離率はプラス20%以上に拡大したのです≪資料4参照≫。

≪資料4≫豪ドル円の5年線からの乖離率(1990/1~)

(Bloombergより作成)

過去の実績を見ると、同乖離率が±20%以上に拡大したケースは少なかったことがわかります。逆にいえば、乖離率が±20%以上に拡大した局面は中長期的に豪ドルが「上がり過ぎ」または「下がり過ぎ」になっている可能性を示しています

豪ドルは結果的に春以降100円を割れると急落に向かいました。5年線からの乖離率で中長期的に上がり過ぎの限界圏に達していることを確認していれば、大きな相場の転換期において致命的な判断ミスを回避する一助になったでしょう。

この5年線からの乖離率が、ある意味では今年の豪ドル円以上に効力を発揮したのは2012年のユーロ相場の大反転のケースでしょう。延々と続く欧州債務不安の中で、2012年のユーロはついに100円の大台を割り込むところまで下落しました。ただそれでもまだまだユーロ安の「通過点」に過ぎないといった具合に、絶望的な悲観論がむしろ普通だったのです。

しかしそういった中で、ユーロ円の5年線からの乖離率はマイナス20%以上に拡大していました≪資料5参照≫。過去の実績を見ると、乖離率が±20%以上に拡大した例は少なく、とくにユーロ円の場合、乖離率がマイナス30%以上に拡大したことはなかったので、その意味では「下がり過ぎ」の限界圏に達していた可能性があったわけです。

結果的にユーロは、2012年7月に100円割れの水準で底打ち、反発に転じるとその後は一気に130円を上回るまで大幅上昇に向かいました。大幅なユーロ高・円安は、いわゆる「アベノミクス」をきっかけとした記録的な円安に後押しされた影響が大きかったでしょう。ただ、あの2012年の「ユーロ絶望論」一色の中で、ユーロの底打ち、反発リスクを予め意識するという意味では、5年線からの乖離率は最高の手掛かりになったわけです。

≪資料5≫ユーロ円の5年線からの乖離率(1990/1~)

(Bloombergより作成)

短期的な相場循環と異なり、中長期の相場の転換は、「この先何年にも渡って二度と出会わない水準で売り買いする」といった致命的な判断ミスにつながる危険があります。あなたは、自分ならそんな致命的判断ミスはしないと自信がありますか。

ただ、これまで述べてきた2012年のユーロ反発、2013年の豪ドル反落などを予見するのは決して簡単なことではなかったでしょう。

その参考になったことこそが、この5年線からの乖離率の特徴です。とりわけ、「資産の運用としてのFX」といった考え方のある投資家の方々は、一定の周期で確認することで役に立つのではないでしょうか。

(3)120日移動平均線=相場の主導役、HF売買転換点の目安

この120日移動平均線は、これまで述べてきた90日、5年といった2つの移動平均線が乖離率に注目したのと異なり、移動平均線の数字自体をまず注目します。なぜなら、この120日線は、金融市場のリードオフマン的存在であるヘッジファンドの売買転換点とかなり一致してきたからです。

ヘッジファンドの中でも、システム売買を行うモデル系ファンドは、この120日線が売買判断の目安になっているという話をある金融関係者から聞いたことで、実際にこの後ご紹介するヘッジファンドの取引を反映しているCFTC統計のポジションと照合したところ、確かに概ねその通りであることが確認されました≪資料6、7参照≫。

≪資料6≫ドル円と120日移動平均線(2010/1~)

(Bloombergより作成)

≪資料7≫投機筋の円ポジション(2010/1~)

(Bloombergより作成)

単純な言い方をすると、たとえばドル円の場合なら、120日線をドルが上回るとモデル系ファンドはドル買い、120日線をドルが下回るとドル売りということが、実績的にほぼ確認されてきたのです。

この120日線が効果覿面になったのは、記録的なドル高・円安となった「アベノミクス円安」でした。ドルは2012年10月に120日線を完全に上回る動きとなりました。すると、CFTC統計では円売り越し(米ドル買い越し)拡大が始まったのです。

以来、ドルは2013年6月まで120日線を上回る状況が続きました。その中で、CFTC統計の円売り越し、米ドル買い越しも記録的拡大が続きました。2012年10月から2013年5月にかけて8ヶ月連続で103円までドル高・円安となった動きこそが「アベノミクス円安」とされたわけですが、以上のように見ると、それはヘッジファンドの「120日線トレード」によって主導されたものだったといえそうです。

ところで興味深いことに、これまで私が調べたところでは、この120日線トレード」は、ドル円以外、ユーロドル、豪ドル米ドルでもある程度参考になりそうです≪資料8、9参照≫。ということは、120日線の水準を確認することで、相場の主導役を担うことの少なくないヘッジファンドの売買戦略をある程度想定し、参考にすることができるわけです。

≪資料8≫ユーロドルと120日移動平均線(2010/1~)

(Bloombergより作成)

≪資料9≫投機筋のユーロ・ポジション(2010/1~)

(Bloombergより作成)

ちなみに、「アベノミクス円安」では、120日線からの乖離率が一時プラス10%以上に拡大しましたが、これは過去の実績を見ると少ない例です≪資料10参照≫。たとえば、ユーロドルの場合は2010年のギリシャ危機でのユーロ急落局面でやはり120日線からの乖離率がマイナス10%以上に拡大しましたが、これらは例外的な大相場といえます。

普通は、120日線を安定的に上回るまたは下回る中で、乖離率は±5-10%程度まで拡大するのが限度です。それを参考にすると、ヘッジファンドの「120日線トレード」でいくらを目標に相場が展開するかのシナリオをイメージすることが可能になります。(後編に続く)

≪資料10≫ドル円の120日線からの乖離率(1990/1~)

(Bloombergより作成)

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