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今月の特集

米国の予算制度、トランプノミクスの減税やインフラ投資はいかにして実現するか

2017年03月

はじめに

トランプ大統領が就任早々から大統領令を連発して、TPP交渉からの離脱、メキシコ国境の壁建設、移民・難民の流入規制など選挙公約の実現に向けて動き出した。大統領令は行政令の一種で、議会の承認は必要なく、あくまで既存の法の範囲内でその運用や適用にガイドラインを設けるものだ。

これに対して、トランプ大統領の経済政策、いわゆるトランプノミクスの柱である所得税や法人税の減税、インフラ投資などは議会による立法化が必要であり、主に予算編成の過程で検討されることになる。以下では、米国の予算制度を概観して、トランプノミクスがいかにして実現するかを考察しておきたい。

米国予算制度の概要

歳出の内訳

予算とは主に歳出予算を指す。歳出は裁量的支出と義務的支出に大別される。裁量的支出は年度ごとに議会が12本の分野別の歳出法によって支出を決定するもので、最大のものが国防支出である。インフラ投資も主に裁量的支出である。義務的支出は、別の法律に基づいて自動的に支払い義務が発生するもので、公的年金である社会保障、高齢者向け医療保険などがある。国債の利払いも広義の義務的支出に分類される。

税制改革など

一方、歳入は、所得税、社会保障税、法人税などの税制に基づく税収が中心となる。予算編成において、税制の変更は必ずしも必要ないが、財政収支(=歳入-歳出)を一定額に誘導するため、あるいは経済政策の一環として、歳出を中心とした予算編成と並行して税制改革が進められることもある。トランプノミクスの減税はこのケースに該当しそうだ。

社会保障制度や税制などの変更は、当該年度だけでなく、次年度以降の歳出入にも影響を与えるため、それらの影響を考慮したうえで検討される。

会計年度とは

米国の会計年度は前年の10月1日からの1年間である。トランプ大統領が初めて管轄するのは、2017年10月に始まる2018年度予算である。

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予算編成のプロセス

予算教書の発表

通常、大統領は2月上旬に予算提案である予算教書を発表するが、新大統領の場合は遅れるケースがしばしばだ。トランプ大統領は2月下旬に議会で所信表明演説(例年の一般教書演説とほぼ同じ)を実施するとの報道もあるが、その時点で2018年度予算教書が発表されているかどうかは不透明だ。
なお、オバマ大統領が最初の予算教書を発表したのが、2009年2月26日。ブッシュ(ジュニア)大統領のそれは2001年4月9日だった。

議会での審議開始

予算教書の発表を受けて、議会での審議が開始される。まずは、4月15日をメドに、歳入・歳出の大枠を決める予算決議が採択される。予算決議は大統領の署名を必要とせず、法的拘束力はほとんどない。あくまでも、予算の設計図のイメージだ。

予算決議を基に、12本の歳出法案が審議される。そして、必要に応じて社会保障制度や税制の変更を盛り込んだ予算調整法案が審議される。予算関連法案は他の法案と同様に、下院と上院で同一のものが可決されなければならない。内容の異なる法案が可決された場合は、両院評議会において一本化されたうえで、その修正法案が両院で可決される必要がある。

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政府機関の一部閉鎖

議会を通過した法案は、大統領の署名を得て発効する。10月1日を過ぎても歳出法案が立法化されなければ、議会は当面の経費を賄う継続予算を採択する。議会が採択に失敗したり、大統領がこれに拒否権を発動したりすれば、政府の機能は緊急性の高いものを除いて停止する。政府機関の一部閉鎖は過去に何度か発生している。最近では、オバマ政権下の2013年10月1日-16日に起こった。

2017年度は本予算(歳出法案)の一部が成立せず、継続予算が成立したが、それも2017年4月28日に期限切れとなる。そのため、議会は2018年度予算と並行して、2017年度の残り約5か月の予算措置を講じる必要がある。

デットシーリング(債務上限)

予算とは別に、議会は連邦政府の債務残高に上限を定めている。政府による野放図な債務拡大に歯止めをかけるためだ。政府はデットシーリングを超えて新しい債務を作ることはできない。このため、議会はデットシーリングを段階的に引き上げてきた。債務が上限に達したのち、その引き上げが遅れれば、政府はデフォルト(債務不履行)に陥ることになる。国債の利払いは新規の債務であるため、債務が上限に達した時点で利払いができなくなるためだ。

現在(2/14)、デットシーリングは効力が停止されているが、3月16日に復活する。その時点の債務残高が上限となるため、現行制度のままではそれ以降、政府は新たな債務を負うことはできない。

議会は継続予算やデットシーリングを政権と交渉するためのバーゲニングチップとしてきたが、政府機能の停止やデフォルトの危機に際して、有権者は政権ではなく議会を責める傾向がみられた。

フィリバスター

野党は与党への抵抗戦術として、延々と演説を続けることで採決を遅らせるフィリバスターと呼ばれる妨害を行うことが可能だ。フィリバスターは上院だけに認められている(下院では審議時間に制限がある)。ただし、上院100議席のうち60議席以上の絶対過半数によって審議を打ち切って採決に踏み切る(=フィリバスターを阻止する)ことが可能だ。

もっとも、予算関連法案に関しては上院でも審議時間を制限できる。つまり、過半数の賛成で法案を可決することができる。審議が延びて、政府機能が停止する事態を回避するための措置だ。

トランプノミクスはどうなる?

減税やインフラ投資の位置付け

トランプノミクスは、所信表明演説や予算教書のなかで詳細が明らかになるかもしれない。トランプ氏の公約にあった、所得税や法人税の減税、資産税の廃止、米企業の海外利益の本国送金への課税を一時的に低い税率で認める本国投資法(HIA)などは、単独の法案あるいは予算関連法案として、議会で審議されるだろう。インフラ投資は主に運輸やエネルギーなどの歳出法案に盛り込まれることになりそうだ。
メキシコの「壁」も、トランプ大統領がメキシコに負担を求めているとはいえ、少なくとも一時的に予算措置が必要かもしれない。

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議会は、上院も下院も共和党が過半数の議席を抑えており、共和党のトランプ政権とは「統一された政府」を形成している(議会で過半数の政党と政権党が異なれば「分断された政府」と呼ぶ)。

共和党は財政規律を重視

とはいえ、トランプノミクスの実現はスムーズとは限らない。元来、共和党は「小さな政府」を志向し、財政均衡化など厳格な規律を求める傾向にある。近年、共和党内で勢力を増しているティーパーティー派はとりわけその傾向が強い。

トランプ氏が大統領選挙に勝利した後、共和党幹部からはトランプノミクスへのけん制発言が相次いだ。マコンネル上院院内総務(=上院ナンバー1)はインフラ投資を指して、1兆ドルの景気刺激は不要だと語り、ライアン下院議長(=下院ナンバー1)は、税制改革は財政中立(=減税は他の税収増や歳出削減で相殺)であるべきとの見解を表明している。ライアン下院議長はティーパーティー派からの支持が強い。

上院の議席の内訳は、共和党52、民主党48となっている。通常の法案であれば、上述の通り民主党のフィリバスターが可能であり、それが認められていない予算関連法案の場合でも、民主党全員と共和党3人の反対で法案を葬ることは可能だ(*)。トランプノミクスが財政赤字の拡大を招くとみられれば、共和党からも反対する議員が出る可能性はある

(*)上院の議長は副大統領が兼務する。全100議席の上院で票決が割れた場合(50対50など)は副大統領に最終投票権がある。実際、トランプ政権の教育長官の承認においては50対50だったため、ペンス副大統領が最後に賛成票を投じた。

予算はいつ成立するか

順調に進めば、議会の予算審議は夏休み明けにヤマ場を迎え、10月1日の2018年度開始前に成立する。ただし、これはベストケース・シナリオだろう。議会審議が難航して予算成立が年度開始後にズレ込む可能性は十分にあるし、審議の過程で減税やインフラ投資が修正されて、財政中立に近いもの(=景気刺激効果が小さいもの)に変容する可能性もありそうだ。

例外はブッシュ減税

例外的に迅速に成立したのが、2001年と2003年のブッシュ(ジュニア)減税だ。2001年経済成長減税調整法(EGTRRA2001)はIT株バブル崩壊後のリセッション(景気後退)のさなかに成立した。2001年1月に就任したブッシュ大統領は4月上旬に予算教書を発表、減税法案は5月下旬に議会を通過して6月上旬に成立した。さらに、EGTRRA2001を補足強化する2003年の雇用成長減税調整法(JGTRRA2003)も同年5月末に成立している。

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金融市場への影響

金融市場は通商問題に関するトランプ政権の姿勢とともに、減税やインフラ投資の動向に注目している。2月13日時点では、予算教書発表の日時だけでなく、発表されるかどうかさえ不透明だ(ただ、2月9日に米航空会社幹部と面談したトランプ大統領は、2-3週間以内に大胆な減税を発表する意向を表明している)。

金融市場が、税やインフラ投資を現実可能なパッケージとして意識するのは、予算教書の発表以上に、議会で予算決議が採択された時かもしれない。ただ、予算決議の採択はメドとされる4月15日よりも後ズレする可能性が高そうだ。それまでには、3月16日に現在停止中のデットシーリングが復活、4月28日に継続予算が期限切れ等のイベントが控えている。

財政に対するトランプ政権と共和党議員の姿勢に差異があるとしても、議会がデフォルトや政府機関の一部閉鎖を脅迫材料として予算交渉を行うとは考えにくい。それでも、デフォルトや政府機関の一部閉鎖の可能性が少しでも高まったと判断すれば、金融市場はリスクオフを強めるだろう。株安、国債高(=金利低下*)、米ドル安を招く可能性が高い。

(*)国債がデフォルトする可能性が意識されるのに国債が買われる(=金利が低下する)というシナリオには違和感もあるが、2011年8月にデフォルト懸念が高まった時に国債価格が上昇した経験がある。

米経済のファンダメンタルズは比較的良好だ。労働市場は完全雇用に近く、物価はFRBの目標とする2%に接近しつつある。そのため、FRBは2017年中に複数回の利上げを実施するとの見方が有力だ。そのうえで、減税やインフラ投資が実現するならば、一段と景気が刺激されることで利上げペースは加速しそうだ。そして、企業収益の押し上げ要因になるとの期待も加わることから、その場合は株高、国債安(=金利上昇)、米ドル高になる可能性が高い。

もっとも、トランプノミクスと80年代のレーガノミクスの類似性に鑑みれば、減税やインフラ投資を背景に米ドル高が進み過ぎるようであれば、米国が中心になってその修正を企図する「プラザ合意II」があってもおかしくないだろう。

 

(チーフエコノミスト 西田明弘)

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