今月の特集

トランプ政権始動! 為替市場は何に注目すべきか?

2017年01月

はじめに

1月20日、トランプ氏が大統領に就任し、いよいよトランプ政権が本格的に始動する。2016年11月8日の当選直後から、「トランプ・ユーフォリア(高揚感)」のごとく示現したドル高、株高、金利高(債券価格は下落)は、足元で下落に転じたようにもみえる。果たして、トランプ政権誕生後に再び「ラリー(上昇相場)」がみられるのか。それは、トランプ政権が市場の期待に応える政策を打ち出せるか、共和党が支配する議会と協調してそれらを実現できるかにかかっているのではないか。

 

スケジュール:最初の100日間が重要な理由

まずは、トランプ氏の大統領就任前後からの政治日程を確認しておきたい。

大統領の就任に先立つ1月3日に新議会が召集されており、一連の閣僚候補の承認公聴会(上院)が10日に始まった。トランプ氏が公約を実現すべく選択した閣僚候補には、政治経験に乏しく、利益相反などの問題が指摘される人物も含まれる。彼らが何を語るのかは傾聴に値するだろう。
議会は上院も下院も共和党が主導権を握っており、よほどのことがない限り閣僚指名が否決されることはないだろう。ただ、承認がスムーズに行われるかどうかで、トランプ政権と議会の距離感がある程度わかるかもしれない。

20日の就任式から間を空けずに、トランプ大統領は議会で所信表明演説(例年の一般教書演説)を行うはずだ(1/17時点で未定)。そこでトランプ政権が最優先に取り組む課題が明らかにされよう。
議会での法案審議に時間がかかることもあって、トランプ大統領は就任早々から大統領令(executive order)を発動して、公約実現に向けてスタートダッシュを目論むかもしれない。例えば、オバマケア(医療制度)を廃止して代替制度を作る前に、オバマケアを骨抜きにするような大統領令が発動される可能性はあるだろう。

2月に入ると、インフラ投資を実行するための2018年度(*1)の予算教書が発表される。所得税や法人税の減税、資産税の廃止なども盛り込まれる可能性が高い。予算教書を受けて、議会で予算審議が開始される。そして、3月16日に停止中のデットシーリング(債務上限)が復活するため、それを引き上げる立法措置が必要になる。さらに、2017年度の暫定予算が失効するため、4月28日に年度残り(9月末まで)の予算措置が必要になる。

(*1)2017年10月から18年9月までの1年間。

当然ながら、トランプ政権が打ち出す政策は主に法案(*2)として、随時議会で審議されることになる。全く関係ない法案の付帯条項として成立が目指されるケースもある。

(*2)米国では議員立法が基本であり、政権の意を受けて議員が法案を提出することになる。

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大統領就任式から4月末までの100日間は「ハネムーン(蜜月)期間」といわれ、新しい大統領と議会やメディアが良好な関係を作るとされる。トランプ氏は選挙期間中から多くの敵を作ってきたため、「ハネムーン期間」があるかどうかも不透明だが、最初の100日間にトランプ政権に何ができるかは、その後の政権運営を考える上でも重要だ。

 

「意外に悪くない大統領」か、「トランプ・リスク」か

トランプ大統領はどのような政権運営を行うだろうか。これまで想像の域を出なかったものが、いよいよ現実に展開することになる。

トランプ大統領は「大統領らしく」振る舞い、「意外に悪くない」と評価されるだろうか。その場合は、現実的な政策を追求。閣僚には優秀な実務者を配して、議会とも協調路線を取り、自身はオーガナイザーに徹するだろう。大成功した実業家として経験を活かして、物事を着地させることを優先するだろう。

それとも、トランプ大統領は、過激な選挙公約を強引に実現しようとするだろうか。衝動的な行動で、ワシントンに混乱をもたらし、世界を巻き込むのか。その場合は、大企業、ワシントンの政治家、移民、カナダやメキシコなどの近隣国、中国や日本などの貿易相手国、いずれに対しても強硬姿勢で臨むことになろう。「トランプ・リスク」が現実のものとなることを意味する。このケースでは、共和党が議会を握っているといえでも、協調は容易ではないだろう。

「トランプノミクス(トランプの経済政策)」を囃(はや)して活況を呈した(ようにみえる?)金融市場を別とすれば、トランプ大統領に対する期待値は高くないだろう。そのため、「意外に悪くない」との評価を得るのは難しくないかもしれない。
しかし、閣僚人事(後掲)や、就任前に乱発されているTwitterのメッセージなどをみれば、少なくとも就任早々は後者の面が強く出てくる可能性が高いように思われる。

 

「トランプ政権」を占う材料とは?

トランプ大統領の発言:

トランプ大統領は公式、非公式に様々な発言を行うだろう。ただ、衝動的なものも多いだけに、どれが本気で、どれがブラッフなのか、判断は難しい。また、就任前と同じようなペースでtwitterの発信をするならば、国内だけでなく、各国外交筋や金融市場が右往左往することになりかねない。

 

閣僚・政権スタッフの人事:

トランプ大統領が指名した閣僚候補や政権スタッフを概観すると、以下の点が指摘できそうだ。

まず、ビジネス出身者が多い。トランプ大統領は選挙戦では大企業やウォール街(金融業界)と対峙する姿勢を見せたものの、大企業のCEOやゴールドマンサックス出身者が指名されている。果たして、中低所得層に手厚い政策が打ち出せるのか、問われるところだろう。利益相反などが問題になるケースも出てきそうだ。

通商関連を中心に、諸外国に厳しい、特に対中強硬派も目に付く。また、エネルギー長官には同省の廃止を提案した人物、厚生長官にはオバマケアを強く批判する人物をあてるなど、規制ルールを壊そうとするかの人選も行っている。さらに、退役軍人も多く、シビリアン・コントロールが十分に機能するか、疑問視される面もありそうだ。

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議会との関係:

大統領が共和党であり、議会の上下両院で共和党が過半数を占めるため、久々に「統一された政府(unified government)」が誕生する。大統領の政策提案は主に議会で立法化されるため、その多くが実現しやすい状況にある。ただし、トランプ大統領は選挙戦中から共和党主流派と対立して、禍根を残してきた。
トランプ大統領の提案した減税やインフラ投資に対して、上下院の共和党リーダーは、「財政中立であるべき」「大規模な景気刺激は不要」との見解を表明している。「統一された政府」が大統領提案を立法化して実現するかどうかには、不透明な部分も多い。

 

FRBとの関係:

トランプ大統領は選挙戦中に、イエレンFRB議長(任期は2018年2月まで)を再任しない意向を表明している。これに対して、イエレン議長は「(完全雇用に近い状態で)景気刺激は不要」と発言して、意趣返しをした格好だ(2016年12月14日の記者会見)。
FRBは本部の7人の理事のうち2人が空席になっている。トランプ大統領が早い段階で自身に近い人物を理事に指名するかもしれない。そのうちの1人はイエレン議長の後任含みとなる可能性があり、注目されるところだ。

 

トランプ政権のアジェンダ(検討課題)

<以下の点について、今月の特集16年11月号「トランプ大統領誕生でどうなる?為替市場の注目点は?」の「注目ポイント」をご参照ください>

・「トランプノミクス」は機能するか
・自由貿易から後退するか
・金融市場のかく乱要因か
・外交・安全保障はどうか

 

為替相場はどう反応するか

【ベースライン・シナリオ】

「ベースライン(基本)・シナリオ」は、現状が維持される場合、言い換えれば「トランプ要因」がマーケットに対して中立(=プラスにもマイナスにもならない)とした場合のシナリオのこと。

米景気は比較的堅調であり、ほぼ完全雇用を達成している。賃金の伸びが高まる兆しもみえており、FRBは2017年内に2ないし3回、あるいはそれ以上の利上げに踏み切る可能性が高まってきた。他方、日本は物価の押し上げに成功しておらず、日銀は金融緩和を継続する方向。欧州では、銀行の不良債権問題を抱えて、ECBも金融緩和を続ける可能性が高く、英国もEU離脱の交渉が始まることを考えれば、BOE(英中銀)が利上げに舵を切る可能性は低そう。

かかる状況下では、米国が主導する形で株高や金利高(債券価格は下落)が示現し、為替市場では米ドルが他通貨に対して上昇するシナリオを基本として想定することができそうだ。

 

【2つのシナリオ】
大統領の正しい評価は後世でしかできないかもしれない。やや乱暴ながら、以下では、トランプ政権がマーケットに対して「フレンドリー」なのか、「アンフレンドリー」なのかという点に限って、2つのシナリオを提示した。当然、実際にはその中間的なものになるかもしれない。また、4年間の在任中に「フレンドリー」から「アンフレンドリー」へ、あるいはその逆にシフトすることもありうる。ここでは、頭の整理のために敢えて両極端のシナリオを想定した。

 

シナリオ1:「マーケット・フレンドリー」なトランプ政権

上述の政権運営スタイルでいれば、「意外に悪くない大統領」に相当するケースだ。「トランプノミクス(トランプ大統領の経済政策)」が経済成長や雇用の創出に貢献する。
所得税減税や資産税の廃止により、消費が活発化。法人税減税が企業利益の増大につながり、株価を押し上げる。HIA(Homeland Investment Act、本国投資法)により米企業の海外利益が国内に還流し、企業の設備投資が促進される。インフラ投資は需要を創出するだけでなく、経済の効率化や生産性の向上にも寄与する。

この「バラ色」のシナリオが実現するためには、いくつかの条件が必要だろう。まず、経済成長による税収増や非効率な歳出の削減によって、財政赤字の拡大が最小限にとどまり、財政の規律が守られること。そして、規制緩和などを通じてインフレが抑制され、FRBの利上げが緩やかなペースとなること。それらを通じて、長期金利の上昇が抑制されたものとなること、などだ。

また、高率の関税や「国境税」の賦課が見送られて、自由貿易が維持されること。さらには、TPP交渉脱退やNAFTA再交渉の方針が見直される必要もあるかもしれない。それらは輸入インフレの回避にも役立つ。このシナリオでは、労働市場や消費市場の縮小につながりかねない過度な移民規制やメキシコ国境の「壁」も実現しない。

 

シナリオ2:「マーケット・アンフレンドリー」なトランプ政権

「トランプ・リスク」が表面化するケースだ。「トランプノミクス」の景気刺激効果を、それ以外の景気抑制効果が上回る。
減税はその効果が富裕層や大企業に集中することで、期待されるほどの経済成長や雇用創出をもたらさないかもしれない。インフレの高進によってFRBの利上げペースは加速し、財政赤字の拡大を背景に長期金利は大幅に上昇。これは、いわゆる「悪い金利の上昇」であり、それ自体が景気に急ブレーキをかけよう。株価にも下落圧力が加わりそうだ。

高金利の下で、米ドルは上昇するかもしれないが、それは米企業の対外競争力の低下や貿易赤字の拡大をもたらしかねない。そうした米ドル高は持続不可能であり、トランプ政権から強いけん制がなされたり、米ドル安誘導を試みる第二の「プラザ合意」につながったりするかもしれない。
高率の関税や「国境税」などの内向きの政策は保護貿易主義の台頭をもたらし、世界貿易にも悪影響をもたしそうだ。

 

【トランプ大統領に学習効果はあるか】

トランプ次期大統領の最近の発言(1/11記者会見を含む)や閣僚人事をみる限りにおいては、少なくとも初期段階において、トランプ政権は上記シナリオ2の方向に進む可能性が高そう。そうした中で、政権や各省庁の実務レベル、あるいは議会の良識派が、シナリオ1を実現すべく、軌道修正を促すことができるかが、大きな鍵となろう。

また、「トランプ大統領」に柔軟性や学習効果があるのかも重要なポイントだろう。93年に就任したビル・クリントン大統領は現職大統領(ブッシュ父)を破った勢いを駆って、国民皆保険など野心的なリベラル政策を打ち出した。しかし、ヒラリー夫人を責任者にした国民皆保険の試みが頓挫(とんざ)し、さらに2年後の中間選挙で民主党が議会の主導権を失うと、クリントン大統領は中道に舵を切り直し、財政健全化や経済の活性化などの成果を上げた。
為替関連では、日米通商摩擦が続くなかで、円高圧力を加えていたベンツェン財務長官から、95年に「強いドルは国益」を繰り返すことになるルービン財務長官に交代したことが興味深い変化だった。

 

(チーフアナリスト 西田明弘)

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